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インタビュー

長田 成哉   (おさだ せいや)

NHK連続テレビ小説『てっぱん』は、大阪と広島を舞台に、お好み焼屋を開業する少女の奮闘を笑いアリ涙アリで綴る。逆境にぶち当たっても、めげずに立ち向かっていくヒロインの姿は、見る者に元気を与えてくれる。そんな主人公と同じ下宿先に住むクールな青年・滝沢薫役を演じるのは長田成哉。人情味溢れる賑やかな登場人物達が多い中、心を閉ざし、人を寄せ付けない彼の存在はひと際目立つ。実際の長田成哉はというと、爽やかな笑顔と面白トークでその場を和ませてくれる好青年。『てっぱん』の制作陣は、彼本来の人懐っこい性格が、徐々に周りの人達に心を開いていく滝沢薫に人間らしさを与えてくれると考えたのだろう。長田にとって、本作が初のドラマレギュラー出演。撮影現場では、どのように役と向き合っているのか。

撮影/柳沼涼子   文/編集部

プロフィール 長田 成哉(おさだ せいや)


1989年8月16日兵庫県生まれ。2009年にドラマ『ハンサム★スーツ』で俳優デビュー。その後、ドラマ『ホームレス中学生2』『東京DOGS』(ともに09年)『ヤンキー君とメガネちゃん』(10年)や、映画『七瀬ふたたび The Movie』『君が踊る、夏』(ともに10年)に出演。現在は、2010年9月から始まったNHK連続テレビ小説『てっぱん』にレギュラー出演中。

── 「Muvie!!オーディション」で1万人の中からグランプリを受賞。それがデビューのきっかけということですが、なぜ役者になろうと思い、オーディションを受けたんですか?

「そのオーディションは、母親が応募してくれたんですよ。元々幼稚園のころから、映画俳優になりたいって思ってはいたんですけど。中学高校と進学して、色んな事情があって夢ばっかり見てちゃダメだなと思うようになって、一度諦めました。高校3年生で進路を決める時には、担任の先生から勧められるまま、ホテルマンになりました。ある時、新人研修で仲良くなった同僚が、『このホテルの最上階にあるレストランで働くのが夢だ』って目を輝かせながら話してくれて、凄い申し訳なく思ったんです。夢に向かってひとつずつ階段を登る彼と、出世の先に何も見出していない自分が同じラインに立っていたから。じゃあ、“やりたいことは何か?”って考えると、やっぱり俳優だなと思って」


── それで、「Muvie!!オーディション」を受けた、と。

「いえ、始めは違うオーディションを受けたんです。俳優になりたいと思った矢先に見つけたオーディションで。書類選考が通ったので、無理矢理仕事を休み、東京のオーディション会場へ行ったら、なぜかトラクターが並んでいたんです」


── …それは、どういうことなんでしょう?

「近くにいた人に聞いてみたら、『オーディションは昨日ですね!』って言われて……」


── ええー!

「日程を間違えていたんです。こんな初歩的なミスをするなんて、“もう諦めなさい”っていうことなんだって思って、兵庫に帰ってからは、これまで通りホテルで働いていました。そうしたら、僕の好きな映画『クローズZERO』のホームページから、母親が偶然「Muvie!!オーディション」の募集を発見して、書類を出してくれていたんです。『書類選考通ったから、二次選考を受けてきなさい』って言われて。嬉しかったんですけど、どうしても前回の失敗が頭から離れなくて、『オーディションが公休日じゃなかったら、行かない!』って言ってたんですよ。すると、見事に二次審査の日がお休みの日で!」


── 凄い偶然ですね!

「いざ、事務所に足を踏み入れたら、『クローズZERO』の小さいフィギュアが陳列されていたり、憧れの小栗(旬)さんや(田中)圭さんのポスターが貼ってあったりして。更には、オーディション用の台本が『クローズ~』のワンシーンみたいで、完全に舞い上がりました(笑)。僕はこのオーディションを受けるまで、芝居の経験は全くなかったので、セリフは棒読み。見事に惨敗だなぁ…とへこんでいたら、最後に山本(又一郎)社長が、僕の働いているホテルを知っている、と。『いいホテルだよなぁ!』って言われた時に、『こんなに偶然が続くなんて、ひょっとするとひょっとするかもしれない!』なんて考えちゃったんですけど、『芸能界はそんな甘くない』と思い直して。東京で少し遊んでから帰るか! と思っていたら、電話がかかってきました。そこでオーディションに受かったと聞かされても全然実感が湧きませんでした」


── 実感が湧いてきたのは、いつからですか?

「芝居をする時間が増えていって、普段の生活を送る自分と、お芝居をする自分がはっきりわかれるようになってからですね。そのころは、事務所のレッスンを受けていました。今も通っているんですけど、途中から先生が変わったので、ふたりの先生に教えてもらえたのはとても幸運でした。始めに習った先生は、“お芝居とは何か?”っていう基本的なことから教えて下さって。ホテルでは、感情を全て遮断して働いていたので、お芝居の前に、まず感情を出すことが出来なかったんです。演技とは言え、怒ってまくしたてたら相手に嫌われちゃうんじゃないかとか、変な制御が働いてしまって。笑顔の仮面をつけてることが、先生にはすぐバレてしまいました。その鎖をひとつずつはずしていく作業はつらかったし、時間もかかりました。次に教わった先生からは、瞬きひとつにも意味があるとか、カメラの向きによってどこに目線を配ればいいのかとか、実際の現場で必要な知識を教えて頂いています。あと自分の癖で、感情を出す時、眉間にしわが寄ることも指摘を受けました。『てっぱん』で演じている滝沢という役が、眉間にしわを寄せても違和感のない気難しい役だったのは幸いでした」


── その連続テレビ小説『てっぱん』について伺います。出演が決まって、反響はありましたか?

「親戚やおばあちゃんが凄く喜んでくれました。毎日見てくれていています。それから、ひいおばぁちゃんが老人ホームにいるんですけど、孫の活躍を見られるように、ブラウン管のテレビから壁掛けの液晶テレビへと施設が換えてくれたんですよ」


── 直接、ドラマの感想を聞ける訳ですね。

「そうですね。そういう意味では、おばあちゃんが実家で喫茶店を経営しているので、そこの常連さんが『今日のあのシーンはよかったよ~』、『また泣かされたわ~』って、声をかけてきてくれます。すると、僕も嬉しくなっちゃって『ありがとうございます! 実はあのシーンはね、こうでこうでね…』なんてつい話し込んじゃったりするんです。でも出かける前に声かけられることが多いので、『あの~、そろそろ、電車が…。すみません!』って家を出るっていう(笑)」


── (笑)。ご両親はいかがでしたか。

「母親は僕が朝の連ドラに出るっていう実感がなかったみたいで、放送を見て感極まって泣いていて。その姿を見た時は、凄く嬉しかったですね。それから親父は、普段ドラマで感動しても、そういうそぶりは見せたりしないのに、隠れて泣いているのを初めて見て。親父はほんっと素直じゃないんですけど、よかったなぁと嬉しくて」


── 撮影は、いつから始まったんですか?

「ドラマの撮影は5月末からで、僕がクランクインしたのは、6月上旬からでした」


── 撮影に入るまで、どのような準備をしましたか?

「第1~2週の間は舞台が尾道の話で、僕が演じる滝沢薫は大阪になってから登場するので、それまではワークショップをしていました。第3週の台本を元に、『“滝沢薫”として歩いて下さい』っていうような稽古です。でも、セリフが『……』ばっかりなんですよ。滝沢がどういう人間かよくわからず、無口で嫌なヤツっていう印象のまま、ワークショップ1日目が終わってしまいました。家に帰って、『滝沢を全然理解出来てない! これはマズイ!』と思って、ノートに滝沢薫がどういう人間か、ひたすらキーワードを書き起こしていきました」


── それは具体的にどんなことを書いたんですか?

「いつもやっていることなんですけど、“こういう人間じゃないかな?”っていう妄想を広げていくんです。例えば、滝沢は“駅伝選手のスーパースターだったが、怪我で早々に退社”っていう設定なので、『スーパースターっていうことは、周りに人が寄ってこなかった訳ではない』とか、『妬むヤツもいた』、『その妬んでいるヤツは、怪我をした滝沢を“ざまぁみろ!”と思ってるだろう』とか。そういうことを取りとめもなく書いていくんです」


── それは図のようなものですか?

「どこにでもあるレポート用紙に○を書いて、思いついたことを殴り書きして、関係がありそうなものは線で繋いでいきます。『“駅伝”という種目を選んでいる』=『チームプレーが嫌いな訳ではない』けど、『人と関わることが苦手』。っていうことは、『チームプレーの中で、何かあったんじゃないか!』という風に。台本を読んだ時に感じた滝沢の矛盾点に、どんどん説明が出来るようになって。やっと滝沢をつかめたかなって思いました」


── 役と長田さん自身との間に、共通点はありましたか?

「始めに共通点を見つけられなくて、滝沢ってどういう人なんだろうって思っちゃったんですよ。滝沢はクールで友達も少ないのに、コーチの根本(孝志:松田悟志)さんが凄く気にかけてくれている。それはなんでだろう? っていうところから、色々考えをめぐらせていきました。そのうち、彼がクールなのは感情を隠すためであって、僕もつい気持ちをはぐらかす時とかクールを装うなと思って。昔、友達から突然誕生日プレゼントをもらったことがあって、ものすっごく嬉しかったのに、『おぅ、ありがと…(鼻をこすりながら、ぶつぶつ)』とか言って、照れを隠してたなぁなんて、逆に気づかされましたね(笑)」


── そうして臨んだ『てっぱん』の撮影初日。いかがでしたか?

「ほかの作品で撮影現場を見たことはあったんですけど、ここまで大きな役を頂いたことは初めてだったし、リアルなセットの中に何台もあるカメラや、たくさんのスタッフさんが動き回るのを見ていたら、緊張して汗が半端なかったです(笑)。セリフもたったひと言、『ちょっとどいてくれるか?』だけだったのに、頭が真っ白になってしまって。『ちょっと…(心の声『あれ? なんだったっけ? あ! そうだ』)……どいてくれるか?』。『どれだけ溜めて喋るんだよ!』ってツッコミたくなるくらい(笑)。これが現場なんだって、初日から勉強になりました」


── 緊張が取れてきたのは、いつごろからですか?

「第4週ごろからですね。滝沢が昼休みにひとりで走るシーンがあって、その撮影で思いっきり汗をかいてから、少しずつ緊張が解けていったように思います。同じころ、マネージャーさんから、『まだ新人なんだし、恥をかきに来たと思ってやってみたほうがいい』とアドバイスされて、その言葉に背中を押された部分もあります。そういえば、ドラマの出演が決まった時に、演出家さんやプロデューサーさんが『お芝居が上手いからとかそういうことじゃなくて、長田成哉っていう人間性を凄く気に入ったから、この役をお願いしているんだ』っておっしゃってくれたことを思い出して。少しずつですが、肩の力が抜けていったんじゃないかと思います。チーフ・プロデューサーの海辺(潔)さんには、ほんの1時間くらいのオーディションで、僕の思ってること、これまで生きてきて考えていたことを色々と言い当てられたんですよ。“なんで知ってるんですか? 調べたんですか?”っていうくらい(笑)。それが嬉しくて、頑張りたいと思っていたんです。演出家さん達にも、『滝沢は難しい役だと思うけど、俺達がなんとするから、長田はとりあえずやってみてくれ』って言われて。めちゃくちゃ嬉しかったですね。“よっしゃ! 頑張るぞ!”って現場に行くんですけど、力み過ぎちゃって、マネージャーさんから『そんなに力入れなくていいからね』って耳打ちされたりして(笑)。いまだにそのバランスは難しいんですけど」


── ディレクターさんが何人もいらっしゃる現場ですが、それぞれで演出方法が異なることに戸惑いはありませんか?

「そうですね。でも、僕が感じたことだけが正しい訳じゃないから、まずは全部1回聞きたいです。それでもし、しっくりこないところがあれば、言うようにしています。ある日、新人の演出家さんの回で、台本にないシーンを撮影しようということになったんですね。具体的に言うと、根本さんから『チームに戻ってこい』って何度も誘われても拒否し続けてきた滝沢が、『練習に参加させて下さい』って頼み込むシーンなんですけど。思い立って食堂に登場するシーンから撮るよりも、2階から食堂に降りてくるまでの葛藤する滝沢を撮ったほうがいいんじゃないかと。次のシーンでは、根本さんを呼び止めるために、滝沢がは玄関を飛び出すんですが、彼からしたら『練習に参加させて下さい』って告白するのは一大決心な訳ですよ。だから、靴も履かずに裸足で追いかけていきたかったんです。でも演出家さんからは『走らなくていいよ』と言われました。そのやり取りをチーフ・ディレクターの井上さんが見てらっしゃっていて。あとで『俺もあのシーンは、裸足で飛び出したほうがいいと思ったんだよ。だから、時には自分の意見も通したほうがいい』とアドバイスを受けました。僕はお芝居の経験がないほうなので、それを言っていいのかどうか、葛藤はあります。でも、あの時の気持ちに間違いはなかったんだって教えてくれたので、本当に勉強になるいい現場です」


── 井上ディレクターが、本作では家族や人との繋がりを大切にしたいとおっしゃっていたそうですが、現場ではそういう空気を感じてらっしゃいますか。

「ひしひしと感じまくっています。下宿人って、結局、全員他人じゃないですか。『てっぱん』のような、赤の他人が食堂でご飯を囲むことってそうないと思うんですけど、人との繋がりって、本当に大切だと感じます」


── 現場は、楽しそうですね。

「演出家さんの中にも新人の方がいらっしゃるんですけど、一生懸命にやって下さるから、僕もそれに応えていきたいです。“何かおかしい”とか“凄くいい!”って思ったことは言って下さるので、みんなで作っているっていう感じがして、そこも『てっぱん』のいいところだと思います」


── 最後に、今度のドラマの展開について教えて下さい。

「滝沢は結果を出さなければいけない大会で、自分が望む結果を得られないんですね。しかも、それまでは自分のために走っていた滝沢が、初めて誰かのために走ったのにですよ。そんな残酷な運命が待っている訳ですが、そんな滝沢をあかりが支えてくれます。そこで、恋の予感もあったりします。ただ、あかりのことを気になっているのは、滝沢だけではないんですよね。『船でもなんでも“あかり”があるから前に進める』っていうセリフが過去の放送でありましたが、やっぱりあかりは、希望の“灯り”なんですよ。どうなるんでしょうね? 楽しみにして下さい」



作品紹介『てっぱん』

作/寺田敏雄 今井雅子 関えり香

音楽・テーマ曲/葉加瀬太郎 「ひまわり」

語り/中村玉緒

制作統括/海辺潔

プロデューサー/三鬼一希

演出/井上剛、石塚嘉、小林大児、熊野律時、藤並英樹

出演/瀧本美織 富司純子 安田成美 遠藤憲一 遠藤要 森田直幸 長田成哉 ともさかりえ 松尾諭 神戸浩 尾美としのり 柳沢慎吾 朝倉あき 松田悟志 趙珉和 京野ことみ 川中美幸 赤井英和 柏原収史 竜雷太 ほか

毎週月~土曜朝8時~8時15分  NHK総合テレビほかで放送中

http://www9.nhk.or.jp/teppan/

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