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インタビュー

川口覚   (かわぐち・さとる)

長澤まさみ主演×倉持裕作・演出 M&Oplaysプロデュース『ライクドロシー』。オズの魔法使いのドロシーのような、かわいくたくましいヒロインと、囚人たちが奮闘するコメディー作品が誕生した! 川口は、物語のキーになる重要な役どころを演じるというが…。様々な角度から舞台の魅力、川口自身の魅力を探った。

撮影/中根佑子 文/池上愛

プロフィール 川口覚(かわぐち・さとる)


1982年1月9日生まれ。2004年、吉田修一氏が自ら監督・脚色した映画「Water」で主演の1人、圭一郎を演じ、本格的な活動をスタート。09年より演出家、蜷川幸雄氏主宰の「さいたまネクストシアター」に参加。そのほかの主な出演作品に映画「SP THE MOTION PICTURE革命篇」「すべては君に逢えたから」、連続テレビ小説「純と愛」、舞台「シンベリン」「ハムレット」などがある。

――『ライクドロシー』の脚本を読んでみた感想を教えて下さい。

「とにかく脱獄囚の3人が面白いんですよ。特に面白いことをしようと狙っていらっしゃる訳ではないんでしょうけど、台本が既に面白いから、セリフをそのまま言うだけで笑えるんですよね。僕の演じるスラーはコメディ要素があまりないので、見ていて羨ましいです(笑)。基本的に、みなさん面白い役ばかりなので、僕ひとりだけ真面目で大丈夫なのか? と不安があったんですけど……いいんでしょうね、これで(笑)。稽古中は、凄く焦りもあったんです。本当に僕だけ真面目でいいのか? みんなに置いて行かれるんじゃないかって」


――そういう不安は、コメディだからですか?

「そうですね。シェイクスピアの喜劇(『じゃじゃ馬馴らし』/演出・蜷川幸雄)で道化を演じたことはありますが、喜劇とは全然違います。その時は、イタリアのアルレッキーノという伝統芸能を勉強しろと言われ、それを踏まえて演じていました。その時は道化の役なのに、ガッチガチになってしまって」


――どのようにガチガチになってしまったんですか?

「『じゃじゃ馬馴らし』は初の蜷川作品だったんですけど、千本ノック並みに演出を受けていました。キャスト全員が見ている中、僕だけ舞台上に残されて、ずっと演じるという…。道化役なのに、全然ふざけられてないというか。一生懸命、必死にふざけているように見せていたというのかな。心から道化になれていなかったと思います。その当時は、言われたこと全部メモしていたんですけど、そのメモ書きにとらわれてしまって、頭でっかちになっていました。そういう経験があるので、今はあまりメモをとらないようにしているんです」


――そのほうが、自然に役に入れますか。

「僕の場合は、吸収しやすいですね。もちろん絶対忘れちゃいけないことはメモしますけど、演出の方が言われたことは、体で覚えるようにしています。この舞台の稽古では、メモは取っていないんですが、台本は物凄く読んでるんです。だから演者のみなさんに『なんでそんなに台本を読むの?』と聞かれたことがあって。僕は『台本に答えがあると思うから』って答えるんですけど、みなさんは『作風を感じ取ってやれば大丈夫だよ』とおっしゃる。でも僕は…そうやって今まで勉強してきた人だから(笑)! まだ頭でっかちなのかもしれないですね」


――セリフも動きも全部覚えているけど、台本を読まれるということですよね?

「そうです。全部覚えてるんですけど、見てしまいます。あと、ほかの役者さんの演技を見ながら、台本を照らしあわせて勉強することもあります。『なんでこう動いたんですか?』と聞くと、『なんも考えてなかった』と言われるんですけどね(笑)。そういう感じまで持ってくるには、自分自身に進化が必要なんでしょうね。どうやったら力が抜けるのか…悩んでいるところです」


――先程、ご自身の役だけ真面目で大丈夫だろうか? とおっしゃいましたが、そのあたりはどのように演じようと?

「スラーは、島の市長・ザポット(銀粉蝶)の息子という設定で、ストーリーの後半に色んなことがわかってくるんですけど、その“ある秘密”があることで、演じるのは凄く難しいものでした。スラーを演じながらも、“ある秘密”による気持ちが頭をよぎる…。それで、演出の倉持さんに『後半の部分を意識して演じたほうがいいんだろうか?』と相談したんです。そしたら『スラーのまま演じればいいんだよ』とおっしゃったので…、スラーの街をよくしようという心情のまま、演じようと思いました」


――倉持さんはどういう演出をつけられるんですか?

「倉持さんは物静かな印象だったんですけど、実際にお話すると物凄く面白いんですよ。台本が面白いはずですよね。で、役者さんが演じる動作やセリフは面白いんですけど、そこにプラスアルファの面白さを追加してくるんです。そのネタ全部が爆笑です。僕ひとりでゲラゲラ笑っています。まぁ、スラーはそういう笑える演出はそんなにないんですけど(笑)」


――敢えて、上げるとすれば?

「芸術家と名乗っている囚人達を怪しみながら、『三人の交遊録を伺ってみては?』みたいなセリフがあるんですけど、そこは3人への怒りを抑えた状態なんです。倉持さんは『手を震わせながら、クシで髪を梳かしながら言ってみて』と。それでプルプル震えながら演じたんですけど、稽古場は大爆笑でした(笑)」


――なるほど(笑)。

「素晴らしい演出だなぁと思いました。囚人役の高橋一生さん、片桐仁さん、塚地武雅さんも本当に面白いです。塚地さんなんか、見ているだけで面白いです。見た目がまん丸なので、かわいいなぁ~という変な愛情も生まれています(笑)。面白いといっても、役の雰囲気が見事にわかれているので、そこも魅力のひとつです。倉持さんの脚本は、あて書きの部分もあるらしいので、キャラクターが魅力的に見える理由は、役者のみなさんの魅力でもあるのかもしれません。でも、ということはスラーは冷たい人間だから、僕は冷たく見られているのかな(笑)」


――(笑)。でも、スラーの見方が、物語が進むに連れて変わってきますからね。

「はい(笑)。スラーは島をよくしたい、ひとつにしたいという真っ直ぐな思いがあります。そこが役を演じる上での肝になってくるので、そこはしっかりと固めています。あとは、セリフのテンポが早いので、セリフの掛け合いも楽しいですね。今までは、しっかりとセリフを言うものが多かったので、みなさんとセリフを言い合うのが楽しいです」


――脚本を読ませていただいたんですが、読んでて笑ってしまいました。

「でしょう? 脚本で笑うって結構凄いことですよね。僕自身、脚本の時点で声だして笑ったのは初めてです。そのぶん、演じるほうのプレッシャーでもあるんですが(苦笑)」


――母親である市長ザボット役の銀粉蝶さんと、からみが多いですね。

「そうですね。銀さんも…とっても面白いです。稽古中に色んなアドリブを仕掛けてくるので、その度に笑いを堪え切れず吹き出していました。しかも自分のアドリブに自分で笑っていましたからね(笑)。ある意味、一番役に挑戦されている気がします。銀さんの姿勢を見ていると、本当に感心させられるといいうか…自分はまだまだだなと思わずにはいられません」


――川口さんは、今、役者としての立場を振り返って、自分自身はどのような立ち位置にいらっしゃると思いますか。

「全てにおいて、まだまだだなと思います。去年『オイディプス王』で主役をやらせて頂いて、ああいう大役をやることで、もっと先の演技が見えるのかと思ったのですが、もっと演技に対して迷うことが多くなりました。それは、主役をやったことで出来た悩みなのだと…。贅沢な悩みだとは思いますが、大役を演じたことで、もっと演技に対する奥深さを知ることが出来たので、まだまだ頑張らなければならないと思います」


――なるほど。活躍を楽しみにしています!

「…はい(笑)。頑張りたいと思います」


「ライクドロシー」

作・演出:倉持裕
出演:長澤まさみ 高橋一生 片桐 仁 塚地武雅 川口 覚 竹口龍茶 吉川純広 銀粉蝶.
公演情報はこちら http://mo-plays.com/likedorothy/

ひょんなことから、とある屋敷を訪れたドロシー(長澤まさみ)と、ヒロインを助ける3人の小悪党(高橋一生、片桐仁、塚地武雅)。4人は町の平和のため、屋敷に住む「魔女」と呼ばれる女主人をこらしめることに。あるひとつの目的に向かって絆を深めていく過程を、緻密な筆致と、スピーディーな場面転換と鮮やかなどんでん返しで描くファンタジー!

2024年03月
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