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インタビュー

池岡亮介   (いけおかりょうすけ)

一度はサッカーを諦めながら、ある出来事をきっかけに再び高校でサッカーを始める安藤ソラと、その周りの高校生達の人間模様を描いた映画『1/11 じゅういちぶんのいち』。原作は、『ジャンプSQ.』で連載中の同名人気漫画だ。主人公のソラを演じるのは、ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』や『タンブリングvol.4』などで活躍する俳優、池岡亮介。映画初主演となる本作で、彼はどのようにして役を演じていったのだろうか。

撮影/吉田将史 文/池上愛

プロフィール 池岡亮介(いけおかりょうすけ)


1993年9月3日生まれ、愛知県出身。2009年、第6回D-BOYSオーディションにて準グランプリを獲得し、芸能界デビュー。主な出演作は、映画『俺たちの明日』(監督:中島良)、舞台『十二夜』(演出:青木豪)、舞台『タンブリングvol.4』(演出:増田哲治)、ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』(演出:上島雪夫)など。今夏には、キャラメルボックスサマーツアープレミアム「涙を数える」の出演が決定している。

――『1/11 じゅういちぶんのいち』が映画初主演作となります。

「『映画やるよ』と電話で言われたのが最初で。しかも主演ということだったので、一瞬ふわっとしたんですよ(笑)」


――ふわっと?

「実感がわかなかったというか、“主演なんだなぁ”と…(笑)。しばらくしてから徐々に嬉しさと緊張がこみ上げてきました。でも、自分に主演が務まるのかという不安はありませんでしたね」


――プラスの気持ちが大きかった?

「そうです。どこまで出来るかなっていう楽しみもありました」


――原作のマンガはご存知でしたか?

「この話を頂いてから、その日のうちに読みました」


――映画で描かれるのは1巻の部分ですね。サッカーマンガというカテゴリですが、想像していたサッカーマンガとは違いました。

「そうなんですよ。お話を頂いた時、“なるほど、サッカー映画ですか…”とも思ったんです。原作はジャンプスクエアだし、サッカーシーンはCGとか使うのかなと思っていて(笑)」


――激しい試合が繰り広げられるのかなって思いました(笑)。

「そうそう。だから自分の中で、どう演じればいいのか引っかかっていたんですが、マンガを読むと予想していたものと違いました。純粋な青春学園ドラマで、登場人物達の人間模様が中心になっているので、むしろサッカーの描写は少ないんじゃないかな。読んだあとに、心にじわっと浸透してくるような優しい作品でした。凄く僕の好きな世界観だったんですよね」


――その好きな世界観について、もう少し詳しく聞かせて下さい。

「キャラクターがみんな真っ直ぐで、誰も傷つかない優しい作品。もちろんこの作品には葛藤や屈折も描かれているんですが、それ以上に優しさがつまってるなと。みんなを応援したくなり、自然に笑顔がこぼれて涙が流れる。こんな優しいマンガを読んだのは初めてなんです。本当にすっと心に入ってくるマンガでした」


――池岡さんが演じる安藤ソラも、とても真っ直ぐな男の子ですね。

「マンガでは、1話ごとのタイトルがキャラクターの名前になっていて、各話の物語の中心になっていくので主人公がずっと活躍している訳ではありません。でも、その中でのソラの存在感が素敵だなと感じました。裏手に回ってあまり前に出てくるキャラではないのだけれど、ソラみたいな主人公だからこそ、成り立つお話なんだなと思います。ソラによってみんな動かされていく訳ですし」


――マンガでは安藤ソラの話が第1話に描かれ、2話以降に越川凛哉(工藤阿須加)、篠森仁菜(上野優華)といった学生にスポットが当たっていますが、映画では冒頭で全員が登場し、ソラのストーリーは物語後半で描かれていますね。映画はみんなのストーリーがちょっとずつ出てくるので、これから何が始まるんだろう? というワクワク感がありました。

「オープニング、学校の登校シーンはずっと長回しで撮影しました。監督が凄く拘っていたシーンです。僕もオープニングを観て、何が始まるんだろう? という期待を感じました。僕はマンガを読んだ時、各話によってメインキャラが変わるので、これをどうひとつの物語にするんだろうなと思っていたんです。そしたらこう来たか! と合点が行きました。原作を知ってる人は、映画を観た時に“なるほど”と思うんじゃないかなと思います」


――脚本も手がけている片岡翔監督の手腕ですね。監督の演出はどういうものでしたか?

「リアルを求められる方でした。これまでドキュメンタリーを撮られていたこともあるのかもしれません。僕は舞台経験が多いので、どちらかといえば大げさな演技ばかりしていたので、『そこは抑えていいよ』『もう少し声を小さく』と、色々指導して下さいました。とても親身になって下さったので、とても嬉しかったです。同時に、ああよかったとも思って」


――というと?

「語弊があるかもしれないんですけど、諦めないん方だな、妥協してくれないんだなって。僕は1発OKになることが少なかったので、凄く時間がかかったと思うんです。凄く申し訳ないことなんですけど、じっくりと時間を割いて下さったことが嬉しかったですね。そして非常にこだわりが強い監督でもありました。映画の中で手編みのマフラーが出てくるんですけど、あれも監督が作ったんですよ(笑)」


――えぇ~(笑)? 小道具さんじゃなくて?

「はい。それぐらいこだわりを持って作品に臨んでいらっしゃいました」


――監督とたくさんお話しされたということで、印象に残っている言葉やシーンを教えて下さい。

「若宮四季(竹富聖花)のあることに気づいて涙するシーンですね。さっきも言ったように、僕はあんまり1テイクでOKになることがなかったんですけど、このシーンは“カット!”の声がかかると、監督が近づいてきて、僕の肩をポンと叩いて『よかったよ』と言って下さいました。僕、その時に初めて監督と触れたんじゃないかなって思います。その瞬間、一気に肩の力が抜けました。監督は、本当にずるいです(笑)」


――(笑)。池岡さん的には、何度もテイクを重ねる時と、OKが出る時の違いって、わかりましたか?

「いやいや! 全然わかりません。何がよくて何が悪いのか…わからないことがしょちゅうです」


――では、その涙するシーンは一発OKがかかって、池岡さん的にも納得いくシーンだった?

「いや……正直、僕は納得いかなかったんです。その涙ぐむシーンというのは、泣けたら泣いていいよっていう感じだったんですけど、意外と涙が出なかったんですよ。流れたと思ったら左目からしか流れなくて。もともとそういう体質っていうのもあるんですけど」


――そんな体質あるんですか(笑)。

「いや~なんか右目から涙が出ないんですよね(笑)。で、このシーンも右目から涙が流れなかったんですけど、カメラは僕の右側を撮ってたんです。だから、これはどうなんだろう、涙が流れる画があったほうがいいんじゃないかって思ったんですよ。そういう意味で納得はいってなかったんです。とはいえ、監督はOKと言ったんだから、これはこれでいいんだと理解しながらも、ちょっとどこかで悶々としていて。それから1週間くらいたった時、マンガを読みなおしたんですよ。そしたら、ソラも左目からしか涙を流してなかったんです!」


――おぉ~!

「もうそこからは、あれでよかったんだと思えるようになりました(笑)」


――では、実際に本編を観ての感想はいかがでしょう?

「自分の演技を観るのが苦手なので…若干遠目で観てしまった部分はありますが(笑)。凄く雰囲気のいい映画だなぁと感じました。監督がこだわっていた高校生のリアルな日常が画に現れていて。原作がマンガなので、どうしてもセリフでくさかったり、日常では使わないような言い回しもあったんですけど、それが自然に聞こえました。それは僕の役だけでなく、みんなのセリフがスッと心に入っていきましたね」


――映画の後半になると、ソラの過去が描かれますよね。今でこそ、真っ直ぐな気持ちでサッカーをやりたいと思っていますけど、過去には実は…というシーン。あの過去のソラの表情がガラッと違うのにもびっくりしたんですよ。

「そうなんですよ。変わりすぎですよね。それってどうなのかな…? ってちょっと不安だったんですけど」


――変わりすぎかも、と?

「そうなんです。……どうでしたか?」


――ここまで表情が変わるくらい、ソラは成長したんだなという意味で捉えました。

「嬉しいです! そう思ってもらえたなら、いい方向に出来たかな」


――ちなみに撮影は、現在と過去入り乱れていたのでしょうか?

「いや、ある程度スムーズに撮影出来ました。クランクインは、四季と出会う過去のシーン。そのあとに現在の高校生活のシーンを撮って、最後が四季のあることに気づく過去のシーン。だから、ソラの気持ちをとても作りやすかったんですよ」


――河川敷でサッカーをやるシーンですね。あそこがクランクインだったんですか。

「そうです。監督も『このシーンからイン出来てよかったね』と言っていました」


――池岡さんのサッカー経験は?

「経験といっていいかわかりませんが、小学校3年生の時に1年間だけ。近所の公園でやってるクラブチームに参加したことがあったんですけど。まぁそれは…生かされてるとは思いません(笑)」


――サッカーシーンが少ないとはいえ、ドリブルやパスをするシーンもありましたね。

「映画のお話を頂いたあと、とりあえずサッカーボールだけは買いました。公園で足を転がすくらいですけどね(笑)。あとは毎日サッカーボールを見るっていうことを心がけたり。本当にコロコロボールを転がしてたくらいですけど。竹富さんはサッカーが上手い役だったので、監督からも練習しておいてと言われていました」


――女子でサッカーってなかなかないですものね。

「男の僕ですら、サッカー練習しておいてと言われても、そんなに上達出来ないと思います。でも、竹富さんは凄かったです。どんどん上手くなっていって。もしかすると、スポーツが得意な方なのかもしれないですね」


――竹富さんの印象はいかがでしたか。

「僕、集団行動が苦手であんまり人と話すことも少ないんです。そして、女性と対面で演技することが初めてだったので、最初は緊張したんですけど、竹富さんもそこまでお喋りをする方ではなかったので、逆にとても居心地がよかったです。なんかネコみたいだなって思いました。特に何をする訳でもないんだけど、一緒の空間にいるだけで、心が落ち着くような。凄くネコが似合う女性だなと。僕と竹富さんのサッカーシーンは見どころだと思います。本編を観ていて懐かしさと同時にキュンとしました」


――池岡さんも数年前までは高校生でしたけど、もう懐かしくなっちゃいますか。

「なりますね。高校の途中からこの仕事をしていますし、高校では部活をやってなかったんです。だから、もし部活をやっていたらこんな風にキラキラしてたのかな~って思う部分がありました」


――サッカー以外にスポーツ経験はありますか?

「部活動では、6年間バスケットをやっていました。あと習い事で9年間水泳もやってました。体を動かすことは好きです。だからなのか、体を動かす舞台の仕事が多いんです(笑)」


――舞台活動が多い中で、こうやって映画の仕事をやってみて、映画の面白さを感じる部分はありましたか。

「前から映画やりたいなと思っていたんですけど、今回やらせて頂いたことで、改めて映画をこれからもやりたいなと思いました。ちょっと語弊があるかもしれないけど、僕、昔は舞台の稽古が苦手だなと思う時があって…」


――というと…?

「舞台って同じことの繰り返しじゃないですか。でも映像は、その時が勝負。勝った喜び、負けた時の悔しさが面白いなと。監督にどうOKを出させるか、あーだこーだと考えるのが楽しかったんです。もちろん舞台も面白いし、今では稽古に対する気持ちも徐々に変わっていますけど、舞台だけじゃなく、同じように映画も今後やっていきたいです」


――この作品が、池岡さんの代表作になると思うので、また映画での池岡さんが見れるのを楽しみにしています。

「ありがとうございます。この映画で直さないといけないなと思ったのは、気持ちの作り方。今回は気持ちを作りやすい撮影順だったんですけど、今後も流れのいい撮影が出来るとは限らないので。だからもしまた映画のお話が来たら、気持ちをどう作っていけるのか、色々考えて臨みたいと思います」


『1/11 じゅういちぶんのいち』

原作/中村尚儁
脚本・監督/片岡 翔
出演/池岡亮介 竹富聖花 上野優華 工藤阿須加 阿久津愼太郎 東亜優 古畑星夏 福地亜紗美 田辺桃子 楡木直也 初芝清 山口素弘 大竹七未 河井青葉 久遠さやか 鈴木一真 奥貫薫
配給/東京テアトル
全国公開中
http://1-11movie.com/

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