大切な誰かを守るために命を懸けた若者達の、明るくも切ない青春群像劇『見上げればあの日と同じ空』。平間壮一、戸谷公人らアミューズの若手俳優で作り上げた濃密な舞台は、大勢の観客の涙を誘った。大好評となった舞台がキャストを一部変更し再演へ。今回、平間壮一からバトンタッチし主役を演じるのは、劇団プレステージの平埜生成。舞台『FROGS』で経験を積んだ彼が、初めての主演舞台に挑む!
撮影/吉田将史 スタイリスト/伊藤省吾 ヘアメイク/彰宏(ENISHI) 文/池上愛
――初演はご覧になりましたか?
「はい。あの時は、先輩が舞台をやるから観に行こうくらいの感覚で、ほとんど内容も知らないまま観に行ったんですけど……びっくりしました。お客さんがみなさん泣いていたんです」
――私も拝見しましたが、途中から鼻水を啜る音が響き渡ってましたよね。
「そうなんです。どちらかといえば男の人のほうが共感する内容なのかなって思ったんですけど、結構女性客のみなさんが泣いてらっしゃいました。あと、楽しそうだったんですよ、演じているキャストのみんなが生き生きしていて。終わったあとの顔が清々しくて素敵でした」
――そんな作品を、今度は自分でやることになった気持ちは?
「作品を観た時、面白いと純粋に思いました。その作品に出る訳だから、今度も面白く思ってもらえるかどうかは僕ら次第。更に面白くなるのか、つまらなくなるのか…そのプレッシャーは少しあります」
――平埜さんが面白いと思ったのは、どういう部分ですか?
「時代設定は戦争物なんですけど、現代の人と通じる感情を描いているところです。僕の演じる成瀬という青年は恋愛がからんでくるんですけど、今も昔も同じような感情を持っているんだなと思ったんですよ」
――戦時中だって恋はしますよね。
「それに先輩役者さんとお話をする時、昔は携帯がなかったからデートの待ち合わせも大変だった。本当に彼女が待ち合わせ場所に来るのかわからないもどかしさがあった、みたいな話を聞くんです。そういうドキドキ感って、今も昔も変わらないですよね。そういう部分が女性のお客さんに共感出来たのかもしれません」
――初演を演じた方々は、時代背景について色々調べたそうなのですが、平埜さんはどういうことを?
「僕は今までにこういう題材に携わったことがなかったので、最初はどんな風にとりかかればいいんだろう? と迷った部分がありました。とはいっても、初めての題材だし、色々調べ物はしました。本を読んだり、実際の特攻隊の方の手紙を読んだり…」
――調べる中で、どういう感情が芽生えました?
「当たり前ですが、みんな同じ人間なんだなと。特攻隊って、自分から志願してない人もいるんですけど、そういう人は戦争に行きたくなかったと思うんです。でも行きたくないなんて言えないし、大きな葛藤があったはず。そういう感情は資料にはありませんが、当時の人達はどういう気持だったのかなとずっと考えていました。家族と離れ離れになるのは嫌。でもそんなことは遺書に書けない。上官のチェックが入るでしょうし、書けないことも多かったと思います。言えない、書けない本音がたくさんあったはずなんです。そこを想像するのが…楽しかったというとちょっと語弊があるんですけど、とても考え甲斐がありました」
――以前、『FROGS』で取材した時も、カエルの心情を考えるのが楽しいっておっしゃってましたね。
「あ~そうでした。好きなんだと思います、考えることが。今自分で言ってて気づきました(笑)」
――その感情って、台本のト書きには書かれてないと思うんですけど、監督に伝えたりするんですか?
「いやぁ…言う時と言わない時があります。結局は僕の想像にしか過ぎないので。言わない時もありますし、ここは共有しなくちゃいけないところだと思えば伝えるときもあるし、という感じです」
――監督に言うことを目的として考えている訳ではないと。
「はい。それにお客さんにも伝えようと思ってませんし…」
――自分の中で納得出来ればいいんですね。
「そうです。それが楽しいというか、僕にとってのやりがいなんだと思います」
――自分が演じる以外の役柄についても想像したりしますか?
「しますね。特に戦争って特殊じゃないですか。友達が死ぬのが当たり前の世界で、非日常が日常になっているというか。だから、その時代ならではの恋愛があると思うので、自分の役以外も色々考えました。恋愛だけじゃなくて友情も……僕、友達いないんですけど」
――ん? 今サラッとカミングアウトしました!?
「僕、よく考えたりするんですよ、“友達ってなんだろう?”って(笑)」
――深いこと考えますね!
「常に考えてます(笑)。この関係って本当に友達なのかな? 向こうは友達と思ってるのかな? みたいな。昔の友情関係って、今とは少し違うと思うんですよね。友達との会話でも、ぺちゃくちゃ喋ってる感じじゃなくって、“・・・”みたいな間がある気がします。その間に何か通じるものがあったんじゃないかなとか」
――なるほど。
「そういう考えを、稽古で試してみたいです」
――稽古ではトライ出来るから、色んな楽しみがありそうですね。
「ただつらいのは、自分の考えと演出の考えが違う時に、すり合わせなきゃいけないことなんですけど」
――そういうことあります?
「全然あります! でも遠回りしつつも、そこを上手く自分のやりたい方向に戻していくか、その作業がまた楽しいんですよ。やっぱり自分の納得出来ないまま演技したくない。だから全部言うとおりにするんじゃなく、きちんと自分で考えて落としこんで演じたいなと」
――平埜さんは、演技だけでなくプライベートでも色々考えるタイプなんでしょうか?
「プライベートはとてもネガティブなので、考える方だと思います」
――それはどういうことに対してネガティブなんですか?
「常に自分が一番下って考えてます」
――後輩のいる現場でも?
「もちろんです。どの舞台でも、まだまだ先まで行けたのに…という反省ばかりなので、まだ達成感を味わったことがありません。年々ネガティブ思考になっている気がします。基本的に、褒められるのが苦手なんですよ。褒められると、考えることが出来なくなっちゃうから。褒められて伸びるタイプじゃないですね(笑)」
――でも、ファンの方々は基本的に褒めませんか?
「そういう声は、なるべく真に受けないようにしてます(笑)」
――え~(笑)。
「“平埜生成さんの演技素敵でした!”“かっこよかったです!”と言われるよりも、“あの演技はどうかと思いました”みたいなほうが嬉しいですね。でも、こういうことを常に言ってるので、最近ファンの方から“そんな卑屈にならないで!”って怒られてます(笑)」
――プライベートでも反省し続けるなんて…(笑)。
「休みの日があったら、この1日の間に同世代の役者はたくさん仕事をして技術を伸ばしているのに、僕は一体何をしてるんだろう…みたいなことも考えます(笑)」
――ささやかな休日ですらも反省とは……。
「でも、そういうことを考えるのが楽しいから(笑)」
――脱帽です(笑)。では、成瀬に対する妄想はどんな感じに膨らんでいますか?
「舞台で恋愛をしたことがないので、そこを大切にしたいと思っています。多分がっつかないと思うんですよね。成瀬は絶対恋愛に対してグイグイいかない、不器用な人間なんじゃないかなって。想い人に手紙を書くシーンがあるんですけど、きっと何度も書きなおしたんじゃないかなぁ。この字汚い! とか、そういう部分まで気になっていますよ、きっと。僕的には恋愛シーンがキーですね。人を好きになるってなんだろう? って考えたり…」
――またもや奥深い考えですね(笑)。
「それは僕の永遠のテーマなんです(笑)。僕は家族が大好きすぎるので、家族以上に大切な人が出来るのが想像出来なくて。成瀬にとっては、家族以上に大切な人が出来た訳だから、そのあたりの想像をふくらませていかないと」
――その思いが成瀬の手紙に書かれる訳ですね。
「この前、おばあちゃんの誕生日に手紙を書いたんです。そしたら書きながら涙が出そうになって。書いている時に自分の気持ちを整理できるし、再確認出来るじゃないですか。だから、手紙ってこんなに気持ちを乗せることが出来るんだなと改めて思いました」
――では舞台の意気込みを聞かせて下さい。
「これは『FROGS』の時なんですが、“まだメインとして立ててない。まだサブの芝居をしているよ”と言われたことがあって。全然脇の演技しか出来なかったなと反省しました。今回の舞台では一番上に自分の名前があります。しかもこんなに素晴らしい作品です。そのことをしっかりと受け止めて舞台に立たなければ失礼だなと思っています。でもこれは自分にとっての意気込みなので、お客さんは純粋に何も考えず楽しんで欲しいです!」
――ありがとうございます。悩める平埜生成さんの成瀬がどうなるのか楽しみです。この舞台で初めての快感を味わえるかもしれないですし。
「まだ舞台の達成感は味わったことないですけど、いつか味わってみたいですね。それまではずっと考え続けると思いますけど(笑)」
――でも舞台経験を重ねていく中で、ちょっとは感じていませんか?
「ほんのちょっ~とだけ。プレステージでの経験は、僕を1~2度くらい変えてくれたかもしれないです」
――たった1~2度ですか?(笑)
「(笑)。でも1度でも傾斜があったら、ずっとずっとその先は、だいぶ変わってるはずです!」
脚本/小峯裕之 演出/及川拓郎
出演者/平埜生成 戸谷公人 松島庄汰 木下美咲 溝口琢矢 伊藤直人 向野章太郎 / 土屋裕一(*pnish*) 久ヶ沢 徹
《日程》
【東京】2014年5月21日(水)~5月25日(日) 本多劇場
【大阪】:5月31日(土) サンケイホールブリーゼ
企画製作 アミューズ http://www.amuse.co.jp/stages/sora/2014/