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インタビュー

尾上松也×柿澤勇人   (おのえ・まつや×かきざわ・はやと)

犯罪を重ねることで自分を満たし、“私”の気持ちを利用する“彼”。“私”はそんな“彼”を愛するが故に、求められるまま犯罪の手助けをする…。1920年代シカゴで実際に起きた犯罪史上に残る事件をモチーフにしたミュージカル『スリル・ミー』は、そんな“私”と“彼”の奇妙でスリリングな関係性の魅力と、演者ふたりとピアノ伴奏のみで構成するという斬新な試みで、ファンを魅了し続けてきた。本シリーズ初参加で“私”役を演じる尾上松也、過去シリーズで“彼”を演じ続ける柿澤勇人に、舞台直前の意気込みや抱負を聞いた。

撮影/中根佑子 文/池上愛

プロフィール 尾上松也×柿澤勇人(おのえ・まつや×かきざわ・はやと)


尾上松也(おのえ・まつや)
1985年生まれ、東京都出身。六代目尾上松助を父に持ち、5歳で二代目尾上松也として初舞台。以後、歌舞伎界で活躍を続ける。歌舞伎と並行しながら『ボクの四谷怪談』『ロミオ&ジュリエット』などのミュージカルにも出演。また、トークバラエティ番組『メレンゲの気持ち』(日本テレビ)のMCも勤めるなど、現在は多方面で活躍中。テレビ東京開局50周年特別企画『永遠の0 』(テレビ東京)が、2015年放送予定。

柿澤勇人(かきざわ・はやと)
1987年生まれ、神奈川県出身。劇団四季在団中07年に『ジーザス・クライスト=スーパースター』。09年の退団後は舞台だけでなく、映像にも活躍の場を広げる。主な出演作は『海辺のカフカ』『ロミオ&ジュリエット』、ドラマ『平清盛』『軍師官兵衛』など。現在、テレビ東京系「新・刑事吉永誠一」にレギュラー出演中。来年4月上演のミュージカル「デスノート THE MUSICAL」に夜神月役での出演が決定。

――松也さんは、今回『スリル・ミー』に初参加されますが、台本を読んでの感想は?

松也「作品の存在自体は知っていたんですが、生で観たことはなく、舞台の話を頂いてから映像を拝見しました。台本も本当にスルスルと読めて…とにかく衝撃的でしたね」


――映像というのは、どなたの組み合わせを?

松也「カッキー(柿澤勇人)と松下洸平君のものです。ふたりだけのミュージカルというのが凄いですよね。もちろんストーリー展開も素晴らしい。更に実際に起きた事件を基にしているという部分も興味がそそられます。小道具もあまりなく、演者ふたりと伴奏ひとりの計3人だけしか登場しない。全てがシンプルな作品で、物語の世界観をここまでシンプルなもので表現するんだ、と。楽曲も独特な雰囲気のメロディーが多かったですし、演じる上でとてもハードルが高いと思いましたが、全てが魅力的でした」


――出演オファーを頂いた時は、“私”役、“彼”役は決まっていたのですか?

松也「いや、決まってなかったですね」

柿澤「松也から電話がかかってきたんですよ、“『スリル・ミー』のオファーがあった。ちょっと迷ってる”って。でもその時点では誰が何をやるのかは決まってなくて。だから“絶対やったほうがいいよ”ということだけじゃなく、“一緒にやったとしたらどうなるんだろうね”とも話していました。だからいざ一緒のペアになった時はびっくりしましたね」

松也「電話をかけた時点では、ほぼほぼやりたい気持ちでいたんですけど、もうひと押しがほしかったというか(笑)。ちょっと話を聞いておきたいなというのがあったんですよね。カッキーとは前に『ロミオ&ジュリエット』で共演したことがあったので、聞いてみようと」


――「私」を松也さん、「彼」を柿澤さんが演じられる訳ですが、配役の理由など、演出の栗山さんに聞かれたりは…?

柿澤「僕は、初演の時からずっと“彼”を演じてるんですけど、初めて台本を読んだ時は、僕に“私”の要素みたいなものをあまり持っていなかったので、僕が演じるとしたら“彼”なのかなぁとは思ってたんです。でも客観的に周りの人が見たら“私”なのかもしれないとも思っていて。そしたら、栗山さんは『キミは“彼”しかない』と。そこからずっと“彼”を演じてます。松也は…なんでだったんだろうね?」

松也「わからない…(笑)。でも僕は、最初から“私”をやりたいと思ってました」


――それはなぜですか?

松也「カッキーが言っていたのと一緒で、僕自身に“私”みたいな要素がないからです。自分と全く反対の性格をしているので、逆にやりたいと思いました」


――自分とかけ離れた役をやりたかった?

松也「そうですね。自分がもし“私”を演じるとなると、かなり苦労するだろうなと。もちろん“彼”が簡単だとは思いませんが、よりハードルが高いそうなのは“私”だなと。そのほうが面白みを感じるんですよね」

柿澤「僕の場合は、『スリル・ミー』に限らずなんですけど、再演はいい意味でも悪い意味でも、慣れちゃうじゃないですか。僕は慣れが一番怖いです。でも今回、初めて松也とタッグを組んだことで、これまでとは違う“彼”が見せられると思うんですよ。それが楽しみですね」


――確かに、柿澤さんは過去4回とも、松下洸平さんとペアで“彼”役を演じていましたね。

松也「僕は、カッキーとペアになったとわかった時、“またカッキーと一緒に出来るなんて嬉しいな”という感覚くらいで思っていました。でもファンの方々にとっては、なかなかのサプライズだったようで…。今年の2月にファン感謝祭があったんですけど、僕はその日まで出演自体も発表されていなくて、このイベントで初めて出演することが発表されたんです。まず、そこでざわざわっと会場が驚いて。でも、それはわかるんですよ。まさか『スリル・ミー』に歌舞伎俳優が出るとは! という驚きだと思うので。で、そのあとに組発表があったんですが、僕がカッキーと組むとなった時の、お客さんの悲鳴のような、驚きのような声が上がって……」


――ファンもびっくりだったんですね。

松也「過去にも新キャストの方々は出演されてましたが、カッキーはずっと松下君としかペアでやってなかったんですよね。だから凄い反応でしたよ(笑)。あぁ、組みが変わるのは、こんなにも大事件なんだなと思い知らされました」

柿澤「松下洸平と柿澤勇人のコンビは絶対に変わらない、と思ってたみたいだよね。でも僕としては……」


――燃えますか?

柿澤「そりゃあもちろん! 僕としては、いいものを届けたいという思いの一方で、どんどん裏切っていきたいという欲がありますから。今、お客さんは色んな予想をしてると思うんですけど、その予想をどんどん裏切っていきたい。僕ら、一番未知数なペアだと思うんですよね。恐らく安定もしないと思う。全部で11公演ありますが、どの回も全然違う感じになるんじゃないかなと。これまでの『スリル・ミー』ファンには申し訳ないんですけど、とにかく全部裏切っていきたいです」

松也「多分この組み合わせだと、僕が“彼”でカッキーが“私”みたいなイメージだと思うので、その点でもちょっと特徴があるペアだよね。あとほかの組みとは違う特徴を挙げるとすれば…体格の差とか。身長は僕のほうが高いから、男っぽい“彼”よりも女っぽい“私”のほうが体格が大きいので、その辺は利点として活かしていければなと思います」


――ペアによって、“彼”と“私”の関係性も変わりそうですね。そのあたりは、お互い話し合っているのでしょうか。

松也「いや、全然話し合ってないですねぇ(笑)」


――そうなんですか(笑)。こんな舞台だからこそ、細かく話し合っているのかと思いました。

松也「全くです。その場その場でって感じで。自分達が思う“私”と“彼”をやっていけばいいと思っています。栗山さんは『全てを100%伝える必要はない。おまえ達が理解していれば、お客さんに伝わりにくいところがあっても、それはそれでいいんだ』とおっしゃっていました」


――お客さんの想像に委ねる?

松也「そうですね。お客さんの捉え方で、どうとでも転がっていく作品だと思います」

柿澤「想像でどうとでもなるよね。大まかな枠っていうのは、”彼”がSで、”私”がMで、話が進むにつれてどんどん“彼”の支配が強まってきて…っていう話だから、そういう部分が大好きっていう人もいれば、そう捉えていない人もいるでしょうし。でもこのミュージカルに関しては、お客さんの反応っていうのは、舞台中全然わからないんですよね。芝居が終わるまで、お客さんの反応がないから」


――というと?

柿澤「ミュージカルって歌のあとに拍手が起こったりするんですけど、そういうのがないんです。ミュージカルってお客さんに助けられることもあるんですよ。たとえばコメディーだったら、お客さんの反応に引っ張られて、物凄くいいテンションで演じることが出来たり。よく役者同士で『今日はお客さんに助けてもらったね』なんて話すこともあるんです。でも『スリル・ミー』はそんなことなくて。お客さんの力を借りることなく、最後まで突き進んでいきます。唯一反応がわかるのは、一番最後に“私”が『スリルミー』と言って終わる時。一番最後のお客さんの拍手で、この出来がわかるんです。このミュージカルは、お客さんと作っていくというよりも、“彼”と“私”のやりとりをお客さんが覗き見しているような感じに近い。そういう意味で、栗山さんは100%わからせなくてもいい、とおっしゃっているんだと思います。お客さんにわかりやすくふたりの関係性を見せるのではなく、ふたりだけの空間、会話、間を作っていく。それが大事なのかなと。で、どう捉えるかはみなさんの自由ですよ、という感じです」


――納涼祭のイベントでは、初めて歌を披露されました。その時、柿澤さんは松也さんの歌声を「気持ち悪い」と言われていましたよね(笑)。

柿澤「ははは(笑)。もちろんいい意味で、ですよ。このイベントで歌ったのは、劇中の最後の歌。このシーンでどんでん返しが起こるんですけど……松也の声、凄い気持ち悪かったです。でもその気持ち悪さっていうのは、凄く重要なことで。もちろん気持ち悪いから正解とかじゃないんですけど、なんというか……粘着性があったんだよなぁ」

松也「粘着性かぁ(笑)」

柿澤「あの時は、ラストの歌だったから気持ち悪く感じたんですけど、松也って色んな声色を使えるんです。かっこいい声も、不気味な声も、“私”の心情を表すメロディーをスコーン! と歌いあげる。しかも松也は、楽譜を読めないから全部耳で憶えてるでしょ。それが凄いなって思う」

松也「イベントの時は、歌の先生から『勝ち誇ったような感じで』と言われたので、それを試したんだけど…結果、カッキーにとっては気持ち悪く感じたと(笑)」

柿澤「いい意味だってば(笑)」


――栗山さんの演出はどうですか。

松也「ここでこう動いて、ここでセリフを言って、という明確な指示があるので、それについていっている感じです」


――動きの指示が細かいのでしょうか?

松也「かなり細かいです。ここで右を向く、みたいな大きな動作だけじゃなく、ここで目線をこうする、角度はこうだ、みたいにバチッと決まってるんです。カッキーはこれまで4回やってるんで慣れてる部分もあるかもしれないんですけど、僕はようやく慣れてきたっていう感じ。動作を細かく追ってると、訳がわからなくなってしまうこともあって」

柿澤「栗山さんの中では、99%、“私”と“彼”の完成像が見えてるんですよね。残りの1%を僕達のプレゼンのような演技で、補充していくというか。もう何回も、それこそ韓国でも栗山さんは演出をされていますから、誰よりも作品を一番理解されているんです。役者の欲としては、ちょっとここでこうしてみよう、という気持ちもあるんですけど、それをやったら『そうじゃない』って栗山さんはおっしゃる。あ、ばれちゃったっていう(笑)。多分松也が戸惑ってるのも、なんでここではこの動きじゃなきゃダメなんだ? ああしてもこうしてもいいんじゃないかっていう感じなんだと思うんです。でも、その細かい動きにも、きちんと意味がある。だから、誰よりも作品を理解している栗山さんを信じてついていく。心が動くから行動するっていうのではなく、その行動、動きに心を持っていく、という作業が重要なんですよ」


――なるほど。話を聞けば聞くほど、本当に力量が試されますね。

松也「そうですね。僕は少人数でお芝居をやるという経験がほとんどないので、凄く貴重な体験になってます。演じるのはふたりだけですけど、物語上では、父親や弁護士、弟なども出てくるので、その人達の存在を想像してもらわないといけないので、その辺りも頑張りたいです」

柿澤「“彼”が“私”を支配していく展開ですが、お客さんは、どんどんふたりの会話が成立していないんじゃないか? って感じてくると思うんです。一体なんなんだ!? っていう部分が作品の魅力だと思うので、なんとも不思議な空気感だったり、噛み合わなさ、チグハグ感みたいなものも表現していけたらいいですね」


ミュージカル『スリル・ミー』

原作・脚本・音楽/Stephen Dolginoff
演出/栗山 民也
翻訳・訳詞/松田 直行
場所/天王洲 銀河劇場
出演/尾上 松也 柿澤 勇人
   田代 万里生 伊礼 彼方
   松下 洸平 小西 遼生
   朴 勝哲(ピアノ伴奏)
日程/11月7日(金)~24日(月・祝) ※13日(木)、19日(水)休演
   11月29日(日)大阪 サンケイホールブリーゼ

問合せ/ホリプロチケットセンター 03-3490-4949
ホリプロオンラインチケット http://hpot.jp

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