口数は決して多くはない。けれど、揺るがない“芯”を感じた。君嶋麻耶――。彼は読者モデルを経て、俳優活動を開始。2010年に『仮面ライダーオーズ/OOO』に出演、後藤慎太郎役を演じたことで、モデルだけでなく俳優としても認知度を上げた。今年2月11日には、出演映画『ソウル・オブ・ロック』の公開が予定されている。映画、音楽、ファッション…、彼を語る上では欠かせない“芯”の部分から、出演映画まで話を聞いた。
撮影/吉田将史 文/池上愛
――君嶋さんは、ずっと読者モデルをやられていたんですよね。
「はい。高校に入学したばかりの時、友達と一緒に原宿に出かけて美容師さんに“ヘアモデルをやってみませんか?”と声をかけられました。謝礼をもらえて髪も切ってもらえるならやってみようかなと。ヘアカタ(ヘアカタログ)って、ファッション誌の別冊で発売されることが多いんです。その繋がりでサロンから編集部の方に紹介されてファッション誌のスナップに載ったりするようになって、読者モデルをやるようになりました」
――元々、ファッションには興味はありましたか?
「中学の時はそうでもなかったんです。でも、高校に入ると少し色気づいてくるじゃないですか。高校生になってからは原宿に買い物にも行くようになって、それで服が好きになっていった感じです。あとはヘアカタを始めたことで、色んな美容師さんに会えたのも大きかったです」
――その頃から本格的にモデルや芸能の仕事をやってみたい感覚はありましたか?
「当時から服が好きだったので、アパレルで仕事してみたいとは思っていました。でも、モデルに関しては、最初、色んな経験が出来ればいいかなっていうくらいの気持ちしかなかったです」
――では、今こうやって俳優として活動されていますが、そのきっかけはなんだったのですか?
「大学生になった頃、今の事務所のマネージャーに会った事がきっかけで、少しずつ映像の仕事をやらせて頂いたんです。やり始めた当時は深く考えていなかったんですが、いざ就職という時期になった時に……まだまだこの世界でやれることがあるのに、それを全部蹴って就職してもいいんだろうかという気持ちになって。そういった気持ちの変化があり、まだまだ挑戦していきたいなと思って、改めて今ここにいます。正式に今の事務所に入ったのが、2010年の春になります」
――その年の9月には、『仮面ライダーオーズ/OOO』の後藤慎太郎を演じられます。オーディションはどういうものだったのでしょうか?
「あまりテレビを見ない僕でも知っている作品だったので、緊張してしまいよく憶えていません(笑)。でも主人公の火野映司を演じた渡部秀君をオーディション会場で見かけたのは憶えています。最終選考でも“あ、この人も残ったんだな”って」
――本格的な演技はこの作品が初めてだったと思うのですが、いかがでしたか?
「右も左もわからないところからスタートしたので、色んなことが初体験でした。ただスタッフさんや出演者の方、周りの環境に凄く恵まれたのでとても勉強になりました。出演者の方はベテランの方も多く、“このシーンはこういう風にやればいいんだ”とか“このセリフはこうしたほうがいい”など、周りを見て気づくことが多い現場でした」
――仮面ライダーオーズでは、イベントに出演する機会も多かったのでは?
「そうですね。子供達からは“後藤ちゃん”って呼ばれていました。呼ばれた時は凄く嬉しかったです。こういうイベントがないと、視聴者のみなさんの顔って見えないじゃないですか。僕がイベントの舞台に立たせて頂いたのは、放送が始まって随分経ったあとだったので、それまでは“大丈夫かな? 僕のことはみんな知ってくれているんだろうか?”っていう心配があって。でも、“後藤ちゃん!”と役名で呼んでもらえて、みんなに受け入れられたんだなあと、ほっとしました」
――こうやってお話を聞いていると、凄く落ちついた方なのかなと思ったのですが、君嶋さんでも「よっしゃー!」とか興奮して叫ぶことはあるんでしょうか?
「ありますよ(笑)」
――そんな感じがしないのですが(笑)。
「叫ぶこともあります。たまにですけど、家のドアを蹴ってみたりとか……」
――鬱憤を晴らしてるとか?
「色々あるじゃないですか、生きてると(笑)」
――あはは(笑)。
「あとは、探していた廃盤のCDを見つけた時とか興奮します。僕はCDをよく買いに行くんですけど、好きなアーティストの廃盤になったCDを見つけると“うぉっしゃー!”ってなります………顔には出さないですけど」
――結局、出さないんじゃないですか!
「心の中で叫びます。興奮を噛みしめるんですよ。映画も観て泣いたりするし、結構感情は出すほうだと、自分では思っています」
――最近観た映画で泣いた作品は?
「泣いた映画かぁ……DVDで観た『海の上のピアニスト』は泣きました」
――洋画を観る機会のほうが多いですか?
「そんなことはないですが、種類が圧倒的に洋画のほうが多いので、必然と洋画が多くなってしまいますね」
――ちなみに、映画館にはよく行かれますか?
「映画館に行く回数を人と比べたことがないので難しいですが、最近は頻繁に 行っています」
――映画館に行く時は、何基準で選ばれるのでしょうか?
「映画の内容と、人が少ないかどうか。大きい映画館だとハリウッド大作等が多いと思うんですが、僕はどちらかというとミニシアター系が好きなので、大きな映画館にはあまり行かないです。最近だと新宿の武蔵野映画館によく行きます」
――君嶋さんにとって、映画館はどんな場所ですか?
「何も考えずに、映画だけに集中できる場所。余計なものが入って来ない、目の前の映像と音に集中していればそれでいい場所です。DVDだと観てる最中に“ピンポーン”とかなったら、中断しなくちゃいけないし」
――集中して観たいんですね。
「そうだと思います。だから、人と一緒に映画を観ることは少ないかなぁ」
――ファッションが好きな人って、映画や音楽が好きな方が多い気がするんですよね。
「服が好きな人が、音楽や映画が好きかといったらわからないですけど、音楽や映画が好きな人は服が好きだと思います。映画の中のファションに憧れたりするし、音楽から生まれるファッションってあるじゃないですか」
――では、君嶋さんの“服が好き”という根底にあるのは、音楽や映画があるからかもしれないですね。
「そうなのかもしれないです。小学生のころはテレビも全く見ない、音楽も全然聞かない子で。でも中学生になってからは、J-POPから入って音楽も聞くようになって。そこから次第に服にも興味が出て来たので……そういう繋がりはあるのかもしれません。僕、自分が好きなこと以外には、あまり手を出さないんですよ。自分の好きなテリトリーにはすぐに手を出すんですけど」
――では、今興味があることってなんですか?
「う~ん、なんだろう……」
――では質問を変えて、興味がある、演じてみたい役柄はいかがでしょう?
「今までにやったことないような役です。普通の人をやってみたいです」
――普通の人? それって逆に演じるのが難しい気がしますが。
「仮面ライダーオーズで演じた後藤は、あの世界の中では普通の男の子でしたが、セリフも独特の用語が出てきました。『ソウル・オブ・ロック』は、普段の世界の普通の人なんですけど、マイペース過ぎるヤツなので、いつかは等身大の男性を演じてみたいなって。でも、おっしゃるように演じるのは難しいでしょうね。わからないと思います。いざ普通の人を演じろって言われても、普通って何? 等身大の男の子って? ってなってしまうかもしれないです」
――『ソウル・オブ・ロック』での君嶋さんの役どころを教えて頂けますか?
「バーミヤンズというバンドグループの一員で、僕はドラム担当。性格は無口でマイペースなヤツです。それと少し天然っぽいかな?」
――ドラムの経験はありますか?
「高校時代に軽音楽部に所属していて、その時に何度か叩いたことはあります。ただギターとベースは弾けるんですけど、ドラムの技術はないです。演奏シーンは1回しかないので、技術はあまり関係ありませんでしたが(笑)」
――音楽映画というよりも、脱力コメディーな内容になっていますよね。
「1年間ずっと仮面ライダーオーズに出演させて頂いていたので、この映画とのギャップが凄く面白かったです。現場の空気が違うと、こうも変わるんだなぁって。仮面ライダーオーズはスタッフが多くて、時にはどなり声が聞こえてきたりもする。現場はピリっとしているんです。一方『ソウル・オブ・ロック』は、少ない人数で撮影していましたし、撮影も短期間で、さらにコメディー要素がほとんどだったので、リラックスした状態で臨むことが出来ました」
――映画の見どころを教えて頂けますか?
「登場人物達が凄く個性的な人ばかりなので、そのキャラクターに注目して欲しいです。あとはバンドメンバーの会話のテンポ。音楽シーンがほとんどなく、居酒屋や楽屋裏で話すメンバーのシーンが多いので、そこでの会話のやり取りを楽しんでもらえればと思います」
――お客さんもゆる~い気分で観る感じですね(笑)。
「そうですね(笑)」
監督/天野裕充
出演/有末麻祐子 君嶋麻耶 牧田哲也 ダンディ坂野 草野康太 ほか
「フィールヤング」(祥伝社)で連載されたノセクニコの同名コミックを実写映画化。売れないロックバンド「バーミヤンズ」でボーカルを担当するレイカ(有末麻祐子)は強引な性格だが、持ち前の明るさでバンドを引っ張っていた。ドラムのザキ(君嶋麻耶)はマイペースな変わり者。ギターのタク(牧田哲也)は情熱的だがいつも空回りしてばかり。全く性格の異なる3人が居酒屋で夢を語りながら、ロックへの愛と未来への夢を追いかけていく。