東日本大震災の影響で世間が自粛ムードとなる中、舞台『スピリチュアルな1日』は一部公演中止となったものの、3日間のみ上演。観客は「元気になった」と感想を述べ、キャスト達は「逆に元気づけられた」と言う。この舞台によって、「エンターテインメント、娯楽の重要性」を再認識させられたのではないだろうか。あれから1年。座長を務めた石田明(NON STYLE)の「絶対に再演します!」という宣言どおり、新たなキャストを迎え再演が決定した。前回の石田のインタビューに引き続き、今度はヒロインを演じる須藤理彩との対談で、再演に向けての意気込みを語ってもらった。
撮影/吉田将史 文/池上愛
――1年前に公演された『スピリチュアルな1日』は、3.11の震災直後ということもあって一部公演中止となりました。舞台の上に立った時はどういう心情でしたか?
石田「もともとは公演自体が中止になるかもしれないと言われていて。どうなるかわからんけど、とりあえず稽古だけは続けてました。みんなとはずっと『今だからこそやりたいよね』って話してて。僕、舞台の初日の幕が開けた瞬間は、ほんまに泣きそうでした。“あぁ無事に始まったんや”と。舞台袖で『今日は頑張りましょう』ってみんなと握手してる時から“やばいやばいやばい”って感じやったんですけど(笑)。舞台が始まってお客さんの顔が見えた時はほんま嬉しくて。お客さんが笑ってくれた瞬間に“舞台やってよかったな”と思いました。みんなを救うつもりでやってたんですけど、逆に救われた気持ちでしたね」
須藤「世間的には、今はやっちゃいけないんじゃないかっていう動きだったじゃないですか」
石田「そうですね。吉本の舞台も自粛してました」
須藤「だから舞台に立てるって決まった後、気持ちはほっとしてるんだけど、ほんとにこれでいいのかなと疑問に思っていた部分もありました。でもお客さんの前に立って反応を感じた時に、“やってよかったんだ”っていう気持ちになれた。自分達のやれることはこれしか出来ないけれど、それで少しでも元気になってくれるんだったら、やってよかったなぁと。娯楽やエンターテインメントっていうものは、永遠になくならないんだなって思えたというか」
――その時のカーテンコールで、石田さんが「再演します」と仰っていたのが現実になりましたね。
石田「僕が言ったことをスタッフの方たちが実現してくれました。言ってみるもんやな~(笑)」
――どんな気持ちで発言されたのでしょうか?
石田「このお芝居って、前半はめちゃくちゃ笑って、後半に泣けるシーンがあって、最後は元気になる。演じ終わった後は情緒が不安定で(笑)。そんな中で喋るとなると、どの感情が押し寄せて来るかわからない。面白いこと言うてるのに泣きそうになってきたりして。そんな気持ちで観客席見てたら、ポツポツ空席があるのが見えるんですね。震災の影響で来れなかったのかなとか考えてたら…思わず『再演します』って言ってたんですよねえ。こうやって実現出来てほんま嬉しいです」
――再演が決まって、約1年ぶりに再会されたおふたりですが、そんな感じが全くしませんね。おふたりが初めてお会いされた時の、第一印象はどうだったんでしょう?
石田「僕の須藤さんのイメージは、常にキリッとしてる出来る女のイメージがあったんですよ」
須藤「え~そうなんだ」
石田「でも実際にお会いしたら、凄くかわいらしい人で」
須藤「さすが。もっと言って」
石田「(棒読みで)凄くかわいくてキュートでキュンキュンしっぱなしでした」
須藤「何、その言い方! ムカつく~!」
石田「(笑)。でもほんとにこんなにフレンドリーに話してくれる方だとは思っていなかったので、凄くやりやすかったですね」
須藤「私の石田さんの第一印象は、白以外の服を着てる! っていう驚きですよ」
石田「あはははは(笑)。そうなんですよ。普段の反動で色があるものを着ちゃうんです」
須藤「それに、なんといってもM-1チャンピオンですからね。さぞかし面白い方なのでしょうと(笑)。でも私のイメージでは、お笑いの方は普段テレビで面白いことを言っている一方で、裏では物静かだったり、ストイックだったり。そんな印象を持っていました。もしかしたら石田さんもそうなのかもしれないけれど、最初から座長という立場で、みんなを引っ張って下さっていて、凄く現場の雰囲気を高めてくれていました」
――ベテラン俳優もいらっしゃる中で、主役として舞台を引っ張っていく立場というのは、どういう心境でしたか?
石田「僕だけ畑が違うので、挑戦者みたいなもんです。全てが新鮮やし、全力でやって失敗してもそりゃそうやし。そういう意味では気が楽ではありました。稽古初日も、みんなは稽古用の靴や着替えを持ってきてたのに、僕は普通にジーパンで参加したりして。あぁぁぁ! しまった、そうやったって(笑)。そんなところから学んでいきました」
――前回のインタビューで、「この舞台をきっかけにお笑いファンが演劇ファンに、演劇ファンがお笑いファンになってほしい」とおっしゃっていましたが、そういうお客さんの変化は実感出来ましたか?
石田「僕のお客さんでいうと、この舞台を観てから“スピリチュアルメンバーファン”になった人は凄く多い。今度、他の出演者の舞台を観に行きますっていう子が結構いましたね」
須藤「へぇ~嬉しいね!」
石田「そうなんですよ。だから僕のお客さんはみんな芝居が好き。逆に僕らの漫才を見に来る割合が少なくなっているという・・・(笑)」
須藤「でも逆に、演劇から流れてくる人も多くなったんじゃない?」
石田「そうそう。石田がこんな風に出来るとは思わなかったから見直した。今度ルミネ観に行く、みたいな人いましたわ。でもやっぱり演劇ファンの方々は、僕の事を“石田”って呼び捨てで呼びはるんですね(笑)。まぁ嬉しいんでいいですけど!」
――須藤さんは石田さんと共演されて、お笑いに対する考えに変化はありましたか?
須藤「もともとお笑いは大好きなので、バラエティーはよく見ているんですけど・・・決して舞台の上では交わらないだろうなと思っていたんです。やはり演劇とお笑いの作り方って違うと思うんですよね。お笑いは、どちらかといえば孤独な作業なのかなと思っていて」
石田「うんうん、そうですね」
須藤「でもお芝居は、周りの人達と一緒に作り上げていくものだから、絶対的に作り方が違うぞと。そこが果たして上手く混ざり合うんだろうか? という疑問がありました。あとはお笑いの持つ瞬発力ですね。私は全くそれがなくて、同じ事を何度も繰り返しやって身体に染みこませないと何も出来ない人間なんです。でも石田さんは、そのお笑いの瞬発力みたいなものを、上手い具合に舞台に持ち込んでくれたというか。凄くすんなりと溶け込む事が出来ましたね」
石田「僕が稽古中にアドリブ言うと、須藤さんが超かわいくなるんですよ。思った言葉が出てこないと『もうやだ~!』って(笑)」
須藤「普段の須藤理彩が出ちゃうんですよね。『もう止めて~!』って(笑)」
――稽古現場の雰囲気も凄くよかったようですね。
石田「あの公演で凄く仲良くなったんですよ。団結力が生まれたというか」
須藤「凄かったね、あの一体感は。今までに味わったことなかったですね。多分それは全国各地であった現象だったと思うんです。抱えてる不安もみんな一緒ですから」
石田「僕は、3.11以降ずっと、“俺はどうしたらええねん”って思ってたんですよ。ブログすら更新出来ない状態で。でも『スピリチュアルな1日』を全力でやって、気持ちが変わりました。お笑いしか出来ないんだったら、お笑いをやればええんや。何が不謹慎やと。笑わせることは不謹慎やないって、この舞台をやって再確認した。自分の中でブレない芯がひとつ出来た気がします」
――再演にあたっての意気込みはいかがですか?
石田「初演の時は震災の影響もあって、みんなそれぞれの思いのままやってた部分があるので、今度は全く違う演技になると思います。舞台を通じてのメッセージも、1年前は凄く強いメッセージ性があったと思うけど、今度はもっと優しいメッセージになると思うし。僕らもお客さんの捉え方も、よりマイルドになると思うので凄く楽しみです。それに前回を越えなきゃいけないので、よりパワーアップしないといけないし、より面白く、感情のふり幅をでかく出来るように頑張りたいです」
須藤「前回の公演は、お客さんと出演者が手を取り合ってる感じが凄くありました。ああいう気持ちになることって、もう一生ないんだろうなっていう、それくらい凄い結束感があったんです。今度の公演はもっとフラットな気持ちでいるというか。チケット代を頂いている以上、凄くいいものを残したいと思っているし、こちらが与えてもらうだけじゃなくて、観に来てよかったと思って頂けるような作品にしたいですね」
石田「あと、前回は5公演しかなかったから、僕は5パターンしか知らない訳ですよ。でも今回は24公演やし、東京だけじゃなくて大阪と仙台もある。物語は一緒やけど、公演ごとに違う顔が見れると思うんですよね。前回以上のお客さんに観てもらえるのも楽しみのひとつやなぁ。前回の公演で、今田耕司さんが観に来てくれたんですよ」
須藤「え!? どうして観に来て下さったの?」
石田「お芝居好きな芸人さんが観に来てくれたんですよ。それで、その人がロンブーの亮さんにお勧めして、それで次は亮さんが見に来てくれて。今度は亮さんが今田さんに勧めてっていう、完全な口コミですわ。凄い嬉しかったです。僕の電話番号も知らんはずやのに、誰かに聞いたのか僕に電話して下さって。『ほんま面白かった。こんな時期やからこそ、やる意味のある舞台やったな』て言ってもらえて。だから、もっと色んな人に観てもらいたいんですよね。この舞台をもっと広めたいなと思います」
須藤「中だるみとか経験してないんだもんね?」
石田「してないです」
須藤「来るよ、10公演過ぎたくらいから」
石田「まじすか~!」
――中だるみは、どんな感覚になるんですか?
須藤「何も意識しなくても、口が勝手にペラペラとセリフを言い出したりとか。気がついたら“あ、私喋ってた!”みたいな感覚になるんです」
石田「へぇ、そうなんや」
須藤「緊張がふっとゆるみだす時期が来るんですよ。あとはセリフを言い過ぎて忘れちゃうとかね」
石田「聞きますねぇ、それ」
須藤「前回は5公演だったから、ずっと緊張したまま終わった感じでしょ? 楽しみだね。何をやらかすか!」
石田「うわっ、やめてくださいよ(笑)」
須藤「小道具忘れたりとかね」
石田「めっちゃ嫌やなぁ・・・(笑)。でも僕、中だるみは絶対しないですよ」
須藤「言ったね~」
石田「だって僕らは、ひとつのネタをアホみたいにやってますから。同じネタを何回も。ずーっと無意識に出来るくらい繰り返してるので」
須藤「あ~なるほど」
石田「僕の癖だと思うんですけど、相手を飽きさせたくないんですよ。相方を飽きさせへんために、毎回言い方を変えるんです。イントネーションやセリフを変えたりしてる。だから、中だるみは絶対にしません!!」
――再演を迎えるにあたって、何か石田さんから須藤さんに聞いておきたいことはありますか?
石田「そうですねぇ…何が聞きたいかなぁ~」
須藤「でも不安感はないよね? 久しぶりにパンフレット撮影でみんなと再会したんですが、普通は『元気だった~?』みたいになるのが、『ねぇねぇ、あのさぁ』っていつも通りに話しかけていました。再演するっていう新たな緊張感や楽しみはもちろんあるんですが、変な壁みたいなものはないですね」
石田「僕の中では、ピリッと緊張するひとつの要素はあります。片桐仁さんの存在ですね。お笑い界のトップクラスの方がいらっしゃるので、それは凄く刺激になります。無理かもしれないけど、片桐さんの面白さを最大限に引き出したいって思ってます。だから全力でぶつかっていかなきゃいけないですね。前回は真っ裸で望めたんですが、今回はそうはいかないですね。片桐さんと対等に渡り合えるようにならないと・・・」
須藤「そのギスギス感が楽しみだね~」
石田「何言うんですか! ギスギスしないでしょ!!」
――片桐さんとのお仕事は、今回が初めてですか?
石田「初めてです。僕、お笑い芸人に対しての人見知りが半端ないんで、パンフレット撮影でお会いした時も、一言二言しか喋れませんでした」
須藤「どうして人見知りするの? お互いのことを知ってたほうがいいんじゃない?」
石田「そうなんですけど・・・でもお笑いやとちょっと違うんですよ。お笑いは、どれだけ未知数でおれるかっていうことやと思うんです。芸人で、あるレベルに達してる人だと、周りの笑いのレベルがわかるんですよ」
須藤「そうなんだ!」
石田「そうそう。そのレベルを計られてしまうと、思うようにパンチが出せない。だから常に自分が一番面白いって思ってないといけないんです。片桐さんはお笑いとしても一流やし、芝居においても評価されてる人。だけど僕は、ちゃんと片桐さんの良さを最大限に引き出していきたいと思います」
須藤「なるほどね~。でも、私達を置いてけぼりにしないでね。ふたりが凄い遠くにいっちゃう情景が浮かんだんだけど(笑)」
石田「それは大丈夫です(笑)。みんなで一緒に同じスタートラインですよ。任せて下さい!」
脚本/小峯裕之
演出/板垣恭一
出演/石田 明(NON STYLE) 須藤理彩 片桐 仁 吉本菜穂子
諏訪 雅(ヨーロッパ企画) 猪塚健太 今井隆文 柳澤貴彦
料金/前売 : 5,500円 当日 : 6,000円(全席指定・税込)
※一般発売日 2012年4月28日(土)10:00~
【東京公演】2012年6月13日(水)~24日(日) /あうるすぽっと
【大阪公演】2012年6月29日(金)~7月1日(日) /ABCホール
【仙台公演】2012年7月7日(土)~8日(日) /仙台市青年文化センター シアターホール
詳しい公演情報はコチラ http://www.amuse.co.jp/stages/sp/