ダンスを通じて若者たちの人生を描く青春群像劇ドラマ『サイン』。聴覚障害者として閉鎖的な毎日を過ごしていた青年が、ダンスに触れ、仲間たちと出会い次第に成長していく。そんな主人公・大江童司を演じるのは、若手俳優の植原卓也だ。音の無い世界に生きる童司に、はじめは戸惑いも見せながらも、真摯に役と向き合っていく植原。彼の内に秘めた思いとは? ドラマのこと、ダンスのこと、主題歌のこと…、様々な植原の思いの丈を語ってもらった。
撮影/京介 文/池上愛
── ドラマ『サイン』での植原さんの役どころを教えて頂けますか?
「僕の演じる童司は、病気が原因で聴覚障害者になってしまった高校生です。台本を読んでまず感じたのは、あまり楽しいシーンがないなぁと。演技は毎回苦戦するので、自分なりに勉強して臨みました」
── どんなことに苦戦をされましたか?
「童司の話し方や、周りの反応へどう対応するかですね。周りが会話している時に、会話が聞こえていない童司が、どれだけ周りに気づけるかというか。耳が聞こえないことを理解していても、いざ演じてみると“耳が聞こえない人はしないな”ってことを思わずやっていることが多かったんです。例えば、目線にない場所から話しかけられた時に、無意識に反応してしまうとか。そういう些細な動きが私生活に染みついているので、無意識にやっちゃうんですよ。そういう行動が絶対に出てはいけない現場だったので、常に緊張感を持ってやらせて頂きました」
── いかに健常者が、音によって無意識に行動しているのかということがわかったんですね。
「そうですね。実際に音が聞こえない中で、いきなり口の動きだけ見ても何を言っているのかわからないですよ。それに普段喋っている時に人の目は見ても、口元を意識することなんてあまりないですから。だから大人数で会話する時なんて、ほんとに大変なんだなって。いつ誰を見ていいのかわからないじゃないですか。なので僕の中で、ちょっとした演技プランを作りました。大勢でのシーンは、童司が会話についていけない雰囲気を出しています。誰かが喋った時、みんなはその人を見るんだけど、童司だけはちょっと遅れている。で、童司が会話に追いついてその人の口を見ようとするんだけど、その時にはもう違う人が喋っているみたいな。そういうことをちょこちょこやっています。何回も見ている人が気づいてくれればいいかなくらいの些細なことなんですけど、そこにはこだわりを持っていますね」
── 耳が聞こえない人には目線も大事なんですね。
「そうですね。特に童司は口の動きで会話を読みとっているので、現場では本気で口元を見ていました。だからクランクインした時なんかは、あまりにも僕が口元ばかり見ていたので、共演者はびっくりしたみたいです(笑)」
── でも、口元を見るしかないんですものね。
「はい。童司は、口話で生きていくと決めた訳なので。しかも、1話から9話までまとめて撮ったので、徐々に掴んでいくということが出来なかったんです」
── ではドラマの見どころでもあるダンスも、クランクインの時点でマスターしておかなければならなかったんじゃないですか?
「でも、ダンスはイベントや舞台で時々やっているので、芝居のほうが断然難しかったです。撮影前の準備はハンパなかったですね。準備しなければならないというか…僕、性格が几帳面なんできっちりやらないと気が済まないんです(笑)。この現場では、みんながテンション高い時も、僕だけ盛り上がりに欠けてる部分があったかもしれない…(笑)」
── それは役になりきっているからですか?
「うーん……というか、撮影前は“次のシーンはこうだよな”って頭の中で想像してるんですよ。物凄く考えているからか、1日終わったあとの脱力感はハンパないです」
── どうなるんですか?
「誰が見ても、撮影終わったなっていう感じ(笑)。お菓子とか食べ始めます。でもその時間も短くって、次の日の撮影を確認しなきゃならない。だからドラマって大変だなぁと思いますね。舞台の場合は、どれだけ最高の状態を維持するかにかかってますが、ドラマは常に新しいものをやらなければならないじゃないですか。同じセリフは言わないし。だから、物凄く準備したいんです。後悔したくないので…」
── また、出ましたね(笑)。
「だって、昨日のあのシーンなぁ…とか思うの絶対嫌なんですよ!」
── 舞台とドラマの「後悔したくない」っていう気持ちに、違いはあるんでしょうか?
「舞台の場合は、ある程度の失敗もポジティブに考えられるようになりました。舞台は生ものですし、言いまわしが多少違っても、ステージでそうなったんだからそれでいいじゃんって。でもドラマの場合は、自分がやろうと思っていたことがやれなかった場合は凄く嫌です。もちろんポロっと変わることもありますし、自分の考えていたプランと監督の意見が大幅に違って、それでも監督がこっちのほうがいいよって言った場合は別ですけど。最悪なのは、思い通りに出来なくてOKに繋がらなかった場合。くそぅって思います」
── 例えばどんな時?
「凄く悲しいシーンの時に、前日台本を読んだ時は凄く悲しかったのに、いざ本番になると全然悲しくなれない時とか…。凄い不器用なんで、だから本当に準備が必要なんですよ」
── 考えていたプランと違うことを要求された場合、その意見に納得できれば演技プランは変更出来るんですか?
「自分の中で、こっちもいいんだけどなって思いがある場合は、なかなか納得出来ない時はあります。たまにですけど」
── 例え話になってしまいますが、お寿司を食べるつもりで行った店で、ハンバーグが出てきたらどうします?
「ハンバーグに目移りすることなく、別の寿司屋に行く…かな(笑)? 事前に色々考えてますからね。それに向けて計画したいじゃないですか。だから仕事のスケジュールも早く欲しくて、マネージャーさんに催促しちゃいます(笑)」
── もしかしてスケジュール帳持ってたりします?
「スケジュール帳は持ってないですけど、ケータイに予定は入力しています。今日のプラスアクトの取材も…」
── ほんとですか!?
「いやいやいやいや。じゃないと僕、インタビューにきちんと応えられないです」
── インタビューのイメージトレーニングでもするんですか?
「めちゃくちゃ考えてる訳じゃないですけど、ドラマのこと聞かれるなぁって思ったら、現場のエピソードを思い出すようにしていますよ」
── じゃあ『サイン』以外の質問をしましょうか(笑)。
「えっ…嘘でしょ? やめて下さい、対応出来ないんで(笑)」
── 事前準備とは逆に、復習はされるんですか?
「出来上がった作品に対して、どうのこうのというのはないです。もちろん反省点は見つけますが、それを引きずることはありません。撮影が終わったら、まずは“ふぅ~”ってなって、“誰か俺とご飯行こう!”って(笑)。で、次の仕事の計画を立てるっていう」
── ははは。本当に準備に抜かりがないですね。ところで、ドラマの主題歌も歌われていますが、こちらは作詞も一部分担当されたとか。
「そうなんです。まさか使われるなんて思っていなかったですけど。別に作詞を頼まれた訳じゃなくて、たまたま待ち時間があったのでちょっと書いてみたんです。で、“こんなの書いてみたんですが…”ってスタッフさんに見せたら、“レコード会社に見せてみるよ”って言って下さって。それで僕の詞が、ラップ部分に採用されたんです」
── 音楽は、きっとお芝居とは違った魅力なんでしょうね。
「そうですね。でもPV撮影は演技と似た部分が多かったですよ」
── PVも拝見しました。凄くかっこいい映像に仕上がっていましたね。
「凄い気合入りまくりでした。撮影は1人ずつ行なわれたので、周りがどうなってるのかわからなかったんですけど、思ったより馴染んでましたねぇ」
── 全然違和感なかったですよ。
「想像以上でした。周りのみんなも凄い頑張っていて。こういうと上から目線に聞こえてしまうかもしれないんですけど、みんなやるなぁって(笑)」
── あはは(笑)。
「いや、ほんとにPV見て感動しました。僕、凄い気合入りまくってたんで、ちょっと浮くんじゃないかなとか、僕だけ勢いよすぎるんじゃないかとか思ってたんですが。凄くハマっていました。それにテンション高すぎにも見えなかったですし、普通に感動しましたね」
── 先程、PV撮影と芝居は似てるとおっしゃいましたが、PVの場合はフリーな動きが求められる部分が多いですよね? そのあたりはどう演じられたんですか?
「その動きも、どうするのかきっちり決めて臨みました。僕のラップ部分は特に。でもいざ本番になったら違うことをしてしまったので、まだまだですね」
── それはダメなんですか?
「うーん…絶対こっちがいいなって事前に考えていたのであれば、そのプランをやりたかったなぁっていう思いがあります」
── それが、結果いい仕上がりになっていたとしても?
「やりたかったなぁ~って少しは思うかもしれません」
── でも感情で動かされたりすることもあるのでは?
「舞台はありますけど、PVの場合は、お客さんが目の前に居る訳じゃないですからねぇ…どんなPVかにもよるとは思うんですが」
── お客さんのいない、雑誌などの撮影はどうでしょう?
「雑誌とか全然出たことなかった時は、自分がどういう風に撮られているのかというのが全然わかりませんでした。今は、こういう表情をした時に、僕はこんな顔になるんだなっていうのが徐々にわかってきましたね。撮影の時も、ある程度プランは考えたい派です」
── いわゆるキメカットではなく、自然な感じの場合はどうするんですか?
── ノ―プラン?
「自然=適当ではないので、いわゆる自然に見えるような動きをするって感じですね。やっぱ撮影されてるってわかっている訳だから、もちろんカメラの意識はあります。自然を演出する感じかな。あぁ…でも僕、色んな表情を試すことなく撮るのが怖いんですよ」
── それはどういうことですか?
「いや、顔がなんか変になっちゃうんです(笑)。ちょっとこういう表情してみようかなってチャレンジしてみると、あんまりいい感じじゃないんですよね。だから体当たりでやるよりも、確実なところを狙いたいなあって思ったりするんです。もしくは前準備させて下さい! って感じ(笑)」
── 本当に計画派なのですね。勉強になります(笑)。
「あははははは(笑)。ほんとこういう性格なんです…」
── では、最後に『サイン』の今後の展開について聞かせて下さい。
「詳しく話すことが出来ないんですが、ある人に大変なことが起こります! 僕、初めてなんです。こんなに予期せぬ展開の作品に出演するのって! もう台本は読みこんでるし、出演者の僕らにとっては、今となっては普通の出来ごとなんですけど、視聴者の人は、ほんとに見ていてぶっとぶんじゃないかなって思います。“え!? マジ!?”って絶対思うはず。視聴者の反応が凄く楽しみですね。あとは、僕が今までに経験したことのないことがもうひとつあって……」
── お、もしかしてラブですか?
「そうなんです。恋愛が絡んだ演技は今までに数少ないので、そこも植原卓也的見どころになっています」
── 3月2日には主題歌「サイン」も発売されますし、こちらも楽しみです。
「僕も楽しみです。今後のあっと驚く展開と僕らの歌に期待して頂ければと思います」
脚本/半澤律子
演出/村谷嘉則
ダンス振付/TETSUHARU
主題歌/SIGN 「サイン」 (ユニバーサルJ)
製作/「サイン」製作委員会・MBS
出演/植原卓也 桜田通 橋本淳 栁澤貴彦 平間壮一 寺田拓哉 吉沢亮 ほか
© 2011「サイン」製作委員会
http://www.amuse-s-e.co.jp/sign/
高校3年生の童司(植原卓也)は、2年前の夏、病に陥り聴覚障害者になってしまう。それ以来、音楽が大好きだった明るい性格は影を潜め、友達や家族にさえも心を閉ざしてしまう。そんなある日、童司はひょんなことからダンスと出会う。初めはダンスそのものや、ダンスを踊る人達をバカにしていたが、次第にダンスの魅力にハマっていく。そして、ダンスチームを組むクラスメイトやバイト先の先輩にも、少しずつ打ち解けていって……。
毎週水曜 深夜1時35分~ MBSにて放送中。
関西エリアのみで放送中のドラマ『サイン』の第一話~第三話までの上映イベントを東京で開催。
詳しくはMBSドラマHPにて!