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インタビュー

工藤阿須加   (くどう・あすか)

現在放送中の大河ドラマ『八重の桜』。偉大な兄(西島秀俊)、型破りな姉(綾瀬はるか)の背中を見ながら育った末っ子・山本三郎を演じるのが、俳優・工藤阿須加だ。姉・八重が「幕末のジャンヌ・ダルク」と呼ばれるようになった所以は、三郎の存在にあった。鳥羽・伏見の戦いで負傷し、その後命を落としてしまう運命にある三郎。ドラマ本編でも、いよいよ彼の人生のクライマックスが訪れようとしている……。

撮影/吉田将史 文/池上愛

プロフィール 工藤阿須加(くどう・あすか)


1991年8月1日生まれ。埼玉県出身。2012年、ドラマ『理想の息子』で俳優デビューを果たす。そのほか、ドラマ『悪夢ちゃん』、映画『悪の経典』に出演。『八重の桜』では、主人公・八重の弟、三郎を演じる。

――『八重の桜』のオンエアは見ていますか?

「見ています。凄く光栄なことというか…本当にありがたいなと思うんですが、オンエアを見るたびに、“本当に自分が出ているんだよな?”っていう気持ちも出てきて(笑)。見れば見るほど、感謝の気持ちで一杯です」


――大河ドラマならではの驚きはありましたか?

「何よりもセットに驚きました。時代劇に出るのが初めてだったので、セットを見た時は感動しました。あとはこれから撮影する戦のシーンも楽しみです。映画『悪の教典』に出演した時は、銃で撃たれて死んでしまう役どころだったので、爆竹を身に着けていました。あの時も驚いたんですけど、戦で大砲や拳銃がドンパチと爆発するシーンは、きっとびっくりすると思います」


――ご自身の演じられる山本三郎の人物像について教えて下さい。

「最初は武士らしくない、情けない男だったと思います。型破りの姉・八重がいて、尊敬出来る兄の覚馬がいるという環境の中、自分のやりたいことが出来ないでいる。そんなもどかしい姿にとても共感しました。三郎は、一人前の会津藩士になることを夢見て鍛錬に励んでいくので、三郎がどんどん一人前になっていく流れは凄く意識しました」


――工藤さんも、もがいている部分があるのですか?

「そうですね。自分の意見を言いたいけど、思うように言えなかったりする気持ちは凄くわかります。目上の人に対して意見を言うって、難しいことじゃないですか。僕の場合も、なかなか父親に対して意見を言えないことがありました。自分の家族と、山本家の感じが似ている部分があって、そこは共感出来ました」


――話し言葉や所作に関してはどうでしたか?

「所作や着物に関してはあまり苦労しませんでしたね」


――自宅でも着物を身に着けていたそうですね。

「はい。ふとした時に着てみたりしました。足は痛いんですけど、その時代に近い生活をするだけで、何か変わるかもしれないと思って。苦労したのは会津弁。“ズーズー弁”って今まで聞いたことがなかったので、難しかったです」


――八重が喋っているズーズーな感じは、凄くかわいいなあと思いながらドラマを見ていました(笑)。どんな風に方言は覚えていきましたか?

「先生から教わったり、音源を聴いてみたり。僕の周りに福島出身の子がいるんですが、その人曰く、ドラマで話しているような言葉づかいは、今はしないそうなんです。そりゃあ難しいはずだわ…って改めて思いました(笑)」


――どういう部分が難しかったですか?

「ちょっとしたところに濁音が入るところ。普通の言葉では言わないところが濁って発音される部分が難しいですね。気づいたら、濁音を抜かして喋ってしまうことがあったりして」


――イントネーションはどうでしたか?

「そこまで苦労しませんでした。関西出身じゃなくても、関西弁を聞いていると、なんとなくイントネーションが移ったりするので、イントネーションは気にならなかったです」


――家でも着物を着たこと以外に、三郎に近づくためにされたことはありますか?

「実際に福島を訪れたり、京都にある八重や三郎のお墓に出向きました。行ったから何が変わったとは言えないんですが、その空気に触れるだけでも違うんじゃないかと。この土地で三郎は生活したんだな、この土地で三郎は命を落としたんだなって。言葉では言えないんですが、その空気や雰囲気を感じ取りたいと思ったんです」


――そもそも、三郎についてはご存知でしたか?

「全く知りませんでした。八重の夫である新島襄だけは、同志社大学を設立した人として認識してたんですけど…三郎だけじゃなく、八重すらも全然知らなかった。僕の大河ドラマのイメージって、坂本竜馬や平清盛みたいに、名を轟かせた人が主人公というイメージなんですよ。だから、『八重の桜』という題材を聞いた時は、全く聞いたことがなかったぶん、逆に興味が湧きました。どういう人なんだろう? とイチから調べるのが楽しかったですね」


――大河ドラマはよくご覧になるんですか?

「全部見ている訳ではないです。見たり見なかったりですね。僕の友達もそうですけど、僕らの年代って日曜の20時に自宅にいないことが多いので、見れなかったりすることが多いと思います」


――あまり大河ドラマを見ない人達にとっての、『八重の桜』の見どころはどういう部分でしょうか?

「まずは、時代が面白いというところ。幕末って、激動の年じゃないですか。その変動模様だけでも凄く面白いんじゃないかなぁと。あとは、什の掟の教えについて。“ならぬことはならぬ”、やっちゃいけないことはやってはいけないっていう、当たり前の事なんですけど、改めて気づかされることがたくさんあります。僕が言うのもおこがましいんですが、そういう当たり前の部分を感じてもらえればなと思っています」


――三郎は、19歳で「鳥羽・伏見の戦い」で傷を負い、命を落としてしまいます。その三郎の意思を受け継ぎ、八重は三郎の名を名乗って、戦場に赴く。工藤さんが演じる三郎の思いを、綾瀬さん演じる八重が引き継ぐ形になるんですよね。

「いやぁ…本当に…。凄い人を演じているんだなと思います」


――人の一生を演じるって、背負うものが違いますよね。

「ちゃんと三郎を背負えているといいんですが。もしかしたら後ろで“全然背負えてないよ!”って、僕を殴っているかもしれない(笑)」


――(笑)。八重さんはどういう気持ちで戦地に行ったんだろうかと、考えるものがありますね。

「八重さんは、三郎のことを本当にかわいがっていました。そんな弟が藩士として、夢だったお役目を務めるけれど、死んでしまう。八重さんにとっては、凄く悔しいことだったんだろうなと。こればっかりは僕達には想像しがたいことだと思います。三郎の死が、八重さんの決意に繋がるじゃないですか。八重さんと三郎は本当に切っても切れない関係にあると思います」


――そんな八重を演じる綾瀬さんですが、現場では綾瀬さんから「さぶちゃん」と呼ばれているとか。

「はい。僕も姉ちゃんって呼ばせてもらってるんです。凄くいい雰囲気の中やらせて頂いて。撮影の合間も何気ない話ですが、話をしたり。綾瀬さんだけでなく西島さんもそうです。とても親近感を持って接して下さって、僕の緊張をほぐしてくれてるんです」


――クランクイン初日は、緊張されたんですか?

「う~ん、意外と大丈夫でした。もちろん緊張はしてたんですけど、本番になっちゃえば緊張をする暇もないし、緊張する意味もないというか。緊張しすぎて萎縮しちゃうのはもったいないじゃないですか。だから、なんだかんだ…あまり気にしなかったですね(笑)」


――肝っ玉が据わってますねぇ。

「そうなんですかね(笑)」


――そもそものお話をお聞きしたいのですが。ずっとテニスをやられていたスポーツ少年の工藤さんが、役者を志したきっかけはなんだったのでしょうか?

「志したというか、お芝居に興味があったのは、小さいころからです」


――好きな俳優さんや映画、ドラマがあったとか?

「いや、小学生の学芸会です」


――なるほど。

「人に見られるのが好きだったんです。注目されるのがとにかく大好き。それで、学芸会で人前に出るのが面白いと思っていました。でもスポーツも大好きだから、ずっとテニスをやっていて。二十歳になる前に、父から『おまえももうすぐ大人になるんだから、自分の将来をどうするのか決めなさい』と言われたんです。テニスで行くのか、それとも他の道に進むのか。それで僕なりに色々考えて、役者の道もありなのかなと思いました」


――注目されるという意味で、役者に興味があったんですね。

「そうです」


――学芸会ではいつも主役ですか?

「いやいや、小さい役ばっかりやってました(笑)。別に主役に興味がある訳ではないんですよ。注目されることが快感なんです。テニスの試合でも、自分のプレーを観客が見ていることが気持ちよくてしょうがない。そこでバシッと決めれば、更にかっこいいじゃないですか。まぁ逆に負けちゃった時はかっこわるいけど、そのスリル感もいいんです。だからアウェーであればあるほど、楽しいと思えます」


――やっぱり、肝っ玉座ってますよ!

「アウェーの中で、もしも勝っちゃたりしたら“ざまあみろ! どんなもんだ!”って思います(笑)。僕以外、みんな敵っていう環境でも全然気にしません。もちろんホームの試合のほうが、仲間がいて力強い面もあります。でも、孤独な中で闘っているうちに、いつのまにか敵を応援していた観客が自分の味方に変わるかもしれない…それって最高ですよね」


――逆境タイプですねぇ。

「割り切りすぎなのかもしれないですけど(笑)」


――素人目線で恐縮ですけど、そういう気持ちの持ち方って、役者としてとてもプラスな部分になるのではないかと思います。ほかにも、スポーツやっていてよかったなと思う部分はありますか? 例えば、ドラマ撮影って物凄く体力がいることだと思うんですが。

「う~ん、体力という面では、役者とスポーツは全然違うかなと思っています。そのことは、初めてお芝居した時にわかっていたので、大河の現場では、こういう体の使い方をすればいいんだなと、自分なりに気遣いながらやれました。なので、敢えて体力づくりをしたことはないですね。共通する部分といえば、瞬発力と判断力ですかね。スポーツって、対戦相手の状況を見て咄嗟に動きますけど、役者も相手のお芝居を受けて返すじゃないですか。目の前で起こったことを判断して、すぐに返す。このふたつは共通している部分だと思います。そういう意味で、スポーツをやっていてよかったなと思います」


――頭で考える前に、出ちゃった! みたいなことはありましたか?

「セリフが勝手に出たことはないですけど、身体が勝手に動いたことはあります。それは三郎になり切っていたからかもしれないです」


――20歳前で役者を志した時と現在では、気持ちの変化はありますか?

「日に日に新しい変化があり、学ぶこともとても多くて…自分なりの考えを現場に持って行って、それがよかったり悪かったりを繰り返す日々です。変化だったり、成長出来た部分がどこかはわからないけど、三郎を演じて学ぶことはとてもあります。やればやるほど、感じるものがあって…もちろん後悔もするんですけど」


――スポーツって試合に負けたら、その相手に勝つための攻略みたいなものあると思うんですけど、お芝居に対しては、「後悔」をどう克服していくんですか?

「現場で試すのが一番だと思います。そこで試したことを注意されるかしないか、本番でOKが出るか出ないか。それで僕は判断します。家に帰ってここがダメだったのかなとイメージする時も少しはありますけど、どんなに家で考えても、それが現場で出来なかったら意味がない。だから、変に考えすぎることだけはしないですね。もう、次の日に備えて寝ます(笑)。まだ役者としてスタートしたばかりだし、今はまだ考えすぎないほうがいいのかなって思ってるんです」


――なるほど。工藤さんらしい答えが聞けました。

「正直、自分って割り切り過ぎなんじゃないか!? って思うこともあるんです。でも……まぁ、いっか! と(笑)。この先ずっと何年も考えなさすぎるのはマズイと思うんですけど、今はこのスタンスでいきたいです。これが吉と出るか凶と出るか…もしも凶が出たら、その時に考えます(笑)!」


大河ドラマ『八重の桜』

NHK総合 毎週日曜夜8:00~、BSプレミアム日曜夜6:00~放送中! 再放送は、NHK総合にて、毎週土曜 午後1:05~。

2019年07月
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