プラスアクト

インタビュー

坂口健太郎   (さかぐち・けんたろう)

雑誌『メンズノンノ』で専属モデルとして20年ぶりの単独表紙を飾り話題となった坂口健太郎が、満を持して俳優デビュー。人生初のお芝居となった映画『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』について聞いていくうちに、意外な素顔も垣間見えてきた。

撮影/Sai  文/船田恵

プロフィール 坂口健太郎(さかぐち・けんたろう)


1991年7月11日生まれ。東京都出身。『MEN'S NON-NO』専属モデルとして活躍。人気女性誌『non-no』、『MORE』、『Seventeen』などにも登場し男女問わず人気を集めている。モデル以外にも俳優として活動の幅を広げており、10月25日公開の映画『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』でスクリーンデビューを果たす。今後は、『甥の一生』『at Home』(ともに2015年公開)と出演映画の公開が控えている。

――お芝居にチャレンジしたいと思った理由は?

「何かの作品を観てとか、この役者さんが凄く好きで、とかではないんです。高校生の時に少し思ってて、徐々にそれが大きくなっていき、モデルをさせて頂いてるうちに視野も広がり……固まったという感じです」


――高校生で何故役者になりたいと思ったのでしょうね。

「僕、昔は悪目立ちしたいタイプで。保育園の演芸会では、みんなが桃太郎やキジ・サルをやりたいって手を挙げるなか、鬼を演じたかった。三匹の子豚でもオオカミをやりましたしね。そういう感覚を持っている子供だったところに、昔小さな劇団に入ってた母親がかなりの読書好きで、僕に『この本の○○が健ちゃんに似てるよ』とか頻繁に言ってくるんです。だから、本を読む時に自然と自分を投影するようになったりして、今思えば、そういうことが影響してるのかもしれない。演技というものをそこまで遠く感じてはいなかったというか」


――お母さんの薦め方が面白いですね。「本を読みなさい」ではなくて。

「ほんとに。『芝居をやってみれば?』とも一言も言われたことがないですしね。でも、母と姉はめちゃくちゃ僕に厳しいんです。実は『シャンティデイズ~』を3人で一緒に観たんですが、終始無言でした(笑)」


――まだ人生初のお芝居な訳ですし。

「はい(笑)。それに、本当にいいと思った時にしか褒めない母なので。かと思えば、小さいころ、両親の留守中に僕が床にパンダの絵を落書きしたことがあって。怒られるだろうなぁって覚悟していたら、母が見て『素晴らしい!』と。おまけに家族みんなでパンダの絵と写真まで撮りました。不思議な人です。そういえば、僕はよく“クレヨンしんちゃん”みたいな子だねって言われてました」


――え? どこがですか?

「お尻を出すとかではないですよ(笑)。保育園の徒競走で1位ゴールを果たしたのに止まらず、そのままもう1周走り続けて先生に捕まえられたり。もう、思うがままで。今はさすがにしないですけど」


――(笑)。その子が成長して、学生時代は?

「中学校は入るなり担任の先生に『もうおまえはバレーボール部だ』って言われて。身長が高かったので顧問だった先生にはベストな新人だったんでしょう(笑)。他の部活を見学に行く隙も与えられずにバレーボール部員。物凄くスパルタな部だったので、中3の時に高校へ行ったらもうバレーを辞めて、何をやろうって考えたんです。それこそ演劇も少し頭をよぎったり。なのに、高校でも結局バレー部に入るという……」


――(笑)。そして『メンズノンノ』専属モデルとなり、映画初出演です。初演技はいかがでしたか?

「前日は結構熟睡出来まして(笑)。でも、モデルの時もそうだったんですが、最初は何をすればいいのかが全然わからない。ずっとそういう想いを抱えながら現場に居て、気が付いたら終わっていたというか」


――カフェの店員・瞬を演じていますが、印象的な役柄ですよね。

「丸1日で撮り終わったせいか、不思議な……あまり憶えてないまでは言いませんが、スーッと通り過ぎた時間のような。たぶん、役柄が自分自身とそこまで離れた感じではなかったので、変な気負いや焦りを持たないで現場に居られたからだと思います。もともと台本にはなかった役で、永田(琴)監督が付け足して下さったんです。『瞬は坂口君だから』とも言って頂いて、自分とイコールだと思える役柄を頂けたことが本当にありがたかったし、だからこそ今こういう風に言えるのかなって」


――台本を貰った時は感動しませんでしたか?

「それは本当に。最初は台本というものがどんなものなのかも知らなくて、受け取った重みを感じるというか、『あぁこれが台本か! これに出るのか!』と。家に帰ってすぐに読んで……なんかニヤニヤしました」


――何もかもが初めてですからね。

「はい。だって、現場で飛び交う言葉すらわからないですから。『テレビわらって!』と聞いてソワソワしました。テレビに向かって笑えばいいのか? って(注:映像業界用語で片付ける・どかすの意)。だから、色々見て知ることが出来て、まずはよかったなって思います。役柄のおかげもあって自分が自然に居られたし、みなさんのお芝居もたくさん見ることが出来ましたしね」


――その後、『娚の一生』や『at Home』など話題作が続きますが、いかがですか?

「いや、まだまだ何も……自分はまだまだ。芝居の“し”もわかってないと思います。もちろん少しずつ経験は増えてますが、やっと現場で、この時間はなんのためのものなんだとかが把握出来るようになったくらい。監督によって全く違う部分もあるし、色々想像していたことは自分の想像でしかなかったし、新しい現場では新しい役柄と考えれば、一度全てをゼロにして臨まなければなって。そこが少し難しいですね」


――それ、気づきですね。

「あ、でもどうだろう。まだ全然。なんか、新しい作品のクランクインの時に、“あ、この現場はこういう感じなんだ!”と思っちゃったんですよ。それって、自分の中に何かイメージが入ってしまっているのかなって」


――“知って”しまった難しさ?

「そうなんです。初めての時は、何も知らないから全てをすんなり受け入れられて、スーッと入ることが出来たけど、今はまず“あ、ここはこうなんだ!”っていうビックリが先に来てしまう。それはつまり、以前の現場を少し引きずってるってことですよね? よくないなぁと思って」


――モデルのお仕事ではそういうことはないんですか?

「モデルだと、やっぱり“坂口健太郎が着ている”というのが前提にあります。ある程度、自分のまま普通にいけばいいって思える部分が先にあるんです。でも、お芝居だと違いますよね」


――なるほど、そうですね。では完成した『シャンティデイズ~』を観ていかがでしたか?

「全然客観的に観れませんでした。自分は何をしてるんだろう……というか。それはお芝居どうこうでもなくて、全く説明が出来ないモヤモヤした感覚。なんか、かゆくなってくるというか。“もうすぐカフェのシーンになる……うわぁ!”ってなりながら観てました」


――劇場でも観たいですか?

「(咄嗟に顔を覆って)わぁ! どうだろう!? 劇場でひとりだったら観たいです。でも、どうなんだろう、この感覚。悪い意味ではなくて、モデルの時みたいに(映像の自分に)慣れてきたりするのかなぁ」


――全く違う役柄を演じていく訳ですし、慣れるのには時間がかかりそうですよね。ずっとカフェ店員を演じる役者さんなら別ですけど。

「ははは! 今日はこんなカフェで、今度は○○を作ろうと思います! って」


――それも楽しそうですが(笑)。

「時々、来年は何してるんだろうとか思ったりするんですよ。あまり考えないようにはしてるんですけど」


――よく考えちゃう人なんですか?

「僕、他人(ひと)にはよく『何も考えてなさそうだよね』って言われるんですけど、自分の中では考えてるつもりで(笑)。たぶんあまり感情を外に出さないからだと思います。お酒飲みに行っても相談することはなくて、相談されることが圧倒的に多い。内面を出さないんですよね……その自覚もあります」


――それでどうやって解消を?

「勝手に消化している感じ。あまり溜め込まないようにしてるのかもしれません。例えば嫌なことがあっても、3年後は大丈夫だろうって思ったり」


――え、3年? 結構な長さじゃないですか。

「ははは。なんていうか、あまり深く(自分の中に)入れないようにしてる。それはスルーしている訳ではなくて、考えてなさそうと思われてるくらいがいいなって。感覚自体が凄く内向きなのかな。もしかしたら恥ずかしいのかもしれない、100%自分を出すのが」


――だから、桃太郎ではなく鬼なんですかね? 100%の主役ではないというか。

「どうかなぁ。あぁ、でも、仮面ライダーやウルトラマンとか、全く通ってこなかった。男の子なのに。ガンダムとかのプラモデルにハマった記憶もないし、漫画やアニメを面白いと思ったのも大人になってから。あれ? 僕、何してたんだろう……子供のころ」


――(笑)。土手に座ってボーっとしてた?

「そこまでフワフワはしてないと思うけど(笑)。小学校が私立だったので、電車通学だったんですよ。だから地元に友達が居なくて。学校から電車で帰ってきて…帰って……何を……」


――何をしていたんでしょうね(笑)?

「えーっと、ボーイスカウトをやってたんだけど、あれは休日だけだし、そもそも平日の話だし(笑)。ゲームも1日30分って決まってたから、それでも時間はある訳だし……もしかしたら寝てたのかなぁ。保育園ノートにも『健ちゃんは寝て治す』って書いてあったから(笑)。僕、今でもアラームをセットしないで寝ると、起きたら16時とかなんですよ」


――え? 夕方?

「凄いですよね。寝過ぎで気持ち悪くなって起床」


――色々謎ですね。

「ははは! 僕も幼少期がここまで謎だったと今日発見しました。近いうちに母親に聞いてみようと思います。そういえば、よくお姉ちゃんのクラスに行ってお弁当食べてたなぁ」


――え? どうして?

「僕、凄い忘れ物が多くて。ランドセルとか忘れて学校に行っちゃうんです」


――え? 

「ランドセルも忘れちゃうし、お弁当もね。で、それに気づくのが、電車で座った時。シートに寄り掛かって……『あれ? 背中に(あるはずのものが)ないっ!』と。小学生ながら自分でもビックリ。だから、お昼にお姉ちゃんのクラスに行って、お姉ちゃんのお弁当をお裾分けしてもらうんです。お弁当の蓋にのせてもらう(笑)」


――まるで飼い猫だ(笑)。

「ははは! お姉ちゃんのクラスの人達にも『また健ちゃんお弁当忘れたんだぁ!』って。しかしまぁ、ランドセルを頻繁に忘れるって、なかなか居ないですよね。本当に気づきが遅い。あと、林間学校の時『全員校内着での参加です』って言われてたのに、ひとりだけ制服で行っちゃったり。かなりの悪目立ち」


――先程話してた“クレヨンしんちゃん”が見えてきました。

「今はないですよ……って、また同じこと言ってますね(笑)。でも、そんな僕ですが、中学では生徒会長だったんです」


――え! 立候補したんですか?

「いや。先程話したバレーボール部顧問の担任の先生が、“おまえが立候補しない訳ないよな”モードでプレッシャーかけてきて(笑)。でもほんと、どうしてかわからないんですけど、高校でも、もう絶対委員長とかやりたくないって思ってたのに、誰も立候補者がいないと『じゃあ坂口!』ってなるんですよ」


――どうしてなんでしょう(笑)?

「なんか、目立つみたいで。あ、今、思い出した! 小学校時代、どうして僕はこんなにいつもいつも怒られるんだ? って感じてた時があって。そのころ、先生との面談でもうちだけ三者面談。母親もモンスターペアレンツとかではなく、『もしうちの子の勘違いだったら申し訳ないんですけど、自分だけどうしてこうも怒られるんだろうって言ってる時がありまして……』なんて先生に聞いたりして。そうすると先生は『生徒がたくさん集まってて、その中に坂口君が居ると、なんか悪いことをしてるように見えるんです』と。悪目立ちというか、首謀者に見えるみたいで」


――えぇーっ!?

「母も『えぇーっ?』って(笑)。僕も小学生ながらに“それはあまり理屈が通ってないのでは?”と思いました。でも、たぶん変な動きが多かったんじゃないかな。あと、お尻が軽いって言われた」


――えぇーっ!?

「授業中でも走り回っているというか、いきなり立って逆立ちを始めたり。……よく考えれば、うちだけ三者面談のはずですね(笑)」


――面白過ぎますね。今日は驚きました。

「ははは。今日はこちらこそだいぶ掘り起こして頂きました。たまにインタビューでもポカーンとされて終わりみたいな時があって(笑)。ここまで広げて聞かれたり話したりすることは稀なので、僕も面白かったです。今度、母に色々聞いてみよう。保育園ノートだけでも“おかしな子”感満載なんですけど」


――保育園ノートでの他のエピソードとかありますか?

「つい最近片付けをしてたら出てきたノートなのでありますよ(笑)。お店でスーツケースを見ていた時に、姉が僕に『これは車ですか?』と聞いて、僕が『違うよ。これは掃除機ですね』と答えるという……」


――凄まじい姉弟ですね。

「まさに(笑)。あと、人魚姫の本を読んでいて、僕としては、“これは金魚の皮を脱いだ人の話なのね”と解釈したらしく、それ以降ずっと“金魚姫”と言っていたらしいです」


――凄まじい子供ですね。また是非聞かせて下さい。

「新たに見つかったら一番最初にお話しします(笑)」


――では最後に話を戻して、今の坂口さんが感じているお芝居の面白さを教えて下さい。

「お芝居を始める前から少し思ってはいたんですけど、僕自身が色々なことを経験したいなという想いがあって。役者という仕事は、自分と違う自分を一気に経験させてくれるというか、役を通してだから出来ることが沢山ありますよね。自分ではないのだけど、自分自身は本当に“その人(役柄)”になろうと必死で挑む。役柄のことを一番考えるのはおそらく役者であって、そこを突き詰めていくと“その人”の思考回路になっていくというか。自分じゃないけど自分でもある……その感じが凄く面白いなと。それはやっぱりモデルとも違う感覚だし、たくさん体感出来ればいいなと思っています」


『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』

【作品紹介画像:シャンティデイズ】
脚本・監督:永田琴
出演:門脇麦 道端ジェシカ ディーン・フジオカ 葉山奨之 石田ニコル 坂口健太郎 高谷智子 綿本彰 鶴見辰吾 木内みどり 蛍雪次朗 村上淳
配給:スールキートス
(C) 2014「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」フィルムパートナーズ

刺激的な生活を求めて、青森から上京してきた海空(門脇麦)は、テレビで見かけたトップモデル兼ヨガインストラクターKUMI(道端ジェシカ)の美しさに一目惚れし、彼女のヨガレッスンに通いは始める。海空はKUMIの撮影場所や行きつけのBar「SO’ham」にも顔を出すようになり、KUMIは苛立ちを募らせる。KUMIの良き理解者である「SO’ham」のマスター梅之助(村上淳)と従業員の瞬(坂口健太郎)も巻き込みながらが、次第に彼女の行動に心が動かされていく。境遇も価値観も対照的なふたりがヨガを通して出会い、やがてあることがきっかけで同居することに。いつしかふたりはかけがえのない友達になり、ヨガ、そしてお互いの存在によってそれぞれ自分を見つめ直し、恋や仕事、将来に対する不安を乗り越えていく。

10月25日、シネマート新宿他全国ロードショー

2021年06月
123456789101112131415161718192021222324252627282930
« »


アーカイブ


最近のインタビュー記事