「バスルーム」「玄関の外」「郵便ポストの中」などを、携帯電話越しに“のぞき見て楽しむ”BeeTVバラエティ『のぞき穴』。壁に携帯電話をあてて視聴することで、まるで本当に壁の向こう側をのぞき見しているような臨場感がある、新しい試みの番組だ。『荒川アンダー ザ ブリッジ』の飯塚健監督が、この『のぞき穴』で初めてのショートコントに挑戦した。映像は全て長回しのワンカット撮影。編集を駆使しリズム感のある映像を作り出す手法とは真逆の演出で、飯塚監督は“ワンカット”の面白さを再認識したという。その面白さとは――。
撮影/中根佑子 文/池上愛
――『のぞき穴』というテーマを訊いて、まずどういう感想を持たれましたか?
「最初に番組プロデューサーからこの企画を頂いて感じたのは、ケータイをかざすという設定は、今までにありそうでなかったなと。“のぞき見る”ことって、誰しもがやったことがあると思うんですよ。で、“のぞき見”という設定だったら、画は編集で繋ぐのではなく、ワンカットが面白いなと思ったんです。ワンカットだと当然制限が出てきますが、その制限の中でも面白いことが出来るんじゃないかと思いました」
――11月から配信中ですが、今までのエピソードで監督のお気に入りの回はありますか?
「第10回の『みんなが知っているアノ人をのぞく!』は好きですね。サンタクロースが実はこんなことをやっていたら…という設定ですが、完全にファンタジーの話です」
――実際にサンタがああだったら嫌ですけど。
「嫌ですね(笑)」
――アイデアは飯塚監督が考えたのですか?
「シチュエーションに関しては、会議で決めていきました。キャスティングは、リアリティーを出すために全員オーディションで決めています。というのも、有名な俳優さんをキャスティングしてしまうと、“のぞき見る”という設定から離れてしまう。例えば、隣の部屋にケータイをかざして見る時に、映像に登場するのが山田孝之くんだったら、それはもう隣の部屋じゃないですよね。それだと企画からズレてしまうのでは? ということで、役者は全てオーディションで決めました。先程のサンタの回や、郵便ポストの回(第8話 『郵便ポストの真実をのぞく?』)はファンタジーですが、基本的には、誰しもが疑似体験出来るようなストーリーにしています」
――『荒川アンダー ザ ブリッジ』など、飯塚監督は“編集で映像を繋いでいく”という印象が強いのですが、今回は全く真逆ですね。ワンカットで撮る面白さはどういうものがありましたか?
「編集は醍醐味のひとつですし、僕のそういった演出はカラーの一つでもあると思います。。だからといって、『荒川~』の全てがカットカットを取り集めている訳ではなくて、頭からお尻まで演じて貰ったお芝居を、“これはこっち、これはあっち”と編集して、ひとつの映像を作っています。だから今回の『のぞき穴』も、現場レベルでのやり方は変わりません。だけどワンカットでの撮影の場合は、現場の全てのやりとりを視聴者に観られてしまいます。となると、何が一番大切なのか? と考えながらやるので緊張感がハンパないんです。ストーカーの回(第4話 『情報社会の怖さをのぞく!』)は、一番尺が長く7分くらいあったんですが、あの回に関しては、ショートコントではなく演劇ですね。演劇とはどういうことかというと、お客さんが映画よりも高いお金を払って、2時間以上……言ってしまえばお腹がなるのを我慢してまで観てもらう。それに演者はセリフを絶対に忘れちゃいけない。でも人間だから、お腹もなるかもしれないし、セリフも飛ぶかもしれないという緊張感がずっと続く。それが演劇だと思います。ストーカーの回はその感覚に近いものでした。撮影場所も凄く狭かったので、スタッフ全員が息をとめて撮影して。僕も緊張してるしスタッフも緊張してる。もちろん役者も緊張する。ワンカットというのは、そういう緊張感があります。仕掛けごとがあるとなおさらです」
――のぞき穴って、修学旅行で男子生徒がお風呂をのぞくみたいなイメージがありますよね。『のぞき穴』の第2回も入浴シーンをのぞくというものでしたが、男性と女性では、のぞき見る心理は違うのかなぁと。
「違うでしょうね。逆にどういうのが見たいですか?」
――私はストーカーの回が一番面白かったです。見てみたいものは、隣人から怒鳴り声が聞こえてきたら、何やってるんだろう? とのぞき見たくなります。トラブルもののほうが、気になりますね(笑)
「あ~なるほど。それは確かに気になりますね。駅前などで男女がケンカしてる場面に遭遇すると、僕も聞き耳たててしまいます。シナハン(シナリオハンティング)だと思って、聞いちゃいますね。やっぱり生の声(=セリフ)ですし」
――そこから脚本に取り入れる?
「そうですね。常に探してますよ」
――ネタ帳みたいなものがあるんですか?
「芸人さんのノートじゃないですけど、面白いことがあったりすると、それを書き留めたりはしています。『荒川~』のドラマ版で、毎回冒頭に村長(小栗旬)がひとり語りをするシーンがあるんですが、あの部分はまとめていたストックのから使っています。哲学ストックから引っ張ってきました」
――哲学に興味があるんですか?
「なくはないですねぇ」
――ネタ帳は、興味があるものからまとめることが多いですか?
「そんなことはないです。なるべく食わず嫌いにはならないように心がけているので。音楽も基本的にはロックが好きですが、ジャズは聞きません、クラシックは聞きません、という訳ではないです。なるべく雑多に……そうだなぁ、レンタルビデオを借りるか、垂れ流しの物を観るかという感覚に似てるんじゃないかな? レンタルって自分が観たいものを選んで観るけれど、CSとかの映画専門チャンネルを観る時は、“このタイトルは知らないけど、観たら面白かった”とかあるじゃないですか。僕は後者で、色んなものを吸収したいというのがあります」
――だから、小説を書いたりPVを撮ったりと、活動が幅広いのですか?
「かも知れませんね。今回の『のぞき穴』も、僕は編集ありきだから、ワンカットならやらないっていうスタンスだと、この場はない訳です。でもそれだとつまらないし、やってみないとわからないじゃないですか。もちろんやったことないものにはリスクはありますけれど、何でもやってみたいですね」
――ワンカットの緊張感ということ以外に、何か新しい発見や気づきはありましたか?
「ワンカットの可能性を再認識しました。ちょうど『のぞき穴』の撮影をしている時に、『イロドリヒムラ』(バナナマン日村主演。第2回放送の演出を担当した)の撮影が重なった時期があったんです。今日はショートコントを撮影して、次の日は『イロドリヒムラ』を撮って、その次はまたショートコントを撮って……そうした時に、ワンカットで面白いと思ったことを『イロドリヒムラ』でも使ってみたんです。日村さんと酒井若菜さんがふたりで話しているシーンは、ずっとワンカットで撮影しました。『のぞき穴』も『イロドリヒムラ』も、『荒川~』の時と同じカメラマンなので出来たんですが…いやぁ、凄く面白かったですね。逆に、『のぞき穴』の最後のほうに撮ったヤツなんかは、ドラマの要素が働いてるかもしれない。そういう相乗効果がありましたね」
――もうひとつ聞いてもいいですか? 監督の音楽好きなところや、PVを撮られているという要素は、ドラマや映画を撮影するうえで、何か作用していますか?
「セリフのリズムは音楽の要素があると思います」
――リズムとは具体的にはどんなことですか?
「僕の台本って、Aという人間が12文字で喋ったら、次に喋るBという人間も12文字で喋ったりするんですよ」
――へぇ!
「12文字、12文字。4文字、4文字みたいに、リズムをつけてセリフを喋らせることはよくやります」
――以前、『荒川~』で桐谷美玲さんを取材させて頂いた時、「“このリズムで言って”と監督から指示されることが多かった」と話されていたことを思い出しました。やっぱり、そのほうが耳触りはいいですか?
「気持ちいですね。ただそういうリズムは編集で出来るんだけど、ワンカットだと編集で作れないですよね。そこは難しかったです」
――もう少し意識して『荒川~』や『のぞき穴』を観ればよかったです(笑)。
「ハハハ(笑)。まぁ、『荒川~』に関しては、俳優が演じた“間”の通りに繋いでいないですけどね。そういうリズムも全て編集で作っていきました」
――過去のインタビューで「“間”は俳優が作るものではない」と仰っていましたね。
「役者が“間”を作り出すのは、舞台でやる演劇と『のぞき穴』のようなワンカットだけじゃないでしょうか。単純な話ですけど、現場で“この間は凄くよかったな”と思っても、一部分のシーンにしか過ぎないじゃないですか。2時間ある映画のうち、その間が冒頭10分に出てくるシーンなのか、中盤のシーンなのか、それともクライマックスのシーンなのか…どの部分かで観客の体感も変わってくる。それに、演じている現場では音楽や効果音はないけれど、編集でそういう要素を付け加えると、もっと“間”の体感が変わってきます。もしかすると俳優さんの中には、“現場ではあの間が凄くよかったのに、どうして編集されてるんだろう?”と思う人もいるかもしれない。幸い、僕はそのような方に出会っていませんが、僕からすると“そりゃ、そのまま使える訳ないじゃん!”と思います」
――確かに。
「“間”はお客さんのものです。お客さんが長いと思ったら、その間は長いんです。言ってしまえば、“間”はなくてもいいんじゃないですかね」
――それで成立するならば、ありだと。
「そう。早いってだけでも魅力的だと思います。今の時代では、特に。それこそ『のぞき穴』みたいに、ケータイで映像を観るということは、数年前では考えられなかった訳です。パソコンでもオンタイムで、しかもストレスフリーで観るということは少なかった。それが今ではケータイやパソコンで気軽に観られる時代になりました。そういう状況だと、視聴者が映像に飽きるのは当然だと思います。今の若い子は、映画館で映画を観る機会が減ったとよく聞きますが、最近だと、映画館でもケータイをいじりながら観る子が増えたという統計も出ているそうです。作り手からしたら、“ふざけんなよ!”と思いますけどね(苦笑)」
――映画館で2時間ずっと観ることに、飽きてしまうんでしょうか。
「そうなんでしょうね。だから逆に僕らがそのスピードに合わせていくことも、多少はあって然るべきなのか…どうなのか……ここは悩みどころです」
――飽きさせないためには何が重要ですか?
「緩急は絶対に必要だと思います。最近は、テレビを見ながらツイッターでつぶやくなど、リアルタイムで視聴者の反応がわかりますよね。よく考えたら凄い時代になったもんだなと。こういうことにも僕らは対応すべきなのか、それとも完璧に割り切って無視すべきなのか…。この先、映像というものが、昔のようには成立していかないんじゃないかな。本だって、電子書籍の登場でどんどん形が変わってきました。携帯電話だって、普及してから十数年しか経ってないのに…随分と変わったものです」
――昔と変化したことによって、映画やドラマの新しい希望みたいなものはあるんでしょうか?
「映画の配給の仕方が大きく変わっていくと思います。もう既に実験的に始まっているんですが、映画公開初日から、ネットで映画を買って観ることが出来る。所謂PPV(ペイ・パー・ビュー)ってヤツですね」
――放送済のドラマやDVD化されている映画などはよく聞きますが、公開と同時に観られるようになるのですか?
「そうです。これは凄くいいシステムだと思います。例えば、地方に住んでる人達が、この映画は観たいけれど、映画館まで車で2時間かかるだとか、色んな理由で映画館に行けない方もいらっしゃる。そういう人でも、公開初日に映画を観ることが出来ます。DVDで映画を観る感覚とは違って、家のテレビやパソコンのサイズで、映画を楽しんでもらおうということです。なので、今までのスクリーンで映画を観ることだけを考えて、映画を撮る、という考えも成立しなくなってきているのかもしれません」
――飯塚監督の手腕にかかってるんじゃないですか?
「ハハハ(笑)。頑張ります」
――もっと監督の映画が観たいですね。
「やりますよ。映画もテレビも撮る予定です。自分で原作の小説を書いて、それがドラマや映画になる…という計画も考えています」
――お! それは楽しみです。ところで、飯塚監督はどうして映画監督になりたいと思ったんですか?
「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に憧れて。あと、自分の名前がエンドロールの最後に流れるのって、凄くかっこいいじゃないですか。一番の理由はそこです(笑)」
「壁に携帯電話をあてて隣の部屋をのぞき見る」「ドアのインターホンから外をのぞき見る」など、自分がいる日常から携帯電話越しに違う世界をのぞき見て楽しむ番組。のぞいた先で行われているのは“ありえない、でもあったらちょっと面白いかも知れない世界”。見終わったあと、誰もが思わず「クスリ」と笑ってしまうはず!
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