8月15日、終戦特集ドラマとしてNHKで放送予定の『15歳の志願兵』。太平洋戦争末期、愛知一中の決起集会で、生徒700人が戦争へ行くことを志願した。 エリート中学生だった愛知一中のこの行動は、全国の少年達の心を戦場へと突き動かしていく。このドラマの主人公・藤山正美(池松壮亮)の親友の笠井光男を演じるのが、映画『さんかく』『孤高のメス』などに出演する若手俳優・太賀だ。 文学少年で、軍人の父や兄を持つも、軍事教練に興味はない。しかし、講演会での演説に心を打たれ、祖国に命をささげる決意をする。そんな光男の心の揺れ動きを丁寧に、時に激しく演じた太賀に話を聞いた。
── まずは、このお話を頂いた時の話を聞かせて頂けますか?
「最初、マネージャーさんに台本をパッと渡されて"おぉ!! なんですかこれ!?"と(笑)。"『15歳の志願兵』の笠井光男役に決まったから、坊主だけどいい?"と尋ねられたんですが、"是非刈って下さい!"と言いました。久しぶりの仕事だったので、芝居に凄く飢えていたこともあって"マジッすか!? やったー!"って(笑)。めちゃくちゃ嬉しかったですね。それで、家に帰っていざ台本を読んでみると、そのテンションがどんどん下がっていきました」
── それはどうして?
「予想以上に重要な役どころでしたし、これを僕が演じられるのかという不安がどっと押し寄せて来たんです。読めば読む程、戦争という重みがずしんって乗っかってきて…。セリフをどう言おうという技術的なこともそうですけど、それ以上に、感情的な部分をどうしようかと悩みました。演じ方が難しいということじゃなくて、ほんと、どうしていいかわからなかった。それに、こうやって取材されるということも今までにあまりなかったので、失敗したらヤバいな…というプレッシャーも大きかったです」
── 台本をもらって撮影に入るまでの期間は、どう過ごされていましたか?
「クランクインまで2カ月間くらいあったんですが、最初の1カ月は、戦争について調べました。図書館に行って戦争に関する書籍を読んだり、原作本を読んだり。もう…この1カ月はほんと不安でした。ぶっちゃけ…逃げ出したいくらいの勢いで"あぁ! どうしよう! ヤバイヤバイ!"と、いつも思ってました(笑)」
── 戦争について学んだ成果は出ましたか?
「授業で戦争について習うのとは違って、新しい発見が多かったです。といっても、色々調べて、戦争の知識が身につこうが、つかまいが、それは特に重要としていなくて。"俺は笠井光男に近づきたいんだぞ!"という熱意だけでも、光男に伝えたかった。そういう思いが強くありました」
資料以外に、映像ものは見ましたか?
── 資料以外に、映像ものは見ましたか?
「見ました。戦争映画やドラマを何本か見たんですけど、凄く勉強になりました。最初、どうやって喋ればいいのかなという疑問があったんです。僕のイメージでは、声を張り上げるのを想像していて。でも日常生活でもそういう喋り方なのかなぁと思っていたんです。それで色々見ていたら、やっぱり普段の生活のシーンでは、普通に喋っていて。僕は、ほかの作品がどういう喋り方をしていようが普通に喋ろうと思っていたんですけど、"あ、やっぱこういう喋りなんだ"と確認出来たので、それはよかったですね」
── 残りの1カ月の過ごし方は?
「クランクインの1カ月前になると、ボートの練習が始まりました。そこから本格的に準備をしていきました」
── 主人公の藤山正美(池松壮亮)と光男は端艇部(ボート部)という設定でしたね。
「はい。ボートの練習が始まったころから実感が出てきて、壮亮君とも色んな話をしてコミュニケーションをとっていきました」
── 池松さんとは映画『半分の月がのぼる空』で共演されています。
「もともと共通の知り合いがいたんですよ。壮亮君は、僕の話をその 「もともと共通の知り合いがいたんですよ。壮亮君は、僕の話をその方経由で聞いていたみたいで。それで一度、壮亮君が友達と遊んでいる時に僕を呼んでくれて。そういう交流があったあとに映画で共演したんです。共演以降はたまに遊んでいたし、"また一緒に作品やれたらいいね"と話していたので、凄く嬉しかったです。壮亮君も不安があったみたいで、芝居について、とにかく話し合いました。僕らが心がけていたのは、光男と正美のシーンは楽しく演じようということ。物語はシリアスな内容だけど、15歳という子供らしさを出せる部分があったら、明るく演じたかった。なので、夜遅くまで"これはこうだと思う""いやいや、そうじゃなくて!"みたいに、熱いディスカッションをしまくりました」
── 2カ月という準備期間を経て、いよいよクランクイン。ファーストカットのことは憶えていますか?
「最初の撮影は、一番山場である決起集会の直後のシーンだったので、決起集会のことをイメージして撮影に臨みました」 決起集会のシーンを撮ったあとに、初日の撮影を悔んだりすることはありましたか?
── 決起集会のシーンを撮ったあとに、初日の撮影を悔んだりすることはありましたか?
「正直……ありました。でも監督がOKを出して下さったので、それを信じるしかないです。だから僕の心の中で、どう折り合いをつけていくか、その微調整を心がけました。正直、自分の演技に納得は全然出来ていないんです。"カット!"っていう声がかかる度に、はぁ~って不安な顔をしていました(笑)。そしたらカメラマンさんに"太賀、お前それでいいのか?"って言われて"嫌です"と。そしたら"OK、もう一回お願いします!"みたいな感じで何回も撮って頂いて…。僕自身は納得出来ていないけど、自分がいいと思ったものが必ずしもいい芝居だということではないんだなと、改めて気づきました。あのシーンは僕もかなり熱くなっていたから、悔しい気持ちで一杯だったんですけど、全体を通しての1シーンとして見たら、あの演技は間違っていないんだろうなと。だから監督もOKして下さったんだと思うんです。ほんと芝居は難しいです…」
── 監督とは演技について話されることは多かったんですか?
「いや、そんなにはないですね。昭和な男を演じてほしいと言われたくらいで」
── では、太賀さんが思う光男を自由に演じれた訳ですね。監督から演技をつけられるのと、今回のように自由なのは、どちらがやりやすいですか?
「どちらも変わらずです。ただ今回は自由な芝居をやらせて頂いたので、もちろん悔しい部分もありますが、色んなことが出来てよかったです」
── 自由に演技が出来る中、太賀さんは光男をどう捉えて、どう演じようと思われましたか?
「光男は頭がよくて、文学が好きで……今の15歳の男の子のような考えを持った人ではないんだろうなと。考えなきゃいけないことが今と昔では全然違うので、心はもっと大人だったと思います。物事を斜に構えているし、世の中の出来事がわかっているヤツ、そして自分の信念を貫く人。最初は戦争を冷やかな目で見ていて、戦場へ自分が行くことなんて少しも思っていなかった。でも講演を聞いて戦争に行くことを決意するんですけど、それも光男の意思があってこその行動なんです。戦争に行かないと言っていたのも光男の信念だし、行くことにしたのも彼の中できちんと折り合いがついたからこその行動。だから、そういう信念みたいなものは丁寧に演じようと心がけました」
── 時代は違えども、同年代の男の子。そういう部分で光男に共感することはありましたか?
「う――――ん……共感ですか……。なんか共感するって、僕あまり思わないんです。嫌な意味ではなくて、光男は僕であって、全くの別人という意識がないから。"俺は光男だし、光男は俺だし"みたいな感覚なんです。そこで切り離してしまったら、芝居がちょっと変わってくると思います。光男と似てるな~と感じた部分はあったかもしれないけど、意識して考えたことがなかったし…そういう探し方を今までしてこなかったので、ちょっとわからないです」
── カメラが回ってない時も光男なんですか?
「光男と太賀を切り離して考えていないので、どちらの時っていうのは表現しにくいです」
── それはどの作品に対してもそうですか?
「セットにも感動しましたし、CG処理も感動したし…もう全部ですね(笑)。セットや模型は休憩時間に、みんなで"すげ~"って言いながら触ってました(笑)。衣裳に初めて袖を通した時も、物凄くテンションがあがりましたね。あとは、アフレコの時に出来た映像を観て、"あれ、こんな角度でいつのまに撮ったんだ?"とか、"ここがこんなシーンになったんだ!"っていう、自分の想像を遥かに超えた映像になっていたので、なにもかもが感動でした」
── 作品はご覧になりました?
「まだ見てないです。ちょっと見るのが怖いですね」
── それは自分の演技を見るのが?
「自分の演技に納得するうんぬんは、もう作品を撮り終わった時点で終わっています。今は、ほかの人にどう見られるんだろうという怖さがあります。壮亮君がめっちゃいいんで、みなさん見て下さい!」
── 特にどういう部分を見てほしいですか?
「僕が"戦争についてどう思う?"って聞かれても、うまく言葉に出来ないと思うんです。悲しいとか、つらいとか、そういう言葉で表したらいけない気がするものだなと、漠然と思っていて。この作品も確かに悲しい話かもしれないですけど、視聴者には悲しい気持ちだけで終わらせたくないというか。言葉で表現出来ない"なにか"を残したいんですよね。僕も含め現代の人からすると、戦争って遠いものだと思います。でも戦争がなかったら今の様な暮らしは出来ていないじゃないですか。みんなそのことを忘れがちだと思うんです。少なくとも僕は忘れていました。そういうことを、ちょっとでもいいからこのドラマで思い出してほしいです。別に、このドラマを見て何か行動に起こしてほしいとは思いません。ただ、戦争に行った人達というのは、日本のため、残る人達のため、僕達のために戦争へ行った人ばかりだから、彼らの気持ちを感じてほしいです。それをわかっているのといないのでは、戦争に対する考えも全然違うと思います。ありきたりですけど、伝えたいのはそういうことです」
── 太賀さんもこのドラマ出演をきっかけに、戦争に対する考えは変わりましたか?
「やっぱり変わりました。今まで毎年終戦記念日が近づくと、こうやってドラマや番組があったりしますけど、全然意識していませんでしたから」
── この作品は戦争ドラマですけど、戦争で戦う姿や被害に遭う姿が描かれているのではなく、戦争に参加するまでの苦悩が描かれていてますよね。
「そう。戦争ドラマでもあるんですけど、人間ドラマでもあるんです」
── こんな出来ごとがあったんだと、発見がとても多い作品でした。
「戦争を題材にしたドラマってたくさんの人が死ぬイメージがありますが、この作品は心の葛藤など人々の気持ちを描いています。本当にたくさんの人に見てほしいです」
── 放送が楽しみです。では最後に、太賀さんの目標とする役者像を聞かせて頂けますか?
「当たり前ですけど、なんでも演じられる役者になりたいです。僕は、みんなになんとなく支持されるよりも、誰かひとりでもいいから、その人の胸に突き刺さるような芝居をしたい。それくらい深い役者になりたいんです」
── 芝居は難しい…とため息をつかれていましたが、それでも芝居をやる理由ってなんですか?
「楽しいからです。うまくいった時は凄く気持ちいいし、周りからよかったよと言われるのが凄く嬉しい。自分以外の人格を知ることって経験出来ないことなので、そこが面白いです。演技している時に、たまに"すげぇ伝わるな"っていう瞬間があるんですよ。このドラマでも、正美と光男がいい感じに繋がってるなあっていう瞬間がある。そういうのが凄く気持ちよくってたまらないですね! だから僕は今のところ、ひとりで芝居は出来ないなと感じています」
── そういえば、凄く悩まれるタイプだと聞きましたが…。
「はい…悩みますよ…。悩まないとやってられないんです。悩まないほうが怖い」
── 悩むから怖くなるんじゃないですか?
「いや、悩まないほうが怖いですよ。悩んで悩んで考えておけば、自分は安心出来ます。あっけらかんとしているほうが、僕にとっては安心出来ません。僕、芝居に対しては真面目だと思います」
── おぉ(笑)。
「僕、普段は怒られてばっかりなんですけど、実は真面目で不器用なんです…。はぁぁ……って悩んでばっかりです(笑)」
── でも注意されることで、悩んで、新しい考えが生まれるかもしれないじゃないですか。
「そうなんです! 怒られることって悪いことじゃないんだなと学びました。それに、まだ失敗してもいいと思っているんですよ。あと何年かしたら、そうも言っていられないかもしれないけど(苦笑)。でもそれまでは失敗しまくろうかなって。折り返し地点までは失敗しまくって、そこからはもう、駆け抜けるだけです」
2010年8月15日【総合】夜9:00~10:13
作/大森 寿美男(「風林火山」「クライマーズ・ハイ」「黒部の太陽」ほか)
音楽/梶浦由記(「アキレスと亀」「歴史秘話ヒストリア」ほか)
演出/川野秀昭
制作統括/磯 智明
出演/池松壮亮 高橋克典 太賀 鈴木砂羽 福士誠治 平田 満 佐戸井けん太 近藤芳正 夏川結衣 竜 雷太 ほか
http://www.nhk.or.jp/nagoya/jyugosai/index.html
昭和18年。海軍は航空兵不足の解消のため、全国の中学校に甲飛予科練習生の志願者数を強制的に割り当てた。
愛知一中の割当ては47人。しかし、名門校を自負する生徒たちは戦争を冷ややかに見ており、 愛知一中の3年生・藤山正美(池松壮亮)もその一人だった。
正美にとって、 端艇部(ボート部)の親友・笠井光男(太賀)と文学や将来について語って過ごす時間が何よりも大切だった。
志願者の少なさに焦った軍部は、校長を通じて『時局講演会』を開き、生徒への指導強化を命じる。
正美の父・順一(高橋克典)は同校の英語教師で、戦争に賛成ではなかったが、それを明確に口にすることはできなかった。
7月5日、700人の生徒が集まった柔道場では、軍人たちが悲痛な戦争体験を話し、 教師は名門一中の生徒として進んで戦場に行くべきだと語る。
熱狂の中、お国のために役に立ちたいと使命感に目覚めた純真な生徒たちは、次々と志願を誓う。 冷静に聴いていた正美までもその空気に飲み込まれ、「戦場に行く」ことを宣言した。
(公式HPより)