プラスアクト

インタビュー

古川雄輝×小柳友   (ふるかわ・ゆうき×こやなぎ・ゆう)

江戸初期。イギリス人でありながら、侍として生涯を全うした実在の人物、三浦按針(別名:ウィリアム・アダムズ)。2009年、按針の人生を描いた舞台『ANJIN イングリッシュサムライ』が、今年12月『家康と按針』として再演中だ。徳川家康(市村正親)と按針の通訳を務める宣教師・ドメニコ役の古川雄輝と、小早川秀秋など4役を演じる小柳友に、舞台の話を訊いた。

撮影/吉田将史  文/池上愛

プロフィール 古川雄輝×小柳友(ふるかわ・ゆうき×こやなぎ・ゆう)


古川雄輝(ふるかわ・ゆうき)
東京都出身、1987年12月18日生まれ。7歳よりカナダへ移住。16歳で単身ニューヨークへ。2010年、キャンパスターH★50with メンズノンノにて演技力を高く評価され、審査委員特別賞を受賞。主な出演作は、映画『高校デビュー』『men's egg Drummers』『富夫』『トリハダ-劇場版』『ロボジー』『Miss Boys 友情のゆくえ編』、ドラマ『アスコーマーチ〜明日香工業高校物語〜』『となりの悪魔ちゃん ~ミズと溝の口~』『僕とスターの99日』『リッチマン、プアウーマン』など。公開待機作に『永遠の0』(2013年公開)がある。

小柳友(こやなぎ・ゆう)
東京都出身、1988年8月29日生まれ。テレビ、映画などで幅広く活躍中。主な出演映画は『トウキョウソナタ』『ハナミズキ』『阪急電車』。テレビドラマは連続テレビ小説『つばさ』『マルモのおきて』『私が恋愛できない理由』『ビギナーズ!』など。現在、大河ドラマ『平清盛』(NHK)に出演。映画『カラスの親指』『FASHION STORY-MODEL-』が公開中、また、映画『おだやかな日常』が12月22日に公開予定。

――『家康と按針』は、イギリス人のキャストに演出家、更にはロンドン公演も控えています。古川さんは既にイギリスに行って、キャストの方やスタッフの方とお話ししたそうですね。

古川「はい。10日間ですが、イギリスに行ってきました。舞台の稽古も、僕はこれから現地の方々とやるんです」

小柳「そうなんだ?」

古川「そうなんですよ。イギリスで稽古したあと、日本に戻って日本の方々と稽古をするみたいで」


――古川さんは、英語を話す宣教師ドメニコという役を演じられます。

古川「カナダに住んでいたのでアメリカ英語は出来るんですが、イギリス英語が出来なくて。なので、この10日間でみっちり練習しました」


――イギリスとアメリカでは発音がだいぶ違いますか?

古川「違います。特に“R”“L”“A”の発音が。舌の使い方が微妙に違うんですけど、発音だとだいぶ変わってしまうんです。アメリカ英語を喋ってしまわないように、気を付けたいです。アメリカの英語を喋ってしまうと、時代設定がおかしくなってしまいますから」


――まずは言葉の勉強からなのですね。小柳さんは初舞台ということですが、プレッシャーなどはありますか?

小柳「プレッシャーというよりも、何もかもがわからないです(笑)。お客さんのほうを向いて喋るのか? っていう単純なところから勉強していかなければと思っています。ただキャラクターを作るうえで、自分のスタイルは崩したくないなと」


――以前プラスアクトにご登場いただいた時、キャラクターを演じるうえで血液型まで考えるとおっしゃっていましたが、そのスタンスは変わらずですか?

小柳「そんな時もありましたね(笑)。こんな考えをするくらいだから、こいつはきっと何型だなって考える時がありました。でも最近はちょっと変わってきて。その人の性格を血液型で語ることは出来ないなと(笑)」

古川「確かに(笑)」

小柳「それは色んな役を演じていく中で気づきました。でも、演じる役柄を徹底的に考える、調べるというスタンスは変わっていません。今は大河ドラマの撮影をやっているというのもあり、時代背景が僕の頭の中でごちゃごちゃしてしまいそうなので、敢えて踏み込んだことをしていないんですけど。とりあえず『戦国BASARA』のキャラクターは見ましたけど」


――背中に鍋を背負ったキャラですね(笑)。

小柳「画像検索したら、それしか出てこないっていう(笑)。でも、凄く演じ甲斐のある役なので楽しみです。小早川秀秋以外にも、豊臣秀頼と追手、娼婦の4役を演じます。4役あるからこそ、その役のふり幅を大きくしたいなと思っていて。ぱっと観た時に、違う人が演じているんじゃないのかと思ってもらえるようにしたいですね。娼婦に関しては、単純に楽しみでしょうがないです」


――小柳さんが娼婦を演じるなんて、なかなかないですよね(笑)。

小柳「こんな馬鹿でかい娼婦が、急に舞台に登場するというのも楽しいのではないかと思います(笑)」


――古川さんが演じるドメニコも実在の人物なのですか?

古川「僕の役は架空の人物です。本当にドメニコがいたのかはわかりません。ドメニコは、家康(市村正親)と按針(サム・マークス)の通訳をするんですが、もともとキリストの信者というのは少なくて、その中でも宣教師になった日本人となると、もっと少なくなります。僕の調べた限りだと、資料もほとんどないんですよ」


――そういった中での役作りはどうされてるんですか?

古川「さっきのイギリス英語を喋る時が、ドメニコを演じるうえでの助けになっている気がしています。あとは、僕自身が海外で暮らしていたので、日本の歴史をきちんと勉強してこなかったんです。なので、徳川家康と三浦按針という人物を調べることから入って、そこからキリスト教のプロテスタント、カトリックの違いを調べました。あと『武士道』という本を読んだりもしましたね


――『武士道』ですか。ドメニコは、侍と宣教師の間で揺らぐ場面がありましたね。

古川「キリスト教と武士道がどう繋がるのかという部分を調べたのですが、なかなか出てこないんですよ。もうこれは『武士道』の本を読んだほうが早いと思って。そういう基礎知識を入れつつ、役作りに挑んでいます」


――ドメニコを演じるにあたって、演出のグレゴリー・ドーランからは話はありましたか?

古川「グレゴリーさんは、まず僕の生い立ちから聞いてきました。その生い立ちがドメニコとどうリンクするのかという話になって。彼は役者に“この役についてどう思うか?”ということを必ず聞くそうなんですが、それに応えられない日本の役者が多かったと言っていました。それがカルチャーショックだったそうです。按針役のサム・マークスさんともイギリスでお会いしたんですが、サムさんもそう話されていて。“こっちの役者は、まず自分から言うけど、日本では演出家や監督が意見を言ってから、次に役者が意見を言う”と。だから稽古が本格的に始まったら、色々と自分の意思を先に聞かれるのかなぁと思いました」


――おふたりは自分の意見を先に話すほうですか?

小柳「僕の場合は、多分……監督の意見のままに演じるということが多いと思います。もちろん自分から提案することもありましたが、監督が描いているものを忠実にやるべきだなと思うので。なので自分からこうやりたいと言うことは、ほとんどないです」


――もし小柳さんが考えていた人物像と監督の考えが違ったら、すぐに切り替えられますか?

小柳「う~ん…そうすると思います。やっぱり監督の意見に近づけたいです。ただ古川さんの話を聞いたら、自分で提案出来るくらい、しっかりとプランを考えておこうかなと思いました」

古川「僕は提案というよりも、このキャラはなんでこういうことを言っているのか? これはどういうことなんだろう? と質問することが多いです。自分でもなんとなく解釈はしてるんですけど、それを明確にするために監督に確認するというか。提案となると、僕もなかなかしない…というか、まだまだ出来ないです(苦笑)」


――イギリスの方が演出をされるということで、日本の舞台とは違うディスカッションが生まれそうですね。

小柳「それは凄く楽しみです。海外の方とお仕事する機会なんて、滅多にないじゃないですか。海外の“お芝居”を勉強出来るいい機会だと思います」

古川「ロンドン公演もありますしね」

小柳「そうそう。それも凄く楽しみ」

古川「イギリスで舞台を観させて頂いたんですけど、お客さんのリアクションが本当に面白いんです。演者に聞こえるくらいオーバーリアクションしますから(笑)。そういう部分も凄く楽しみですね」

小柳「映画やドラマと違って、舞台は生で反応が返ってくるのが面白いですよね。でも英語が喋れなくてよかったかも。お客さんのリアクションがわかっちゃったら、僕どうしていいかわからなくなるかもしれない…」

古川「言葉がわからなくても、結構わかりやすいリアクションでしたよ。“Wow!”とか“Oh!”とか」

小柳「そうなんだ(笑)。緊張しますね」

古川「すぐ感情を出しちゃうんでしょうね。ミュージカルを観た時が一番すごかった。観客のみんなが総立ちして、リズムに乗り出してましたから(笑)」


――古川さんも一緒に踊りました?

古川「僕は乗れませんでした(笑)」

小柳「そりゃそうですよね(笑)」

古川「みんなビール片手に舞台を観てました。売り場にはアイスも売ってました。間の休憩にみんなビールとアイスを買って、食べたり飲んだりしながら観てるんです」

小柳「映画を観るような感覚ですか?」

古川「そうかもしれないです。サムもそんな感じで観てましたよ」

小柳「凄いなぁ!」


――日本公演のあとにロンドン公演なんですよね。

小柳「そうですね。公演の間が少し空くみたいですけど…」

古川「そうそう。これはちょっときついですよね?」


――きついとは?

小柳「ちょっとでも期間が空くと、感覚が鈍っちゃうんです。前に、映画の撮影を半年後に再撮することがあったんですけど、半年前と比べたら体型も変わってますし(笑)。もうどんなキャラクターだったかも忘れてしまったので、その時は、前に撮っていたシーンを見せてもらって撮影に臨んだことがありました」

古川「日本公演中も間が空く日があるので、身を引き締めないと!」


――小柳さんは、初舞台で何か気になることはありますか?

小柳「セリフが飛んでしまった時にどうするんだろう? という疑問があります。ある俳優さんは、セリフが出てこなくて舞台そでに戻って台本を確認し、もう一度舞台に出たって言ってたんですけど」

古川「それホントですか(笑)!?」

小柳「凄いですよね(笑)古川さんはどうするんですか?」

古川「僕はまだ飛んだことはないです。ただセリフを噛んでしまったことはあります」

小柳「確かに、それも心配だ」

古川「噛んだあと、一気に汗が出ました」

小柳「うわぁ~! 怖い(笑)」


――観客側も、「この人、噛んだ!」ってちょっとドキドキする時があります(笑)。

古川「舞台が終わったあと、“俺、今日噛んだのわかった?”って俳優同士で確認しあったりして」

小柳「セリフ回しは注意しないといけませんね」


――古川さんは、長いセリフが多いですよね。

古川「そうなんですよ。そこは絶対噛みたくないです」

小柳「あと、通訳の部分も大変じゃないですか?」

古川「そうですね。通訳部分は、おそらく字幕が出るんですが、その字幕よりも先にセリフを言っちゃうとダメなので、セリフを覚えるだけでなく、タイミングよく言うことも大事です。アダムスが喋った英語を聞いて、その数秒後にタイミングよく通訳する。そして僕の最後のセリフがキュー(合図)となって、また市村さんがセリフを喋りだす、という流れになります。タイミングをつかまないと難しいと思います」


――キューが出るんですね。

古川「はい。イギリスキャストの方は全員日本語が話せないので、キューに合わせてセリフを喋りだします。一言一句きちんと喋らないと、どこでキューを出せばいいのかわからなくなってしまう。その喋り出しのタイミングは、全部台本に書いてあり、このタイミングで喋るというように決まっているんです」


――家康と按針、ドメニコの3人の掛け合いが注目ですね。

古川「そうですね。ストーリー的にも、この三角関係がうまい具合に繋がればと思います」


――市村さんをはじめ、多くの役者さんが出演されますが、キャストの中で一番年齢が近いのが、古川さんと小柳さんです。同年代の俳優同士では、役や演技について語ることはあるんですか?

小柳「話す相手にもよりますけど、僕と古川さんに共通の俳優友達がいるんですよ。その子とはよく話します」

古川「僕も同じことを言おうとしてました(笑)」

小柳「凄く熱い人なんです。彼とは芝居について語り合うことは多いです」


――これから同じ時間を共有するので、おふたりが話す時間も増えてくると思うのですが。

小柳「そうですね。同年代の方が極端に少ないので、古川さんが居てよかったです。やっぱり心の拠り所みたいなものがあるのは凄く支えになりますから。あと、今年24歳になったんですけど、この24歳が何かの転機になるのかなって思ってるんです。誕生日会とか開いてもらうと、たいてい今年の抱負とか言うじゃないですか。ここ数年は、ずっと舞台がやりたいって言ってたんです。その抱負が叶ったので、この舞台がいい転機になればいいなと思っています」


――抱負と言えば、古川さんは過去のインタビューで海外進出したいと話していたんですが、覚えていますか?

古川「覚えてないです(笑)」


――英語を使う仕事をやりたいとおっしゃってましたよ。

古川「あぁ! 言いました。だからこの作品は、僕にとって本当に大事な作品なんです。僕は3年ぐらいのスパンで目標を決めていて、この公演が終わるくらいに、その3年を迎えるんです。だから、そういった意味でも、舞台がひとつの区切りになるんじゃないかなって、勝手に思っています」


――もう次の目標は考えていますか?

古川「そうですね。色々あるんですけど、今度は何かの賞を取ってみたいなって思っています。賞はなんでもいいんです。俳優としての賞じゃなくても、例えばベストジーニスト賞でも流行語大賞でも…もちろん取れたら凄いですけど(笑)」


――自分の名前を刻みたいとか?

古川「名前を刻むというよりも、ステップアップしたいっていう気持ちがあります。もちろん役者を評価して頂いたうえでの賞というのがベストなんですけど、とにかく賞を取れば、何かしら評価されたことになるじゃないですか。その評価がステップアップに繋がるんじゃないかと思って」

小柳「この舞台で、賞を取れればいいんじゃないですか?」

古川「そうですね! それが一番いいですね(笑)」


『家康と按針』

脚本/マイク・ポウルトン
演出/グレゴリー・ドーラン(RSC)
共同脚本/河合祥一郎
出演/市村正親 サム・マークス 古川雄輝 高橋和也 植本潤 床嶋佳子 小柳友 小林勝也 ほか

イギリス人の航海士ウィリアム・アダムズ(サム・マークス)は1600年の4月に日本に漂着し、徳川家康(市村正親)と出会う。数カ月後、家康はアダムズが船に積んでいた大砲を使い、関ヶ原の戦いに勝利し、天下統一を成し遂げる。アダムズは家康から功績を称えられ、三浦半島の領地と、その半島の名をとった「三浦按針(みうらあんじん)」という名前を与えられ、日本初の外国人のサムライとなった。按針はお雪という日本女性と結婚、その後も領主として日本で暮らす選択をする。彼は、日本初の西洋式の船を造り、家康に外交や貿易の助言をしながら、ついには家康の生涯の友となってゆく…。

【神奈川公演】
2012年12月1日、2日  KAAT神奈川芸術劇場

【東京公演】
2012年12月11日~2012年12月16日 青山劇場

【ロンドン公演】
2013年1月31日~2月9日 サドラーズウェルズ劇場

2019年12月
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