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インタビュー

木村了   (きむらりょう)

木村了という俳優の魅力を言い表すと、「ユーティリティープレイヤー」という言葉が一番しっくりとくる。攻守ともにバランスのいい野球選手のようにスマートで、手広い仕事ぶりが際立つ若手演技派。2008年に三島由紀夫の近代能楽集『弱法師』に出演。三島戯曲への挑戦は今回で2度目となる。戦争に翻弄され、苦難する家族を描いた『朱雀家の滅亡』で、センシティブな名家の青年を演じる。稽古初日を控える木村に聞く彼の俳優観とは?

撮影/柳沼涼子  スタイリスト/柴田岳  ヘアメイク/黒澤貴郎(LAULEA)  文/田中大介

プロフィール 木村了(きむらりょう)


1988年9月23日生まれ、東京都出身。02年、第15回ジュノンスーパーボーイコンテストで審査員特別賞を受賞しデビュー。以降、若手演技派俳優として数々の映画、ドラマに出演。『赤い糸』(08年)、『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『東京島』(10年)、『うさぎドロップ』(11年)といった映画作品に出演。現在、ドラマ『絶対零度~特殊犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)に出演中。舞台出演作には近代能楽集『弱法師』を始め、劇団☆新感線『蜉蝣峠』、『赤と黒』、『12人の優しい殺し屋』、『薄桜鬼 新選組炎舞録』などがある。

――『朱雀家の滅亡』出演の話を聞いたのはどれくらい前のことですか?

「昨年の舞台『薄桜鬼』のころだから、だいたい10月くらいだったと思います」


――三島戯曲は2回目ですね。

「“また呼ばれた!”という気持ちですね(笑)。前回の近代能楽集では、それまで舞台をやっていなかったので、“なんで自分に?”っていう気持ちが強かったんですよ。素朴な疑問があったというか」


――あれからいくつもの舞台に立つようになり、キャリアを重ねました。前回に比べて幾分か心の余裕があるのでは?

「いや、それがないんです。以前と変わらず、怖いですよ。経験が通用しないのが、三島さんの舞台の難しさだという気がします。もちろん近代能楽集『弱法師』の時に色んなことを経験させて頂きました。そこから何本かやらせて頂いて、正直、余裕というものがなんとなく自分の中に出来つつはあったんです。そういうところで『朱雀家の滅亡』の話が来て、“あっ。余裕を感じちゃダメだ”って思いました。結局培ってきたものでお芝居をしてしまうと、新しいものが生まれない。培ってきた集大成を出すというやり方もありますけど……。ただ三島さんの戯曲に限っては、自分を無色透明にして挑まないと通用しないだろうと思ったんです」


――台本の感想は?

「そうですね……。率直に言うと“またか!”(笑)。作品は違うけど、三島さんの書いた独特の言葉が並んでいたので、ついそう思いました(笑)」


――セリフの一つひとつが長くて、詩のようですしね。例えば現代を舞台にしたドラマにはないような台本です。セリフの憶え方にも違いはあるのですか?

「舞台と映像で違うんですよ。映像の場合、基本的にセリフの全てを頭に入れはしないんです。一度全体を読んで、あとはシーンを撮影する当日に読み返すくらいです。だけど舞台は全くやり方が違いますね。最初は台本全体の雰囲気をつかむために読み通します。次に読む時はセリフ一つひとつを注意深く読みますね。“この人はどうしてこういうことを言うのだろう?”と考えながら読んでいく作業があります」


――『朱雀家の滅亡』の場合は圧倒的に文字量が多いですね。

「そうですね。だから憶えるのは大変です」


――セリフは稽古でだんだんと入れていくのですか?

「いや、稽古初日までには一応入れておきます。対応するためにはそうしないといけないですから」


――『朱雀家の滅亡』は時代背景が現代ではありませんから、取り組み方も違ってくるでしょうね。

「コミュニケーションの形も、言葉使いも違いますからね。朱雀家というのは今はもうない侯爵家で、家柄のいい一族なので……。話し方も接し方も全く違う」


――舞台の面白いところはなんですか?

「生きているモノなんだというのが舞台の楽しさですね。同じ作品でもステージごとに違っていて、同じことは二度と出来ないし、セリフは一緒でもお客さんの反応は変わりますし、相手役の方との掛け合いでも微妙に変化するライブの面白さがありますね。どれだけそこ(舞台)の住人になれるかが課題です。舞台って集中力が大事で、一瞬でもパッと我に返ってしまったらもう戻れないんです。幕が下りるまで色んな考えが介入してきて……。我に帰るのは自分の間違ったことをしている時なんですよね。セリフは飛びますし。これまでにもそういう経験はありますよ」


――物凄くスリリングな瞬間ですね。

「そうなっちゃうと続きがキチンと出来なくなるから恐ろしいですよ。だいたい流した芝居をしてしまう時にそうなってしまうんです」


――その瞬間はどんな心境ですか?

「あの……。“帰りたい”って思います(笑)。帰る訳にはいかないんですど(笑)。そういうハプニングが好きってお客さんはいるかもしれないけど、役者にとっては恐ろしいです。ただ、そういうことも含めて舞台は生き物なので、凄く楽しさがありますね」


――そういうリスクがある舞台を仕事として好きになっているとは、また凄いことですね。

「僕の場合、なぜ好きなのかというと、やっぱり舞台という場が持つ空気なんですね。以前出演した赤坂RED THEATERは、楽屋が舞台袖からすぐのところにあるんです。メイクをしていると鏡越しに色んな役者さんの顔が見えるんです。支度をしている人々なんて、普段は見られないじゃないですか。そういう風に一体感のある演劇の作業が楽しくて、舞台という世界の面白さに気づけた。それを鏡が見せてくれたというか。小さくて不便な劇場でもみんなが一緒にやっているワイワイとした感じが好きなんです。


――しかし、三島由紀夫作品にこうも呼ばれるのは縁深いですよね。

「三島さんが呼んでくれているんじゃないかって思います。上から(笑)。それまで読んだことも全くなかったんですが。でも蜷川さん演出で藤原竜也さん主演の『弱法師』は観に行っていましたので、なんとなく世界観には触れていたんですけど……。縁ですよね、ホントに」


――木村さんは出身三鷹ですよね。

「そうです」


――三鷹は太宰の街ですね。

「そうなんです。ウチの中学校から太宰治さんが暮らしていた場所が近くて」


――太宰と三島は生前仲が悪かったみたいです。

「そういう縁もあるのかもなあ。でも、それじゃあなんか、こじつけみたいじゃないですか(笑)」


――三島戯曲は難しいですが、やってみて楽しいということもあるんですか?

「多分、観たお客さんは絶対に。理由なく舞台って凄いって思ってもらえるような戯曲を書くのが三島さんだと思います。面白いとか楽しいはあるけど、凄いって思わせるのはなかなか難しいですよね。そこが魅力ですね」


――確かに、読んだだけではわからないですね。

「そこに役者さんの体現や演出のスパイスが加わって物凄くなるというか」


――稽古がこれからですから、少しドキドキですね。

「顔合わせの日が一番苦手なんですよ。独特の空気があるんですよね。会議室みたいなでっかい場所で……。いきなり壁にぶつかります。やっぱりそこで判断されちゃうことがあるかもしれないので、それが怖いんですよね。ゼロからやるので、いつも不安ですね」


――共演者は上の世代の方が多いですね。別の雑誌のインタビューでは上の世代と一緒にいるほうが楽だと話しておられました。

「『弱法師』の時もそうでしたけど、居心地がよかったですね。同世代の子達って、何を言っているかわからないんですよ。使っている言葉の感じがよくわからないというか、理解出来なかったりすることが多くて。それが年上の方の言葉だと理解しやすいんです。もちろん同世代に友達もいますので、一緒に飲みに行きますけど。なんでしょうね。末っ子だからっていうのもあるかもしれないです」


――先輩に飛び込んでいくのは躊躇しないタイプなのでは?

「そうですね。ただ緊張はしますけどね。でも、基本楽しい。吸収出来ることが多いですからね」


――『朱雀家の滅亡』という作品において、楽しみにしていることはありますか?

「まず、宮田さんがどのように三島作品を手がけるのかが楽しみです。『朱雀家の滅亡』は過去に演出なさっているそうですが、僕はそれを観ていないので、どう演出するんだろうと。あと、國村さんがどのようにされるのか? 舞台は3~4年に一度くらいのペースでしか出演していないそうです。そうなんですよね(と、スタッフの座る後方を向いて)うわっ、こんなにいっぱい人がいたんだ。ビックリした!(笑)。香寿たつきさんもいらっしゃいますし。これだけの役者さん達が、どういう感じで三島由紀夫にいじめられていくんだろうと(笑)。キャスト一人ひとりが三島さんのテキストをどう解釈していくのかが凄く楽しみです。そこから僕もインスピレーションを受けることがあると思うので。楽しみだけど、稽古初日が来るのがドキドキなんですよ」


――演出家によりけりですが、本読みを重視する稽古もあれば、初日からいきなり動く場合もありますよね。

「宮田さんはバッチリ本読みをするそうなので、そこはホッとしています。いきなりは動けないほうなので」


――劇団☆新感線のいのうえひでのりさんは初日から立ち稽古なんですよね。

「その動きをいのうえさんがやって下さるんですけど、それが誰よりも上手い(笑)。凄いプレッシャーになります(笑)」


――舞台の作り方は様々ですね。稽古の進め方に得手不得手はありますか?

「その時その時の演出家のやり方に従います。そこには自我や欲はないので、舞台の場合は、なるだけまっさらな自分で、無色透明でいようとします」


――とても難しいことですね。フラットにすることは。

「とにかく、一番いけないのは、台本を読んで“ここはこうしよう”と作ってきちゃうことですね。言い方が変かもしれませんけど、“稽古場に日常をもっていく”というか……。稽古場に入るまでなんにも考えないんです。お仕事のことも考えない。それは心がけています。考えることで邪魔が入ってしまうから」


――木村さんの演じる朱雀経広は自分の正義を確立しているように思われます。

「読むとそういう感じのキャラクターに見えますが、経広は迷いながら自分の存在意義みたいなものを探している部分はあると思います。臆病で、それを隠すための言葉使いなのではないかと。時代背景が今とは違いますよね。そこでは、父親は絶対的存在です。お父さんに見限られたくないと思っていて、自分の大義を“戦争”というものに当てはめていく。恵まれた家庭なんですが、時代に翻弄された青年なんですよね」


――ドラマなど、仕事の現場が重なるそうですね。素人考えで恐縮ですけど、ごっちゃにならないんですか?

「なる人もいるらしいですけど、僕は重なることもお仕事のひとつだと思うので、特に不安はないですね。逆に舞台の稽古場で大変だとするとドラマの現場が息抜きになることもあります。ただ、ドラマでセリフを言う時、舞台みたいに声が張り過ぎたりすることもあるので、時々微調整しています。音声さん的には張った声のほうが助かるみたいですけど、ほかの役者さんのトーンと合わせていかないとまずいですから」


――せっかく取材出来たのでお聞かせ下さい。木村さんは5年後、何をしていたいですか?

「そういうの、あんまり考えないですね」


――毎日を粛々と生きていくというか?

「その日暮らしなんですよ(笑)。でも考えます、自分の芯みたいなものは。先々仕事が凄く増えた時も、こうして取材を受ける時も、自分の確固たる芯がないといつも答えや判断がブレブレになってしまいますから。18歳くらいの時ですかね、自立しないといけない状況になってからそういう風に考えるようになりました。高校を出て、僕はこれで食っていくしかないと思ってからはそういう風になったのかな。役者業はこれからも自分の仕事にしていたいですが、いつか本を書いてみたいとか、演出してみたいと思うこともあります。でも、実際には多分やらないと思いますね。役者のほうにシフトして、作り手の人達の姿を少し遠いところから見て“楽しそうな世界だな”と思ってやっているのが一番いいような気もします。それで役者の仕事も楽しめると思うし」


――仕事、楽しいですか?

「楽しいですね! たまにしんどい時はありますけれど。今度の舞台も、稽古でしんどくなるだろうけど、ちゃんとしたものをお届けしないといけないですから」


――新国立劇場の小劇場は久しぶりですね。

「僕のスタート地点でもあるので、家みたいな気持ちです。劇場に対しては、なんとなく“ただいま”っていう気分なんです」


『朱雀家の滅亡』

作/三島由紀夫
演出/宮田慶子
出演/國村隼 香寿たつき 柴本幸 木村了 近藤芳正

9月20日(火)~10月10日(月・祝)@新国立劇場 小劇場
問い合わせ/新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999
ホームページ http://www.nntt.jac.go.jp/play/

時は太平洋戦争末期。舞台となるのは、古くから天皇家に琵琶奏者として使え、名門侯爵家として名高い朱雀家の屋敷だ。当主の朱雀経隆(國村隼)は失政を続け権力にしがみつく首相を失脚させ、自らも辞職して宮中を去る。息子の経広(木村了)は女中のおれい(香寿たつき)や婚約者の璃津子(柴本幸)の反対を押し切って出征を願い出る。叔父である宍戸光康(近藤芳正)らの説得も聞き入れず、やがて戦死してしまう。おれいは戦地へ送り出した経隆を責め、彼の死を悲しむのだった。国家への忠誠心や時代の趨勢に翻弄された名家の崩壊を描く三島戯曲の代表作。

2019年08月
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