プラスアクト

インタビュー

土屋太鳳   (つちや・たお)

来夏公開の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』で巻町操役での出演が決まった、今最も注目される若手女優のひとり、土屋太鳳。彼女が映画初主演を果たした『アルカナ』は、“人間の本体”とその“分身”が共存する世界で、分身が本体の心臓を奪い、乗っ取ってしまうというホラー・サスペンス映画だ。霊能力を持つ不思議な少女マキと、マキの本体であるさつきの二役を演じた土屋に、撮影の思い出と得たものを訊いた。

撮影/中根佑子 文/池上愛

プロフィール 土屋太鳳(つちや・たお)


1995年2月3日生まれ、東京都出身。07年『トウキョウソナタ』でスクリーンデビューを果たす。主な出演映画は『釣りキチ三平』(09年)、『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』(10年)、『日輪の遺産』(11年)、『映画 鈴木先生』(12年)。ドラマでは『龍馬伝』(10年)、『鈴木先生』(11年)、『桜蘭高校ホスト部』(11年)、NHK連続テレビ 小説『おひさま』(11年)、『黒の女教師』(12年)、『真夜中のパン屋さん』など。
公式ブログ http://ameblo.jp/tao-tsuchiya/

――『アルカナ』のお話が来た時は、どういう印象を持たれましたか?

「今までは、『鈴木先生』の時のように、生徒の中のひとりという役柄が多かったので、主役を演じさせて頂くことは、とても責任があるなと思いました。自分だけだと絶対に乗り越えられないので、監督やスタッフのみなさんに相談しながらやっていこうと思っていました」


――主演という重みを感じた?

「うーん…今までとは違う気持ちではありましたね。零号試写に出席したのですが、緊張でほとんど覚えていないんです(笑)。『日輪の遺産』という映画に出させていただいた時、見に行った試写会場と、今回の試写が同じだったんです。『日輪の遺産』の時は、生徒役として見ていましたが、今回は主役なので真ん中に座らせていただいて。それだけで緊張してしまい、ずっとそわそわしていました(笑)」


――ははは(笑)。

「試写は満席だったので、本当にどうしようと…。みなさんどういう反応するのかな? 途中で眠る人がいるんじゃないだろうか? という不安もありました。そんな記憶ばかりで、自分がどう映っていたのかは全然覚えていません。なので、前売りチケットをひとりで買いに行きました。しっかりお金を払って見に行こうと思って」


――自分で買ったんですか?

「はい。しかも特典の生写真ももらっちゃいました(笑)」


――ご自分の生写真ですね(笑)。ホラー要素のストーリーはいかがでしたか。

「実際に撮影している時は、本当にホラーになるのかなぁと思っていたんです。というのも、撮影現場は凄く楽しくて温かい現場だったので。でも、映画はホラーになってましたねぇ(笑)。ただ、演じている私の感覚と、観て下さる方々の感じ方って違うじゃないですか。逆に質問したいんですが、映画、どうでしたか?」


――逆質問ですか(笑)。私は、冒頭の演出が凄く怖かったですね。音楽とリンクして映像がパシャパシャと切り替わっていくという。オープニングから引きつけられました。

「そうなんですね。よかった~。みなさん“凄くよかったよ”と言って下さるんですが、本当なの? って思ってしまうんです(笑)」


――まだ客観的には観られないですか?

「なんか恥ずかしいんですよね、自分の演技を観るのが」


――『アルカナ』以外にも、これまでたくさん映画やドラマに出演されているのに?

「はい、まだ恥ずかしいです。特に、モニターで自分の演技をチェックするのが恥ずかしいんです。ちゃんと見ないと自分の演技がチェック出来ないんで、しっかり見るんですけど。なかなか慣れません」


――土屋さんが演じた役は、マキと長瀬さつきの二役。本体(人間)と分身が共存する世界で、今作ではさつきが本体、マキが分身という役どころでした。演じてみての感想は?

「さつきの中にあるマキ、マキの中に見えるさつきという設定なので、決して別人格ではありません。あくまでもマキはさつきの分身だから、全く別の人間として演じるのではなく、少し似た部分を意識しました。例えば、マキが自分の感情をコントロール出来なくなるシーンは、さつきが暴れる雰囲気に似せようとか。ちょっとした雰囲気を変えるだけで映画の空気も変わる作品だったので、そこは意識しています」


――さつきとマキを演じ分けるために、見た目の部分で変化をつけたことは?

「さつきは元々マキのような女の子でしたが、環境によってどんどん歪んでいってしまうんです。その歪みを出すために、顔も歪める意識をしていました」


――歪めるとは?

「正面から見ないというか、少し斜め下から相手を見るというか…今やろうと思ってもなかなか出来ないですね(笑)」


――そうえいば、そんな視線でしたよね、さつきって。

「撮影が終わってだいぶ経ったので、ちょっと忘れてしまいました。次の新しい作品に入ると忘れちゃうんですよね。撮影後に学校に行く時は、ひきずってしまうんですけど…」


――さつきを学校で引きずったら、大変そう(笑)。

「ふふふ(笑)。そうですね。ちょっとした表情に出るみたいですね。今は映画『るろうに剣心』の作品に入っていて、私は巻町操という役を演じるんですが、撮影終わって家に帰ると、凄く聞き分けのいい女の子になってるんです! いつもは家族から言われることを“え~”とか言ってるくせに、“はい、やります!”みたいになっちゃう(笑)」


――(笑)。マキに関してはいかがですか?

「マキはさつきの分身という立場なのですが、人間味があるように演じました。分身だけど、ちゃんと生きているんだっていう風に…」


――その微妙な雰囲気で、さつきとマキを演じ分けるのは大変ではありませんでしたか?

「そこは衣裳とメイクが助けてくれました。もし同じようなメイクで、似た服を着ていたら、全然違ったと思います。この衣裳を着たらマキ、この衣裳を着たらさつき、みたいに、スッと変わることが出来ました」


――台本を読む時は、どんな感じでマキとさつきを読み分けていたんですか?

「最初は、全体を通して読んでいました。マキが“私は誰…?”と言ったら、さつきをイメージして“わかんねぇよ!”と言ったり。そのあとに、マキとさつきを演じて下さるダミーの方と一緒に読み合わせをやりました。撮影時、私がマキを演じている時は、さつきは別の方に演じていただいて、さつきを演じる時は、マキは別の方が演じているんです。そこは少し不思議な感じでしたけど、さつきとマキを演じて下さった方が、凄く私の演技に似せて下さって、とてもやりやすかったです」


――ブログに撮影期間が短かったと書かれていますが、実際はどれくらいの期間だったのですか?

「2週間です。短い期間だったのが逆にありがたかったですね。短いぶん、集中して世界観にのめり込むことが出来ましたから」


――原作であるマンガは読まれましたか?

「はい。しっかり読みました。参考としてもそうですが、お守りとしてロケにも持って行きました」


――原作を参考にされた部分もありますか?

「あります。このシーンではマンガはどんな表情してるのかな? とよく確認していました。そういうのって凄く大事だと思うんです。原作の『アルカナ』ファンの方々も大事にしたかったので、しっかりと読み込みました」


――監督や共演者の方の話も聞かせて下さい。

「山口義高監督は本当に素敵な方でした。そして、ちょっぴりシャイな方です(笑)。私がちょっかいだすと、“うるさいなぁ~”と言いながらも少し嬉しそうで(笑)。そして映画への愛が凄く詰まった方でした。私よりも震え方がうまいんですよ! そこは負けてられないなと思って、震えを頑張りましたね(笑)。監督のことはとても尊敬しているので、監督の求めることは、しっかりとやりたい! という気持ちでした。ほんと、山口監督素敵だったなぁ」


――監督の要求で「これはなかなか難しいぞ」と思うことは?

「ありません。凄くわかりやすい説明ばかりだったので。どのシーンも具体的に、監督が表現して下さるんです。怖がるシーンも、監督が自ら怖がって下さいます。キャリアが未熟な私がこんなことを言うのもおこがましんですが、監督によって現場の雰囲気が変わると思うんです。『アルカナ』はもともとの現場の雰囲気がよかったのはもちろんですが、その雰囲気を更に引き出して下さったのが監督でした」


――そうなんですね。

「とても素敵な現場だったんです。『アルカナ』の撮影時期は、ドラマ『真夜中のパン屋さん』と重なっていたので、映画の撮影をして都内に戻ってドラマを撮り、また映画の現場に行くことを繰り返していました。『アルカナ』のみなさんが、毎回“おかえりなさい”と声をかけてくださったのが印象的で、とても嬉しかったですね。あと、撮影期間中に助監督さんが足を骨折されてしまって、一時期現場を離れていたことがあったんです。その時は、自分の中の大事なピースが欠けた気分になって、とても寂しかったですね。途中から復帰されたのですが、その時は私が“おかえりなさい”と言いました」


――心が温まるお話ですね。では、刑事である村上役の中河内雅貴さんを始め、共演者の方々は?

「中河内さんは、いい意味で多面性がある方だなと思いました。顔合わせの時は病み上がりだったようで、結構無口な印象を受けたんです。だけど、実際にクランクインを迎えると、物凄く元気な姿で(笑)。演技の質問にも真摯に答えて下さり、本当に素敵な方でした」


――ふたりで演技について話すことが多かったのですか?

「さつきとマキのシーンを一緒に考えてくれたんですよ。“ここはもっと説得するようにしたほうがいいんじゃないか?”とアドバイスをくださいました。谷村美月さんは、高校時代の話を聞かせて下さいました。岸谷五朗さんは、ちょっと強面な印象を初めは持っていたんですが、“岸谷です~よろしくお願いします!”と、岸谷さんのほうから握手して下さって! でも演技になると、目の色がガラっと変わるんですよね。その瞬間に周りの空気もすっと変わるんです。目で演技をされる方だなぁと思いました。吸い込まれそうというか…」


――求心力がある感じ?

「そうですそうです! だからその演技を参考に、『リミット』というドラマの最終回では、目で訴える演技を心がけてみました」


――すぐにお芝居に活かされたんですね! そういえば、

「霊は人間の心」とブログで書かれていましたよね。その言葉が凄く印象的でした。

「霊は、元々は人間や動物の心なんだ、と私は思っています。だから廃校に入る時は、“よろしくおねがいします”と言うようにしていました。それが霊に対する礼儀なんじゃないかって。私達人間も、勝手に土足で踏み込まれたら、嫌な気分になるじゃないですか。霊もそれと同じだと思います」


――『アルカナ』での経験は、土屋さんにとってどんなことをもたらしたのでしょう?

「そうですね…『真夜中のパン屋さん』の時って、セリフが物凄い量だったので凄く苦労したんです。毎回セリフを覚えるだけでも大変で…。役どころ的には、心を閉ざしていた女の子が、どんどん柔らかくなって感情をさらけ出すというシーンが多かったんですが。その時の私は、演じることが少し怖くなっていました。もちろんお芝居は楽しいんですけど、ちゃんと自分は表現出来ているんだろうか、ちゃんと付いていけてるんだろうかと、恐れていて…。ドラマでは毎回走るシーンがあって、走っている時もそのことばかり考えていました。でも、そういう悩みがあったからこそ、今の自分の演技があるんだなって思うんです。『アルカナ』でさつきとマキを演じて、『アルカナ』の世界に浸かって…、改めて他者の人生を生きることは、難しいけど凄く楽しいことだと思うことが出来ました。『真夜中のパン屋さん』は、お芝居の再スタート。そして、スタートを切って、改めてお芝居の楽しさを実感させてくれたのが『アルカナ』でしたね」


――前回、プラスアクトのWEBインタビューにご登場されて1年が経ちます。最後に、この1年での、土屋さんの変化を教えて下さい。

「凄く変わったと思います。一番変わったのは、大学に入学したことです。そこでは、色んな地方の子達と知り合うことが出来ました。もちろんお仕事をさせて頂く中でも、スタッフさんや共演者の方々とたくさん出会いました。人との出逢いも、大きな変化ですね。そして、年齢が上がるにつれ、色んな感情の引き出しが増えました。今のほうが、心の引き出しは増えています。それは演じていても実感出来ていると思います」


『アルカナ』

監督:山口義高
出演:土屋太鳳 中河内雅貴 Kaito 植原卓也 谷口一 谷口賢志 野口雅弘 蜷川みほ 山口祥行 谷村美月 岸谷五朗
原作:小手川ゆあ『アルカナ』(角川書店)
配給:日活
公式サイト:http://arcana-movie.com/
(c)小手川ゆあ・日活 2013
謎の連続大量殺人事件を追う刑事・村上は事件現場で記憶を失った少女・マキに出会う。マキは、事件の被害者である<死者たちの苦しむ声>に導かれて、気づけば事件現場にいたという。しかし、凄惨な事件現場の唯一の生き残りとしてマキは容疑者とされてしまう。幼いころから<不思議な現象>に悩まされてきた村上だけがマキの言葉を信じ始めた矢先、再び事件が起きる…。

ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

2024年03月
12345678910111213141516171819202122232425262728293031
« »


アーカイブ


最近のインタビュー記事