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インタビュー

矢崎広   (やざき・ひろし)

俳優として舞台を中心に活躍している矢崎広。8月29日からスタートする舞台『ロボ・ロボ』では、西田シャトナーとタッグを組み、主演を務める。7体のロボット達の生き残りのドラマを描く物語の中で、物事を記録するロボット・レコーダー役を演じる矢崎は、果たしてどんなロボット像を作り上げるのか。そして、舞台作品にコンスタントに出演し続ける彼が考える、舞台の魅力とは?
撮影/中根佑子 ヘアメイク/守下春花(BURONICA) スタイリスト/DAN 文/渡邊美樹
衣裳協力:カーディガン/SHELLAC 03-5724-5687

プロフィール 矢崎広(やざき・ひろし)


1987年07月10日生まれ。山形県出身。2004年、ミュージカル『空色勾玉』で俳優デビュー。以降、舞台を中心に、テレビドラマ、映画などで活躍中。主な出演舞台は、『マクベス』『ミュージカル「薄桜鬼」』シリーズ、『贋作・好色一代男』『サ・ビ・タ~雨が運んだ愛~』など。ドラマでは『貧乏男子 ボンビーメン』『ごくせん』『赤い糸』『東京DOGS』など、映画では『バッテリー』『バベル』『HK 変態仮面』などがある。また、10月から始まる舞台『ジャンヌ・ダルク』に出演予定。

――この作品への出演が決まった時、どういう印象を持たれましたか?

「僕、SFが好きなのでSFが得意じゃない人よりは、とっつき易いと思いました。SFが好きだから分かる部分もあるんですけど、僕の頭の中で『スター・ウォーズ』とか『猿の惑星』とか、SFの作品を想像した時に、お客さんを前にして生身の僕らがその世界をどう具現化させていくのか、ちょっと未知の領域だなって思いました」


――そうですね。また、舞台だと映画とは違った見せ方になりますし、どんな舞台になるのか気になりますね。具体的なイメージについては、西田シャトナーさんとお話されたりしたのでしょうか?

「まだ、シャトナーさんの想像することについて詳しくは聞いてないんですけど…。アンドロイドではないらしんですが、一見すると見た目は人間のようで、シャトナーさんの頭の中では、色々形が違うものになっているようです。アナライザーという役が多分、一番人型に近いと思っているんですが、『スター・ウォーズ』で言ったらC-3POみたいな感じの。僕はレコーダーという、物事を記録する、再生するっていうキャラクターなんです。だから、稽古の段階でもレコーダーとして、みんなをちゃんと見つめていきたいし、周りをちゃんと把握していたいです。レコーダーっていう主人公の役割の上で、みんなをちゃんと見ていくっていうのが今回の僕の仕事だと思ってます。それをどんどん深めて、どういう気持でいるのか。人間だからロボットの気持ちなんてわからないんですけど。でも、ロボットはロボットなりに、頭のいい賢いロボットたちなので、そこにちょっと、僕のスパイスが入ってもいいと思ってます。割りと僕がレコーダーとして記憶して色々知ってるんだけど、行動するのはアナライザー(陳内将)ってやつなんですね。僕とセットでいるキャラクターで、指示はアナライザーが全部やってくれる。なんか、面白いですよね、ロボットって。それぞれに役割があるっていうのが」


――確かに、人間ってそういうことはありえないですよね。なんとなくこの人がリーダーっていうのはありますけど、今回は完全に役割とか出来ることが限られているっていうのが独特だなと思いました。

「ここに長けている、ここが弱いとかをもしかしたらちゃんと話し合いをしていったほうが、ロボット感が出てくるのかなとか思ったり…。そこら辺はみんなこだわっていくのかなとか、思ったりしますね」


――さっき、おっしゃっていた、役がロボットだから気持ちがわからないって。そうですよね。例えば医者の役をやるときは、医者の気持ちを考えて想像ができるけど、でもロボットはわからない。

「逆に、想像上のSFとしてのロボットっていうのを作っちゃったりすれば、いいのかなって思ったんです。『スター・ウォーズ』のキャラ達なんて、それぞれがやっぱり意思を持っている様に行動をしているから、そういうファンタジックな部分もあってもいいと思うし。でも、逆にロボットに戻ってもいいなって思ってるんですよね。ロボットの冷たさだったり、相手の気持ちがわからないところだったり。そういうところを上手く使っていったら、もっとロボット感がでると思うし、SFっぽい感じになるかなって思っているので」


――そうですね。この作品では、出演するほとんどの方と、初共演になるんですね。

「そうですね。皆さんお名前は存じ上げてるんですけど、今まで共演はしたことない方ですね」


――今回、主演ということもあり、先ほどもレコーダーとしてみんなをしっかり見ていこうとおっしゃってましたが、どう取り組もうとか、考えていらっしゃいますか?

「シャトナーさんの頭の中をまず分解するところからやりたいですね。とてもアーティスティックな方なので。だから多分、これはいい、これは悪いっていう判断をシャトナーさんがしてくれると思うんですよ。そこの枠を上手く使った上でやっていきたいなと思います」


――シャトナーさんとのコミュニケーションが鍵になってくるかもしれませんね。

「一番『ロボ・ロボ』のことを知っている方なので。そのルールの上で、僕達がいっぱい表現できることを提示していきたいと思います」


――キャラクターが、記憶のロボットということなので、矢崎さんご自身は記憶力はいいほうなのか、お伺いしたいのですが…

「割りとセリフ覚えは早いと思います。一時期、とんでもないスケジュールで舞台をやっていた時があって、それでも本番を迎えられているということは、大丈夫ということですね(笑)」


――何か大きな失敗をしたこととかは?

「あ、でも、しょっちゅう“ポン!”と、抜けちゃったりすることはありますね。ひとつのことを考えると、もう一個のほうがポンと飛んでしまったりするので」


――抜けたらどうするんですか?

「でも、本番中にセリフが飛んだことはないです。今まではないです」


――じゃ、抜けちゃったりするのは、稽古の時とかですか?

「舞台の袖に待機してて、出る瞬間に『あれ、何言うんだろう? わかんないけど、とりあえず、出てみよう』って舞台に出て、セリフが出てくるっていう感じです」


――じゃ、体が覚えてるからセリフが出てくるってことですか?

「そうです。“わかんない、わかんない、わかんない…出番だ、出番、出番…”喋れたーっていう感じです」


――えぇー!? 凄いですね。

「そんなことがしょっちゅうあります」


――しょっちゅうですか? でもドキドキしませんか? どうしようって。

「でも、役者って面白い作業があって、セリフを覚えるじゃないですか。でも次に言う言葉がわからないまま舞台に立たなくちゃいけない部分があるんですよ。新鮮なリアクションを演じなくちゃいけない。例えば、この先、この人は死ぬって知っているんだけど、あたかも知らなかったようにリアクションを取らなくちゃいけない。だから、全てを忘れよう、忘れようっていう作業もあるので、不思議ですよね。だから、忘れようとした結果、本当にセリフも忘れちゃって(笑)。でも、それって人と関わることによって、セリフを思い出すから、やっぱり相手とお芝居を作ってるんだなって、改めて実感することがあります」


――不思議ですね。そういうのって映像作品とは違って、舞台だから起こりえることだと思うですけど、舞台の醍醐味だったりするんですか?

「セリフを忘れちゃうっていうのも醍醐味だと思います。映画とか、ドラマだったら撮り直せばいいので。舞台は、セリフを忘れてしまって、それをどうみんなでごまかすか。ごまかしきれなかったというのも、本当は起こってはいけないんですけど、それはそれで、舞台ならではだよねって思いますし、そのライブ感が僕はとても好きです。緊張感というか」


――では、お芝居はもちろんドラマでも映画でもやられますけど、やっぱり、緊張感とか、生の感じが好きなんですね。

「舞台はそうですね。特にお客さんとかも、生を共有できるので好きですね。ドラマとか映画は、現場でスタッフさんとリアルを突き詰めるというか。それぞれの作品に魅力はあると思うんですけど、舞台の魅力はやっぱり生を共有して、今そこで何かが起こって、セリフが無くてもこの人とこの人の間にはなにかバチバチしているとか、その空気感を観てもらったりだとかするのが、舞台ならではだと思います」


――今回、ロボットだったらセリフとか忘れちゃったらどうするんでしょうね?

「だから、僕は今回記憶するロボットだから、セリフを忘れられないんですよ」


――人間だったらアドリブで言えますけど。

「ただ、いい言い訳があって、『壊れた』って言えばいいんです(笑)」


――(笑)凄い! なるほどー! そう突っ込んで貰えばいいんですね。

「そうです(笑)」


――面白いですね。そういう舞台上でのアクシデントもお客さんは観て面白かったりしますからね。

「そうですね。絶対ミスしない人がミスをすると面白いんですよね(笑)。あま噛みしない人が、あま噛みしてセリフが転んじゃう時とか」


――そういう時、突っ込んだりしますか? アドリブを入れたり。

「作品にもよりますけど、割りと僕はしますね」


――その見極めも、舞台の経験があって見えてくるものだと思うんですが、主演を務める舞台も増えてきていらっしゃいますよね。

「はい、ありがたいことですね」


――ご自身で、自分が役者として成長している実感はありますか?

「うーん。主演する作品が増えているということは、自分が自分に対してどんどん厳しくやっていかなくちゃいけないなって感じます。観て下さっている人が、多ければ多いほど自分に対してどんどん厳しい目を持っていかなくちゃいけなし。じゃないと、いい意味で成長が見込めないと思います。僕は自分に対して、厳しくしたり自分に問いかけて戦っていかなくちいけないと思うし、多分先輩方はそういう風にやってきた方ばかりだと思うので、やっぱり共演とかすると肌で感じるので。この方はまだ戦っている方だって。以前、僕は『ごくせん』で少し絡んだくらいですが、宇津井建さんと共演させていただいた時に、宇津井さんが生瀬さんに、どうやったらもっと発音がよくなるのか現場で相談していたりしてたんです。本当に、ずっと自分に対して探求している方だなと思いました。まだ、稽古なさるんだと思って」


――ゴールがあるというものではなくて、ずっと成長し続けるということですね。

「そうですね。そして、自分を知っていく作業だと思うので。こういうところは得意で、こういうところはダメでとか」


――矢崎さんご自身は、演技に対してストイックなタイプですか?

「ストイックではないと思いますけど、気を抜くことが出来ないタイプだなと最近気づきました。だから、気を抜いたくらいがちょうどいいんだと思います。結局頑張っちゃうから。だから、緩めに操縦していこうって思いますね。頑張って操縦すると壊れちゃうなと」


――自分をコントロールする自分がいなきゃいけないってことですよね。

「最近、そう思います。体と心って繋がっているようで繋がっていないなって。心が病んできたなと思った時に、先に体に症状が現れちゃって。でも、心は頑張ろうとしているんですよ。だけど、足が痛かったり、胃が痛かったりとか、体に先にきちゃうから、この体を何とか上手くコントロールしてあげないといけないなって最近思います」


――例えば、本番が終わってどっと体に来ることってありますか?

「僕は、よく舞台と舞台の合間に風邪をひきます。多分、気も張ってるし、体も頑張ってるんだと思います」


――えぇ!? そうなんですか。今年から来年にかけて、出演作が本当にたくさんありますが、普段その舞台の合間のリフレッシュとかどうなさってるんですか?

「何もしないとか。あと、他の作品を観たりします。結局、作品に関わっている方が好きなんですよ。何かやっている方が僕はどんどんリフレッシュしていくし、映画とか観て方が癒されるし。何かそういうものを観てないとダメですね」


――観ることで癒されて、更に新しいものが得られたりすることもありますしね。

「そうですね。ファンタジックな作品をやっている時に、邦画のものすごくエグいもの観たりするとリフレッシュになるし、この映画の何かがファンタジックな作品の方に使えるかもしれないしとか。色んなものをいっぱい欲しいなと思います」


――ある意味貪欲ですね。

「そうですね。あと、今どんなところでも作品を見ることができるので。例えば、ネットの動画で、何かのテーマについて探したら、色んなアーティストの作品とかがたくさん出くるじゃないですか。この作品のロボットについて調べたら、ロボットの作品が出てきますし、面白いなーって思いますね」


――調べることは、好きなんですか?

「好きですね。特に歴史系とかは。ルーツとか」


――この間まで『ミュージカル薄桜鬼』をやられてましたけど、そういうのもちゃんと調べてやられたんですか?

「そうですね、新選組について調べましたね。初めて新選組に関わる作品に出演が決まった時は試衛館跡地にも行ったり、歳三記念館も行きました。石田寺(せきでんじ)にも行きましたね。歳三さんのお墓に行ったり、板橋の近藤勇のお墓にも行きました」


――凄い! 実際に行かれるんですね。

「はい。僕は、これを“デ・ニーロ・アプローチ”と呼んでいますけども(笑)」


――(笑)凄いですね。

「あと、どこかでシックスセンスを信じているところがあって、ご挨拶をしたいなっていう気持ちがあったんですよね」


――何か対話をする感じですか?

「『演じさせて頂きます。パワーを下さい』っていう感じですね」


――大事ですね。そういうところに意識がある人と、ない人では演技の深さも違う気がします。

「行ってよかったです。こういう場所で戦っていたんだとか、こういう刀とかを使って傷んだとか、イメージが沸いたので。新選組は割りとゆかりの土地が東京近辺だったので、周れたんですけど。あと、京都にも行ったりして」


――そして、先日、『昔の日々』の公開ワークショップに参加されましたよね。そういう場に参加して、感じることもあったと思うのですが。

「そうですね。公開のワークショップっていうのが未知のことだったので。ワークショップって、本来は人に見せないもので、スタジオの中でやる訓練なんですけど、それを人前で見せるとなると、どこまでやっていいのか、どういうパフォーマンスをしていいのかとか、わからないまま始まるのでもの凄く緊張しました。僕はやるからには、ドラブルとかアクシデントとかを起こしたいなって思っていたんですけど、(デヴィッド・)ルヴォーにも、言われて色々変えながら出来たので、たくさん失敗できたからよかったのかなと。でも、僕はお客さんを意識すると、どうしてもお客さんを笑わせようとか、何かしようとかしちゃうタイプの俳優なんだなって気づきました」


――でも、それは逆に言うと、今まで気づいていなかったんですか?

「そっち系の俳優だとは思ってました。お客さんありきでやっているなって。それは、媚びるという意味ではなくて」


――ワークショップという、人に見せないものをお客さんに見せるという場に立ったとき、恥ずかしいとか見られたくないという気持ちはなかったんですか?

「もちろんありました。やっぱり、チャレンジして失敗する姿もお客さんは見るので。でも、それでいいんだなって、途中で思ったら、フッと楽になれたので」


――そういう、恥ずかしいということと、お客を笑わせようとすることって、真逆のことだと思うんですが…

「お客さんの公開ワークショップだけど、私はシャットダウンしてやるっていう俳優もいると思うんですよ。だけど、僕はそういうシャットダウンが出来ない俳優なんだと思いましたね」


――やっぱり、その空間にお客さんがいるということが大きい。

「はい。大事なことなんだなって思います。だって、実際本番はお客さんがいるんだから。シャットダウンしたらそれはそれで違うし、このライブ感は共有しなくちゃいけないし。この気持ちを2階席の奥まで届けないといけない。ある意味、俺はやっぱりお客さんを意識しちゃうんだなってことに気づけた瞬間でしたね。」


――この経験は、今後の演技にも活きるでしょうね。

「でも、お客さんなんて関係ない、俺はこの役をこの場で生きて、パフォーマンスをするっていう俳優に憧れてもいます。そっちもそっちでかっこいいと思うので」


――色々なタイプの俳優さんがいらっしゃいますからね。

「そうですね。でも、僕は今のところそっちなんだなと。お客さんを喜ばせたいんだな、っていうのに気づけたっていうか、気づかざるを得なかったというか」


――その気付きが、きっとまた『ロボ・ロボ』に発揮されるんでしょうね。矢崎さんは、今後の目標とか、またはこういう俳優になりたいという理想像というのを持っていらっしゃいますか? 敢えて持たないという俳優さんもいらっしゃいますが。

「昔は、凄く理想像を持ってました。それこそ、うちの事務所の先輩達と同じ土俵に立ちたいって思ってました。でも、最近は今目の前にあることを、自分に求められていることをプラスでどんどん返していきたいなって思います。目の前にあることをもっと上に、だけど、それは一段飛ばしとか、二段飛ばしをするんじゃなくて、一段ずつしっかり、自分の課題を見つめつつ、それがさっき言った自分に厳しくしていこうていうところなんですけど。地に足を付けて一歩一歩しっかりとやっていった結果、もしかしたらいつかその尊敬する先輩方と同じ土俵の上に立てるんじゃないかと信じて今やっているところです」


――経験を積んで、やりたいことと出来ることが見えてくるから、どんどんと目標が具体的になっていくんでしょうね。

「そうですね。新しいものもどんどん取り入れたいですし。わからないことにもどんどん挑戦していきたいなって思います」


舞台『ロボ・ロボ』

日程/2014年8月29日(金)~9月1日(月)
劇場/サンシャイン劇場
作・演出/西田シャトナー
出演/矢崎広 陳内将 鈴木勝吾 川隅美慎 塩崎こうせい 根本正勝 村田充
お問合せ/東京音協 03-5774-3030(平日10:00-17:30)
オフィシャルHP http://roborobo.net

7体の新型家電ロボットを乗せた飛行機が、ある島に墜落した。操縦していた人間は息絶え、残されたロボット達は自分たちの力で協力して脱出することを考える。それぞれ役割が異なる上に、心を持たない彼らは果たして、協力して島から出ることが出来るのか? 

2024年03月
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