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インタビュー

水間ロン   (みずま・ろん)

明光義塾が“おしえるしごと、おそわるしごと”をテーマに製作したショートムービーに出演している水間ロン。生徒に対して真摯に向き合う塾講師役を演じた彼は、この作品で言葉ではなく表情で演じる難しさを感じたという。今回のインタビューでは、ショートムービーの撮影の裏側と、俳優として自らを厳しく律する姿が印象的な水間の、以外な過去に迫る。

撮影/鈴木さゆり ヘアメイク/遠山美和子(THYMON Inc.) 文/渡邊美樹

プロフィール 水間ロン(みずま・ろん)


1989年10月28日生まれ。中国・大連出身、大阪育ち。大学を卒業後、上京し俳優活動を始める。主な出演作に、舞台『異人たちのラプソディ』『地獄門』、WEBムービー『明光義塾 ~おしえるしごと おそわるしごと~』(監督:大久保拓朗)、トリウッドスタジオプロジェクト『色褪せて香る』(仮)(監督:横山久美子)、 CMでは『東京シティ競馬』(監督:李相日)などに出演。

――明光義塾のシートムービーを拝見しました。実話を基にしているストーリーですが、まずお話を読んだ時、どう感じましたか?

「最初に台本を頂いて読んだ時は、自分の中学3年生の時を思い出しました。僕は、塾には行ってなかったんですけど、ストーリーの中で先生が自分の教え子の合格を喜ぶシーンがあって、それが『僕の高校合格をこんなに喜んでくれる人はいたかな?』って思いました。ああいう熱い感じの先生はいなかっただろうなと」


――そうですね、なかなか、喜びを熱く表現する先生は現実には少ないかもしれませんね。でも、そういうキャラクターの講師を演じた訳ですが、どうやって演じようと思ったんですか?

「塾の先生って、最初はパッと思い浮かばなかったんです。なので、はじめはこういう塾の先生が描かれるドラマ、映画作品がないか探したんですが、なかなかなくて。そこで、大学時代に塾の講師のアルバイトをやっていた友人に、どんな風に受業をしていたか聞きました」


――参考になるところはありましたか?

「直接、演技の参考になったと言うのはなかったんですが、こういう風に1時間で1人を教えて…とか、どんな形で授業をするのかなどを教えてもらいました」


――現場で明光義塾の方からお話を伺ったりすることなどはあったのでしょうか?

「身だしなみについて説明して頂きました。そして、これは偶然だったのですが、生徒役の鈴木さんが実際に明光義塾に通われてて、『先生はこんな感じです』って教えてもらいました」


――それは、嬉しい偶然ですね。この個別指導のスタイルは、明光義塾ならではだなと思ったんですが、そこから演技で気をつけようと思った事などはありましたか?

「教室内を移動するシーンで、実際、撮影の時はいないんですが、女子生徒の席の前にどんな生徒がいて、後ろにはどういう生徒がいるのかは考えてました。そこから、初めて女子生徒のところに行く時と、慣れてきて2、3回目に行く時とで、どう変化をつけるかというのは意識しましたね。講師側からしたら凄く手強い生徒なので、移動する時にちょっと億劫になる気持ちも出てくるのかなと」


――この物語では、書くことがこのふたりのコミュニケーションだっていうのが、凄く大事なポイントになってますよね。

「そうですね。ただ、書いてコミュニケーションを取るのは、凄く億劫でした。自分だったらめんどくさいと感じてしまうかもしれないって思いました。でも、書いている内容は授業の内容しか書いていないんですけど、最後にもらう手紙には生徒の気持ちが書いてあったので、普段言えないことも書けば伝えられるのかなって思いました」


――作品はどう撮影されたんですか?

「撮影自体は2日間でした。結構カットを細かく割って、ストーリーとは関係のない順番で撮影したので、正直言って難しかったです。『今から撮るシーンは出会ってから2日目ね』って言われて、服だけ着替えて同じ席で『じゃ、今度は慣れてきてからのシーンを』って言われた時は、難しいなって思いましたね。1シーンを演じた後に、すぐ違う日のシーンを演じるので、顔の変化とかこれで分かるかな? って思いながらやってました。更に、セリフが途中から“書く”ことに変わるので、表情だけで分かるのかな? って」


――今回のショートムービーは、塾講師になろうというメッセージの基に作られていると思うのですが、そういうものは意識して演じられたのでしょうか?

「この作品のテーマが、“おしえるしごと、おそわるしごと”です。教える仕事は塾講師で、教わる仕事は生徒のことだと思うんですけど、塾講師側も教わることってあると思うんです。だから、これから塾講師をやりたいと思う人は、ただただ教えるだけじゃなくて、自分も成長出来る場所として始めてもらえたらなって思いました」


――この作品で講師役を演じてみて、教える仕事ってどんなものだと思いましたか?

「かなり大きく言ったら、その生徒の人生がかかっていますよね。高校受験とか、これからどうするか…。責任感は凄くあると思います。しかも、個別授業なので、先生と生徒は一対一ですけど、先生が見る生徒は沢山いるじゃないですか。僕だったら塾講師は出来ないと思うんですけど、そうやって生徒全員の進路を見守るっていうのは、本当に凄いと思います」


――では、水間さんご自身のことについてもお伺いしたいと思います。お生まれが中国だそうですが、いつごろ日本に?

「生後3カ月で日本に来ました。それからずっと大阪で暮らしていたんですが、たまに長い休暇の時に中国に言ったりは結構してましたね。母の故郷が大連にあるので」


――中国語も喋れるんですよね?

「ぼちぼちですね」


――何がきっかけで俳優になろうと思ったんですか?

「なりたいと思ったと言うか、最初に映画とかテレビを好きになったのが母と父の影響でした。両親がジャッキー・チェンが好きだったので、ずっと小さい頃から一緒に見ていて、そこでただただかっこいいなって思って、ジャッキー・チェンの映画を好きになりました。でも、そこではまだ自分が俳優になろうとは思ってなかったです。そこから、小、中、高とずっとバスケットボールをやっていて。高校でバスケットボール部を引退した時に、今までずっとバスケしかやってなかったのでこれからどうしようって思ったんです。その時に、テレビが好きでよく見ていたので、自分もテレビに出たいなって思って、俳優になりたいなと。それで、親に東京に行きたいと言ったんです。でも、両親からせめて大学は出てくれと言われて、地元の大学に通いました。大学を卒業したら自由にやっていいよということで、卒業後に東京に来ました」


――東京に来た時は、すでに事務所に所属するとか決まっていたんですか?

「いえ、決まってなかったです。知り合いもほとんどいなかったです。何も知らずに、とりあえず出てきました」


――凄いですね! でも、そこからどうやって今に至ったんですか?

「とにかくオーディションを受けて、舞台をやったりしてました。でも、一時期、中国をひとりで旅したりしていた時期がありました。ロードムービーが好きで、そういう映画に憧れて旅に出ました。僕、『モーターサイクル・ダイアリーズ』が一番好きな映画なんです。ああいう男の旅が好きで。あと、『イントゥ・ザ・ワイルド』や『マイ・プライベート・アイダホ』も好きです」


――でも、現実にはなかなか映画のような旅と言うのは難しいですよね。

「はい。でも、どうしてもそういう旅がしたくて、日本でもヒッチハイクで旅するというのは結構やってました。ヒッチハイクを始めたきっかけは、実家のある大阪に東京から帰るためだったんですが、お金が無かったので極力お金を使わずに帰るためにはどうしたらいいかって考えて、映画の影響で“ヒッチハイクで帰ればええやん!”って思って(笑)。初めてヒッチハイクした時、案外すんなり帰れたんです。それで、味をしめたんです(笑)。もちろん、2回しかヒッチハイクしないで帰れる時もあれば、何回も刻む時もあります。ある日、大阪までヒッチハイクしようと思っていたんだけど、このままどこまで行けるかな? と思って、2週間くらいかけて、鹿児島に行ったことがあります。色んな街を転々としながら。で、そこから東京までは一度も高速道路を降りないで帰ろうって決めて、1日で帰りました」


――凄いですねー! 経験したことのない人間からすると、大変そうなイメージなんですが。

「一度、深夜に田舎の真っ暗な国道沿いで降りることになった事があって、その時は3時間くらいなかなか乗せてもらえる車に出会えなくてきつかったですね。その間、ずっと国道沿いをあるいてました。街灯もあまりないので、僕の姿がドライバーから見えないんです。1月の冬の時期だったので、寒かったですし。歩いて道の駅みたいなところへ行って、そこのベンチで仮眠をとりました。でも、ヒッチハイクで苦労したのはその時くらいですね」


――よく無事に帰ってこれましたね。

「大丈夫です、日本は安全なので(笑)」


――では、話を少し戻して…。今の事務所に所属されたきっかけは、応募だったんですか?

「そうですね。東京に出てきて、いくつかの事務所に履歴書を送ったのがきっかけですね」


――ザズウさんには、松重豊さんや田中要次さんなど、魅力的な俳優さんが所属されてますよね。受かった時はどうでしたか?

「めちゃくちゃ嬉しかったです!」


――作品に出演するようになった今の心境としてはどうですか?

「自分は何も出来ないって、日々思います。自分でやろうと思っていることと、やれていることは違うなと。上手くやろうと思って演じるとそれが空回りしたり、自然がいいよって言われて、考えないで演じた時の方が良かったり…。なので、自分の今の感性は、いい方向を向いていないんだなと思います」


――なるほど。でも、そういう自覚があることは大事ですよね。自分の出演作を見て思うことは?

「もっとこう出来たよなとか、反省がいっぱいありましたね」


――そういう時に、悔しい気持ちになりますか?

「なります。ちゃんと行動に残さないといけないと思うので。危機感を持って臨んでます」


――今、自分の将来の目標っていうのはどう想像してますか?

「今は、先のことはあまり考えられないですね。次の作品のことしか考えられていないです。1年後も半年後も想像出来ないです。今、死ぬ気でやらないと、残っていけないって思ってます」


――では、今が頑張り時ですね。今、映画の撮影中だとお伺いしました。

「はい。自主映画作品なんですが、僕が演じる役は、サッカーをずっとやってきたんですけど、大学時代に怪我をしてしまってサッカーが出来なくなってしまった青年・新という人物です。昔は輝いていたのに、今はコンプレックスを抱えて生きているキャラクターで、そういう昔と今の違いに悩みを抱えているような若者たちがどう生きていくかというのを描いた物語です」


――演じてみていかがですか?

「足が悪い役というのが難しいです。足ばかりに意識がいってしまう時があるので」


――この作品は、人物の繊細な感情を描く作品のようですね。

「出てくる人がみんな不器用なんです。言いたいこととか、そのままストレートに言えるのに回りくどく言ったり…、でも、そういう人物を演じてみて、面白いなと感じました。自分はどちらかと言うと、ストレートに言うタイプだと思うので。あと、僕自身がこういう人間ドラマを描く作品が好きなんです。なので、こういう役を演じることが出来て嬉しかったです」


『おしえるしごと、おそわるしごと』

監督/大久保拓朗

「無口な少女」
出演/水間ロン 鈴木美羽
「紙を破く少年」
出演/朝倉あき 田中偉登

http://jukukoushi.meikogijuku.jp/movie/

トリウッドスタジオプロジェクト第10弾作品
『色褪せて香る』(仮)

出演:佐藤玲、水間ロン、黒羽麻璃央、落合モトキ、岩井七世、田中要次、研ナオコ
監督・脚本:横山久美子
2015年秋 下北沢トリウッドにてロードショー

2021年03月
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