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インタビュー

葉山奨之   (はやましょうの)

東日本大震災発生後の福島全県でロケを敢行し、地元住民もエキストラとして参加している映画『トテチータ・チキチータ』。この映画は、謎めいた少女の導きによって前世で家族だった4人が出会い、家族や人々の繋がりを描くファンタジー作品だ。葉山奨之は、被災した高校生で、前世では“父親”という立場にある難しい役どころに挑む。

撮影/吉田将史  文/池上愛

プロフィール 葉山奨之(はやましょうの)


1995年12月19日生まれ、大阪府出身。2011年ドラマ『鈴木先生』の千代田役で俳優デビューを果たす。映画『トテチータ・チキチータ』が映画初出演。これからの活躍が期待される新人俳優である。2012年公開映画に3本出演予定。

――映画『トテチータ・チキチータ』はオーディションで決まったんですよね。

「そうです。ちょうど1年前の4月くらい。いくつかオーディションを受けていた作品の中のひとつでした」


――その日のことは憶えていますか?

「頭をぶつけたから凄く憶えてます…(笑)」


――えぇ?(笑)

「オーディションの帰りに、頭をぶつけました(笑)。天井が凄く低くて、ぴょんぴょんしながら帰ってたら…ガツンと。だからその日は凄く憶えています。オーディションも結構長くて、深いところまで質問されたりして。だけど、緊張はしていませんでしたね」


――緊張はいつもしないほうですか?

「いや、めちゃめちゃ緊張します」


――本当に? あまりそうは見えないですけど。

「本当ですか? こういうインタビューもそんなに受けたことがないので、実は今も少し緊張しています」


――今作が映画初出演ということもあり、色んなことが初めてづくしだったと思いますが、クランクインするまでの間、どんな準備をされましたか?

「僕が演じる大越健人は、高校生の陸上部であることと、震災で遠くの学校に通ってることくらいしか描かれていないので、自分なりに健人はこんなヤツなんじゃないかと考えて、思いついたことをノートに書きまくっていました」


――葉山さんが思う健人像ってどんな男の子ですか?

「健人の『バラバラなんかにならないよ』というセリフから、色々考えていきました。お父さんとお母さんがいたんだけど、震災で死んでしまったのかなとか…あとは兄弟がいるんだけど、今は離れて暮らしているのかなとか。健人は震災でどういう風に傷ついたんだろうって凄く考えました。あとは、クランクイン前に被災地を訪れて、そこでイメージをつかんだりもしました」


――被災地を訪れて、どう感じましたか?

「今まではテレビでしかその様子を見たことがなかったんですが、映像で見るのと実際に行って見るのとでは全然違いました。電柱も倒されていて、家ごと流されたのか何もない更地になっていました。まだ海に浸かってる地域もあったし、ぬいぐるみとか家具が一面に散らばっていて…ここって本当に日本なのかな? って…。一時間くらい歩いて周ったんですが、本当に言葉が出なかったです。ただ被災地に訪れたことで、健人を演じる何かがつかめた気もした。健人がここに住んでいたら、どんな気持ちだったんだろうと、凄く考えさせられましたね」


――クランクインの日は、どんな撮影をしましたか?

「インの日は……ほんとダメダメでした。この日に撮影したシーンを次の日に撮り直したりして。3回くらいやり直したんですけど、自分で振り返ってみてもよくなかったですね。モニターで見ても、“うわ~”“あちゃ~”みたいな(苦笑)」


――どういう演技をしてしまったんですか?

「健人が登場する最初のシーンで、凛(寿理菜)ちゃんにハンカチを渡されるところなんですけど、僕は台本を読んで結末を知っているので、先が見えるような芝居をしてしまっていたんです。表情とかが、凄く不自然でした。あとは、相手の気持ちを受けるお芝居が出来ていなかった。ずっと自分だけの演技になっていたというか」


――すぐに改善は出来ました?

「全然! だから何度も撮り直ししたんだと思います」


――主人公・一徳役の豊原功補さんとのからみも多かったと思いますが、大先輩である役者さんの演技を間近に見た感想はどうでしたか?

「ほんとに凄かったです。多分僕と豊原さんが一緒に出ているシーンは、全てアドバイス頂いていると思います(笑)。ここはこうしたほうがいいんじゃない? って細かく指導して下さって…その通りにやると、ほんと上手くいくんですよ。現場で台本が変わっていく部分もあったので、そのあたりも豊原さんが意見をおっしゃっていて、たくさん勉強になりました」


――豊原さんからアドバイスを受けた部分で、特に印象に残っているシーンはありますか?

「凛ちゃんと豊原さんと僕の3人で、湖の周りを歩くシーンです。凛ちゃんが健人に『あなたがお父さんだよ』って話しかけるシーンがあるんですが、台本ではその場で立ったまま言うシーンだったのを、豊原さんが、ここは歩いて移動しながら言ったほうがいいんじゃないかとおっしゃって。僕は立ったままのほうがいいと思っていたから“僕と違うなぁ”と感じていたんですけど、実際に歩きながらセリフを言ったほうが、凄くシーンとして素敵だったんです。あぁ、動作が違うだけでこんなに伝わり方が変わるんだな、と勉強になりました。ほかにも、こんな風に間を置くと健人の気持ちが伝わるんじゃない? と指導して下さったり。言われた通りにやってみたら『いいじゃない』と言って下さって、その時は凄く嬉しかったですね」


――お芝居以外の話はされましたか?

「撮影の合間に話しかけてきて下さいました。凄く緊張して…せっかく話を振ってきてくれるのに上手く返せなかったんですけど(苦笑)。豊原さんは車が凄く好きで、“将来どんな車乗りたいの?”って話しかけてきてくれるのに“○○に乗ってみたいです”と言ったあとの会話が全然続かない! 最後まで会話が続かないままでした(笑)」


――前世が家族だったという4人が集まった疑似家族では、お父さんになる訳じゃないですか。演じるのが凄く難しそうだなと。

「そうですね。なんで自分がお父さんなんだって(笑)。カメラが回ってないところでも、(百合子役の)松原(智恵子)さんが、僕のことを“お父さん”と呼ぶんです。最初僕に話しかけてるとは思わなくて、なんの反応もしてなかったんですけど、何度か呼ばれて僕のことかと気づくっていう」


――(笑)。確かに、松原さんから“お父さん”と呼ばれて、まさか自分の事だとは思いませんね。

「はい(笑)。最初はなんだか気持ち悪いというか…凄く変な気分だったんですけど、次第にだんだんと慣れていって、最後は違和感もなくなりました」


――映画のストーリーでも、健人がだんだんとお父さんになっていく様子が感じられました。

「ほんとですか? 凄く嬉しいです」


――クランクインの時は、全然ダメだったとのことですけど、どのあたりから健人の気持ちに入りこめていきましたか?

「演技を重ねていくうちにですけど…具体的なシーンを上げるとすれば、映画の最後あたりで、松原さん演じる百合ちゃんが病院に運ばれたことを知って、全速力で病院に向かうシーンです。走っている最中に、色んなことが頭を駆け巡りました。“百合ちゃんが危ない、早く行かなきゃ”って・・・その時は、健人の気持ちになれていたのかなと思います。ただ、何度も走らされたのできつかったですね(笑)」


――陸上部の設定だから、走るシーンも多かったですよね。

「クランクインする前は走り込みもしたんですよ。役作りというよりも体力づくりですけど(笑)」


――現地のエキストラの方も撮影に参加されたとのことですが、エキストラの方々とは何か交流はあったんですか?

「同年代の子達もいたので、色んな話をしました。陸上部の練習のシーンは福島の学校なんですが、その陸上部の部長さんは、両親を亡くされていました。その高校は、サテライト校といって、原発事故で立ち入り禁止になった高校の生徒達が、色んなところから集まって授業を行なっています。だから、制服がバラバラなんです」


――健人と同じ学校だった陸上部のマネージャーも登場しますね。彼女は健人に好意をよせているようですが…。

「でも健人は全然好きじゃなかったと思う。好きじゃないというか、女の子に興味がないんだと思います」


――同級生達と一緒にいる健人と、疑似家族と一緒にいる健人は、どちらがより健人らしさが表れていると思いますか?

「う~ん、ひとりでいる時だと思います。例えばひとりで黙々と陸上をしている姿とか。健人ってあまり喋らない子だと思うし、そんなに友達とも積極的につるまない子な気がして。だから同級生といるよりも、ひとりでいるほうが健人っぽい気がするし、疑似家族と一緒にいる時は、“お父さん”という、もうひとりの健人だと思います。百合ちゃんの家で4人が集まると、自然に健人はお父さんになるんですよね。凄く不思議な感じなんですけど」


――本当の自分は、家族がバラバラになっていて、“お父さん”という立場では、また違う家族がある訳ですが、健人はどういう気持ちだったと思いますか?

「多分…居場所が欲しかったんじゃないかと思います。自分のことをお父さんと呼ぶ女の子に出会って、勝手に疑似家族を作られて。最初は戸惑ったり葛藤を抱いたりしたと思うけど、それでも自分の居場所が見つかって嬉しかったんじゃないかなぁ」


――疑似家族を体験して、健人はこの後どうなったんだろうなと思わせる映画の終わり方でした。

「僕も思いました。これをきっかけに健人はどう変わっていくんだろうって考えましたね」


――客観的に観ての映画の感想はどうでしたか?

「福島の風景が凄く綺麗でした。木とか花とか湖とか…いつの間にこんな景色撮ったんだろう? って思うところがいくつもあって。映像を通して、より景色の美しさに気づきましたね。あとは……“早く俺、出てこい”って思いました!」


――あはは(笑)。早く俺を見せろ、と(笑)。

「(笑)。冒頭15分くらいはずっと出てこなかったから、“あれ? まだ出番ないのかな? 早く早く!”って思いながら観ていました(笑)。出てきたら“よっしゃ~!”って」


――(笑)。映画公開では、舞台挨拶もあるけれど…緊張しますか?

「舞台挨拶の映像を探して、予習しないとって感じです。この前小栗旬さんの『キツツキと雨』の舞台挨拶を見せて頂いて、ああ~こんなコメントを言えばいいんだなと勉強していたんですよ」


――葉山君は、事務所の先輩である小栗さんの大ファンだとか?

「めっちゃ憧れてます!」


――どんなところが好きですか?

「何もかも! 全てがかっこいいです。『クローズZERO』の滝谷源治とか超最高です。あれを観て、僕も役者になりたいと思い、この事務所に応募したくらいなので。本当に憧れの人です」


――じゃあもし共演することになったら、最高じゃないですか。

「嬉し過ぎますね(笑)。滝谷の弟役とかないかなぁ。僕も同じような髪型にして、学ランを着てみたい…って影響受けまくりですね(笑)」


――小栗さんとの共演を今後期待しています!

「今は小栗さんと話すだけでも息が止まりそうになっているんですけど(笑)。もっと演技を上達させて、小栗さんと共演してみたいです。頑張ります!」


『トテチータ・チキチータ』

監督/古勝敦
出演/豊原功補 寿理菜 葉山奨之 松原智恵子 ほか
配給・宣伝/アルゴ・ピクチャーズ
事業に失敗し絶望の淵に居た一徳(豊原功補)は、下町のおもちゃ屋で不思議な少女・凛(寿理菜)と出会う。その後、一徳は詐欺まがいのリフォームの仕事を得て、福島のとある民家を訪れる。そこには痴呆症を抱えながら独居している百合子(松原智恵子)が住んでいた。ある日、一徳は福島で凛と再会を果たし、被災して避難を余儀なくされた高校生・健人(葉山奨之)と出会う。そして凛は一徳にこう告げる。「一徳は前世、私達の息子だった。健人は父、私は母。私達を呼んでいる人のために、生まれ変わってここに集まった」。その人物とは、百合子だったのである・・・・・・。
福島先行上映中、4月7日(土)より、全国公開予定!
http://www.totecheeta-movie.jp/
© 2012 映画「トテチータ・チキチータ」製作委員会

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