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インタビュー

中村蒼   (なかむら あおい)

幼いころ家を出て、洞窟でひとりで生活をしてきたという男の姿を描く『洞窟おじさん』で、主人公・加山一馬の青年期を演じる中村蒼。真っ黒な顔、ボサボサの頭で山に暮らす姿を演じた彼は、どんな風に作品に臨んだのか? また、現在放送中のドラマ『本棚食堂』にも出演している中村に、全く異なる作品の面白さを聞いた。俳優としてまもなく10年を迎える中村が今、思うこととは?
撮影/吉田将史 文/渡邊美樹

プロフィール 中村蒼(なかむら あおい)


1991年3月4日生まれ、 福岡県出身。2006年、寺山修司原作による舞台『田園に死す』で主演デビュー。その後もドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。主な出演作に映画『BECK』『大奥』『東京難民』『トワイライト ささらさや』、ドラマ『八重の桜』『なぞの転校生』、舞台『真田十勇士』などがある。現在NHK BSプレミアムにて主演ドラマ『本棚食堂』(毎週火曜23:15〜)が放送中。出演最新作、NHK BSプレミアム『洞窟おじさん』(7月20日21:00〜)、NHKドラマ『戦後70年「一番電車が走った」』(8月10日19:30〜)、TBSドラマスペシャル『図書館戦争』(今秋)、主演映画『春子超常現象研究所』(今秋)、が公開予定。
http://aoi-nakamura.lespros.co.jp

――『洞窟おじさん』の台本を読んだとき、どう思われましたか?

「衝撃的でした。実際にこんなに凄い壮絶な人生を送られた方がいたんだなって思いましたし、実在の方を演じるという責任感を感じました。その方に恥じないように、ちゃんとやらないとなと思いました」


――10代の時期をひとりで山奥で生活するという主人公・加山一馬役を演じる訳ですが、実際に演じるときにどう演じるか、戸惑いなどはありませんでしたか?

「まず普通の人間としていていいのか? どういう風にいたらいいのか? と考えました。監督に『僕は普通にしていていいんですか?』と、聞いたんです。そうしたら、『人がただ洞窟に住んでいるっていう感覚でいいと思う』と言われて。確かに、気持ちは普通の人なんです。家族から冷たくされて、ひどい目にあったのに人を信じて、そして騙されたりもしますけど、人間としてピュアな気持ちを忘れない人物なので、普通にしていていいんだなと思いました」


――撮影で大変だったことは?

「撮影当時は、あまり防寒してなかったので寒かったです。でも、一番思ったのは環境のことよりも、“何をやっても、ぽっかりどこかに穴が空いている感覚”を持たなければいけないということでした。虚しいというか、お金を稼いで普通の人のように物を買って食べられるようになっても、何か100%満たされることはなくて。普通の服を着ていても、どこか寂しさがある。あと、井上順さんと木内みどりさんが演じられている夫婦のところに行っても、素直に甘えられない自分がいるって、安心できないしどこか欠けてるというのを凄く感じました 」


――そういう孤独を抱えている人物ですが、演じられている間は中村さんご自身は精神的に影響はあったのでしょうか?

「暗くなると言うよりは、『はぁ』と、ため息が出る感じですね。撮影はもちろん楽しいのですが役自体が楽しいっていうことはなかったですね」


――山のシーンはどちらで撮影されたんですか?

「富士山の麓で撮影しました」


――山の中での撮影が多かったと思いますが、演じてみていかがでしたか?

「普通の部屋で衣装やかつらとか合わせてもやっぱりどこか、違和感があって。むしろ、ちゃんとロケ現場に行って、こういう格好をしてお芝居したときのほうがしっくりきました。本当に環境と衣装の力と周りの方々の力を借りてやりきる事ができたという感じです」


――中村さんが演じられている加山は、人との交流が断絶されて常識を知らずに育ったという設定ですが、当たり前の出来事に対してリアクションをするという演技と言うのは、いかがでしたか?

「洞窟で生活しているときに出会ったのは井上さんと木内さんが演じられた夫婦で、そこでは触られることにさえもビクビクするということを意識して演じました。監督と話をして、触れられるのが怖いというか、また殴られるんじゃないかっていう感覚は常に持ってやってました」


――微妙な距離感はあるんでしょうね。具体的に演じていて面白かった事、印象に残ったことはありますか?

「いくつかあるのですが…。自給自足の生活をしていたところから、お金を稼ぎ始めるのですが、この人は物を買って食べることとか、どこまで社会を理解してるんだろう? という謎がありまして。お金を数えて、たくさんあることに満足するっていうところはあるのですが、10円玉を10個集めたら100円になるとか、100円を10枚集めたら1000円とか、そういうこと自体、理解をしているのだろうか? という話になって、みんな『うーん…』と。でも、お札は見たことがないっていう設定は明確にあって、でも、小銭はどうだろうと考えたときに、『中学生までは学校に通っていたし、それはわかるんじゃないか?』という結論に達しました」


――なるほど、確かにそこは知って演じたほうがいいですよね。

「他にも車に乗るシーンがあったのですが、まず、車は知ってるんだろうか? 乗ったことはあるんだろうか? という疑問が浮かび、『乗ったことはないのでは?』『じゃ、ドアの開け方はわかるだろうか?』『どうだろう?』というやりとりが監督やスタッフさんの中であったりして、それが、迷路にハマりだすみたいな(笑)。結局最初に車に乗るシーンは、車の前でどうしたらいいかわからず立ち尽くして、運転する人にドアを開けてもらう、という描写になりました」


――普段意識していないことを考えて演じなければいけないっていうのは、なかなか特殊ですね。そして、この作品の中村さんのビジュアルを見たときに、これは中村さん? と、驚きました。ご自身でこういう格好をしたとき、どう思いましたか?

「自分では姿を見ずに演じていたので、そのときは何も思わなかったのですが、こうして作品情報が解禁になってシーン写真を見たときに、『あ、こんなんだったんだ』って、思いました(笑)」


――この姿から、どう社会復帰して行くのかが気になりますね。

「そうですね。あと、少年時代を演じていた(富田)海人君とか、リリー(・フランキー)さんとかどういう風に演じているのか気になります」


――自分が演じたシーン以外をご覧になることはなかったんですね。

「はい、リリーさんの撮影の前に僕のシーンを撮ったんです。だから完成した作品を見るのがとても楽しみです」


――また、ドラマ『本棚食堂』にも出演されるということで。去年に続いて今年も放送されることが決まったとき、どう感じましたか?

「続編をやらせていただけるという嬉しさがありました。ありがたいですね。キャストメンバーも同じなので、再びご一緒できるのも楽しみでした。『本棚食堂』はいい意味で平和なんです(笑)。昨年の放送では、本を読んで料理を作るというのが基本だったんです。でも、今回は、連ドラになって、家族が出てきたり色々と展開があります。ただ、撮影現場の平和な空気は相変わらずでした 」


――料理がメインのお話ですが、今回はどんなお料理を作ったんですか?

「僕は、“夜食編”でうどんを作ったり、男らしい料理ということで、ステーキを作ったりとか。他にも、パスタの回、ネギを使った回があったり、中華も作りました。でも、一番美味しいと思ったのは、トーストなんです。トーストにバターを乗せて焼いて、塩を振るんです。それが一番美味しいって、料理の先生に言ったら、『え?』って。『あれだけ色々作っているのに…』って(笑)。パンに塩を振るとこんなにうまいなんて! っていうサプライズがありました」


――料理をする仕草って、やり慣れてないと大変かなって思ったのですが、料理は得意ですか?

「いや、全然。ひとり暮らしなので、料理をしないことはないんですけど、大変ですね。片付けとかもありますし。あと、作った分だけ食べちゃうんですよ。外で食べたらこんなに食べないのに、自分で作ったら異常な程食べてしまうんです。さらに1品だけじゃなくて別なものを作るじゃないですか。だから、お金がかかって割にあわないからこれはダメだな、やめようって思って、やらなくなりました(笑)」


――自分で作ったら、残したくないですしね。実際に、演じながら料理も作るって大変ではないですか?

「そうですね、でも今回の場合、プロの方にお願いすることのほうが多かったんです。共演の柄本時生君と僕とで、具材を切るとか、じゃがいもの芽を取るとかなら、出来るのでやろうとするんですが、『じゃ、代わります』って、プロの方が(笑)。だから、また次回続編をやらせていただけるなら、ちゃんと料理シーンが出来るようにしようって、時生君と話してました(笑)」


――中村さんは器用なほうですか?

「いえ、全く器用じゃないです。でも、マンガを描くシーンは凄く楽しくて、先生に『おふたりはどんなマンガが好きですか?』と聞かれて、好きなマンガの話をしたら、何ページか印刷して、僕達が写せるようにして下さったんです。お陰で、楽しくマンガを描くシーンが出来ました」


――料理にマンガに、なかなか珍しい作品ですよね。では、作品と離れつつ。中村さんご自身についてお伺いします。今後、ドラマ、映画と公開になるものがたくさんありますが、デビューしてからもうすぐ10年になると思います。俳優としての今の自分をどう思われますか?

「もうすぐ10年目ですけど、10年目だから気づけることも絶対ある思っています。だから、これから凄く楽しみです。もっと色々な事に気づいて、色々な気持ちが湧いてきて、こうしたいとかああしたいとか思うと楽しみですね。前向きに捉えてます」


――デビューしときと今で、気持ち的に変わったことはありますか?

「デビューしたてのときは、なぜか変な自信があったんです。『よし、今日はうまく出来た!』とか。実際は全然出来てないんですけどね。今は、それが全然ないです。それは凄くいい意味でちゃんと自分で冷静に気づけるようになったし、お芝居は相変わらず難しいなと感じるのですが、それをちゃんと楽しめるようになりました」


――今、20代で活躍されている男性俳優さんがたくさんいらっしゃいます。色んなタイプの方がいらっしゃいますけど、中村さんご自身では同世代の20代の俳優さん達をどう見ているんですか?

「やっぱり気になりますし、いいなとか、羨ましいって思ったこともあります。意識はしてると思います。尊敬もしています。でも、僕の場合、同世代の人とか、同い年の人は結構いると思うのですが、あまり繋がりがなくて(笑)。自分よりちょっと上くらいの方々と話をする機会が多いです」


――中村さんは、落ち着いている印象があります。悩んだり することってありますか?

「僕は、割りとせっかちなんですけど、そうは見えないって昔から言われます。不安になる事もありますし。この前、藤竜也さんとご一緒させて頂いたときに、『藤さんは、24歳のとき、どんな気持ちでいたのですか?』と伺ったんです。そうしたら、藤さんは『前も今も僕は不安だよ。そんなの当たり前だよ、逆にそんな風に思ってなくてどうするの!』と仰っていたんです」


――なるほど。私も役者は不安な生き物だというのを聞いたことがあります。

「そうですよ、色んな不安があります。でも、楽しいです。こんな楽しい仕事はないと思います。本当に」


スペシャルドラマ 『洞窟おじさん』

原作/加村一馬『洞窟オジさん  荒野の43年』
脚本/児島秀樹 吉田照幸
演出/吉田照幸
出演/リリー・フランキー 中村蒼 富田海人 井上順 木内みどり 浅利陽介 坂井真紀 尾野真千子 小野武彦 生瀬勝久 ほか
7月20日(月)夜9時00分~10時59分 NHK BSプレミアムにて放送

『本棚食堂』

脚本/田口佳宏 金子洋介 本田隆朗
音楽/新澤健一郎
演出/宝来忠昭 井川尊史
出演/中村蒼 柄本時生 山下リオ 遊井亮子 逢沢りな マキタスポーツ ほか
毎週火曜日 午後11時15分~午後11時45分 NHK BSプレミアムにて放送中

2020年12月
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