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インタビュー

小篠恵奈   (こしの・えな)

現在、公開中の映画『ふがいない僕は空を見た』。男子高校生と主婦の不倫関係を中心に、ごく普通の人々が直面する生きることの葛藤や性への衝動を映し出す。小篠恵奈が演じるのは、閉鎖的な団地に住む、あくつ純子。幼馴染の福田良太(窪田正孝)と同じコンビニでバイトをし、日々悶々と暮らしている女の子だ。

撮影/吉田将史 文/池上愛

プロフィール 小篠恵奈(こしの・えな)


1993年11月24日生まれ、東京都出身今年、2012年、映画『カルテット!』でデビュー。ドラマ『クレオパトラな女たち』に出演。映画『ももいろそらを』が来年1月12日に公開予定。その他『四十九日のレシピ』『ほとりの朔子』が公開待機中!

――小篠さんが演じた、あくつ純子はオーディションで勝ち取ったのですか?

「そうです。この作品が初めて自分でつかみ取った役なので、受かった時は凄く嬉しかったです。ただ映画のオーディションがあると聞いていたのですが……どんな内容なのかわからないまま参加して。なので、受かったあとに“こんなに重要な役だったんだ!”と驚きました」


――何が決め手だったんでしょう?

「具体的にはわからないのですが、タナダユキ監督は『あくつだと思った』と仰っていました。自分でも、知れば知るほど似てるなと思いました」


――どういうところが?

「性格の悪さとか…」


――えぇ(笑)?

「あくつって、ちょっとひねくれてるじゃないですか。そういう部分が自分に似てるなと思って。しかもこの性格の悪さを、自分では間違ってない! と思ってるんですよ。そこも似ている気がします。あと、私も団地に住んでいたので、家庭環境も重なる部分がありました」


――あくつに共感することも多いですか?

「共感というよりは、自分自身があくつみたいな感覚に近いです。だから、役を演じるのではなく、自分のありのままをさらけだせば、上手く演じれるだろうと思って臨みました」


――あくつってどんな女の子ですか?

「強さと弱さを持っている、矛盾している子だと思います。例えば、永山絢斗さん演じる斉藤卓巳のショッキングな内容のビラを配って、人に対して悪意のあることをしてみたかと思えば、窪田正孝さん演じる幼馴染の福田良太をなんとかしてあげたいって助けようとするところとか…。色んなことが矛盾しているんですよね、あくつは」


――本当は弱いけど、それを見せたくないから強がっているんでしょうか。

「自分の弱さに気づいていないんだと思います。多分、自分は強いって思わないと、やっていけないんじゃないかな」


――そういう心情は、台本から読み取ったのですか?

「正直に言うと、こういう考えを持つようになったのは、撮影が終わったあとのことです。“あぁ、あくつはこうだったんだな”って、全てが終わったあとに気づきました。撮影時は、自分をさらけ出すことだけをやっていたので、心情をそこまで深く考えることなく演じていた気がします。なので、台本を読んで“こういう心情なのかな”と読み取ったのではないです。……だから凄く後悔したんですよ!」


――もっとやれたのにって?

「それもそうなのですが、撮影が終わってから、なぜかこの作品がとても恋しくなって。作品に携わることが出来てよかったなという気持ちと同時に、演技に対してのやる気みたいなものが、沸々と湧いてきました。もちろん今まで出演した作品全て、精一杯演じてきたんですが、“私、お芝居が好きだな”と感じられたのは、間違いなく『ふがいない僕は空を見た』のお陰です。だから、もっとお芝居が好きという気持ちを持った状態で、あくつを演じたかったです」


――でも、その時の小篠さんだから、あくつを演じられたのかもしれないですよ。

「そうだといいですね。確かに、この時の精一杯な自分を出せたと思います……だけどやっぱり悔しいです(笑)」


――実際に出来上がった映像を観て、どう感じましたか?

「原田美枝子さんが演じた、卓巳のお母さんが凄く自然で面白かったです。まずそこに感動しました。あとは、窪田さんがずるいんです。ずるさっていい意味でですよ。映画はご覧になりましたか?」


――拝見しました。

「窪田さん、ずるくないですか!?」


――演技がうますぎて?

「本当に才能があるなって思いました。おこがましいですが、ライバルになりたいと思いました」


――一番やり取りが多かったのが窪田さんですよね。演じている最中から、窪田さんの凄さをヒシヒシと感じていたのですか?

「演じている最中は、窪田さんのことは福田として接していたので、そういう気持ちはありませんでした。出来上がった映像を観て、“なんだこれは!”と(笑)。 “くぅ~~~!!”っていう気持ちになりました」


――窪田さんのずるい!って思う演技はどこですか?

「卓巳のビラを見た時に、『バカだな』って言うシーンがあるんですけど、そこが“うわっ! 凄い!”と思いました。上手く言えないんですが、表情が凄く素敵でした」


――私は、小篠さんの表情も素敵だなと思いました。卓巳のビラを配っていたのがあくつの仕業だということが福田にばれて、『俺にも半分くれよ』って福田から言われた時の、ニヤリっていう表情が特に…。あくつは性格が悪いとおっしゃってましたけど、まさに性格の悪さがにじみ出るような笑みでした(笑)。

「あの表情は、実はやっとのことで出た表情なんです。髪の毛が顔にかかってしまって、何度も撮り直しをしていたんです。何回もリテイクを重ねたので、どんどん自分の髪の毛にイライラしてきてしまって(笑)。“どうせ今回も上手く撮れないんだろう”っていう思いが上手く合わさって、あの表情を生みました(笑)」


――自分の演技は客観的に観れましたか?

「全然出来ないです。自分の芝居がいいのか悪いのかは全くわからない。どうだったんでしょうか、私のお芝居は…」


――憎たらしい笑顔だったので、素敵でした!

「それなら嬉しいです(笑)」


――試写を観たのは1度だけですか?

「今回の映画は3回観ました」


――1回目、2回目、3回目で感じることは違いますか?

「感じ方が違うというよりも、観るたびに視点を変えて観るようにしています。3回通して観ましたが、あくつが浮いている感じはしませんでした。ちゃんと映画の世界にいた、あくつで私は生きられたかなと思っています」


――+act.2012年11月号のインタビューで永山さんがおっしゃっていたのですが、タナダ監督はほとんど何も言われない方だそうですね。永山さんはそういう環境が嬉しくもあり、難しくもあったと。小篠さんはどうでしたか?

「私は、どっちのほうがやりやすいというのはありません。指示があれば修正しますし、そのままでいいよと言われればそのままやる。“これで大丈夫ですかね?”と、マネージャーさんに聞くことはあります。私の場合は、タナダ監督から『あくつならどう思う?』って聞かれることが多かったです。なので『あくつならこうですかね?』『そうだね』というやり取りを行いました。私をあくつだと思って質問して下さるので、それが凄く嬉しかったし、やりやすかったです。学校でのシーンは特に自由にやらせて頂きました」


――あくつならこうっていう意見は、小篠さんの学校での居方みたいなエッセンスは入ってるんですか?

「いいえ。全部役の気持ちで考えています。撮影の途中に原作本を読んだのですが、学校のシーンはまさに原作を読んでいる最中でした。だから『あくつならこうじゃないですか』と考えやすかった部分はあります。ただ台本と原作は違うので、その点は少し悩みました。原作を読んだから感じるあくつ像が浮かぶんですけど、私が演じるのは原作のあくつではなく、台本の中のあくつなので……。そういう部分での悩みはありましたが、タナダ監督は、違うと思ったら違うとはっきりと言って下さるので、そこは安心して任せていました」


――小篠さんも意見が言える、やりやすい環境だったんですね。

「そうです。凄くやりやすかったです」


――ちなみに学校のシーンというのは、具体的にどのシーンですか?

「校庭で福田とはしゃいでるシーンです。あのシーンは個人的にも好きな場面です。本当に楽しんでる様子が画面を通して伝えられたと思うので、とても印象に残っています」


――映画では、最後に卓巳の希望の光が見えたと思うんですが、あくつはこの先どうなったんでしょうか。

「私自身も、ずっと考えています。今頃、元気にしているのかな? ってなんか変ですけど、考えてしまいますね。原作では、福田と一緒に勉強を頑張る姿が描かれているので、少しは環境の変化が表れるのかなとは思っています。幸せになってほしいですね。どうしてるのかな? ではなく、幸せになってね! と今は思っています」


――あくつに一番幸せになってほしいですか?

「いや、一番幸せになってほしいのは福田です」


――やっぱり福田に注目しちゃいますか。

「しちゃいます。福田のシーンで泣いてしまったので……うーん、窪田さんやっぱりいいなぁ…」


――あはは(笑)。

「原作で一番好きなのは、田岡良文さん(三浦貴大)なんですけどね。田岡さんのエピソードが一番好きでした」


――どういうところが好きですか?

「映画の中では、あくつは田岡さんのことが嫌いなんですが、原作では田岡さんを嫌っていたけれど、次第に嫌いじゃなくなっていくんですよ。その描写が凄く切なくて」


――あくつと福田の関係性はどう感じましたか?

「不思議な関係ですよね。幼馴染なんだけど、ただの幼馴染とも言い切れない。あくつと福田に恋愛感情もないですし」


――切っても切れない関係なんでしょうね。

「私は好きですけどね、このふたりの関係性。多分、お互いの事を友達と思ってないと思います。仲間とかそんないいものではない気がする。もしかしたら共犯者みたいな感覚なのかもしれないです」


――この映画を機に、お芝居に対する気持ちが強くなったとのことですが、小篠さんにとって「演じる」ことはどういう意味を持ちますか?

「すべてが楽しいです。お芝居に対して悩むことも、苦しむことも、全てが楽しい。今、仕事が何よりも一番楽しいですね」


――楽しい! と感じることで、新たに生まれた悩みって何かありますか?

「出来ないことと出来ることの境目がわからなくなりました。昔のほうが、“この部分はダメだったな”とか“ここは結構頑張れたな”という自分なりの判断が出来たのですが、今は何がいいのか悪いのか、よくわからなくなって。それが今の悩みです。今は、他人からの評価でしか、自分の良し悪しがわからなくなっている状態なんです」


――芝居に向き合えば向き合うほど、正解はわからなくなってしまう感じ?

「そうだと思います」


――お芝居の勉強として作品を観ることはありますか。

「作品はたくさん観ていますが、勉強のためではなく、好きだから観ています。この人のお芝居が凄いから観てみようと思って観るのではなく、単純にストーリーに惹かれて観ることが多いです。ただ、作品を観て、この監督の映画に出てみたいなと思うことはあります」


――最近はどんな映画を観ましたか?

「昨日はたくさん観ました。『松ケ根乱射事件』と『紀子の食卓』と『ホノカアボーイ』と『台風クラブ』と…」


――え! 1日でそんなに観たんですか?

「たまにですけど、1日で大量に映画を観る日があります。私はゲームが大好きなんですが、ゲームをクリアするまでひたすらやり続けて、クリアしたら違うことをやりたくなるので、DVDを観ようっていう。それでもう観なくていいやと思ったら、またゲームをやります。ゲーム→DVD→ゲームの繰り返しです。まさに、ふがいない1日ですね(笑)」


『ふがいない僕は空を見た』

監督/タナダユキ
出演/永山絢斗 田畑智子 窪田正孝 小篠恵奈 田中美晴 三浦貴大 銀粉蝶/原田美枝子 ほか
配給/東京テアトル

作品紹介画像:main1_large

高校生の卓巳(永山絢斗)は友達の付き合いで行った同人イベントで、“あんず”と名乗る主婦の里美(田畑智子)と出会い、アニメキャラクターのコスプレをして情事を重ねるようになる。ところが、里美の夫にふたりの関係がばれ、情事の写真や動画をばらまかれてしまう。助産師として働く卓巳の母(原田美枝子)、痴呆症の祖母と極貧生活を送る卓巳の親友・福田(窪田正孝)。それぞれの登場人物が抱える思いと苦悩が絡み合い、やがて一筋の光が見えていく…。
全国映画館で順次公開中!
(C)2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会
http://www.fugainaiboku.com/

2020年07月
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