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インタビュー

山崎育三郎   (やまざき・いくさぶろう)

今年、菊田一夫演劇賞を受賞。弱冠25歳でありながら、帝国劇場の舞台でミュージカルの主演を務め、歌手デビューを果たすなど大活躍の若手俳優。色気と気品を兼ね備えた歌声、確かな演技力で多くの観客を魅了する。ミュージカル界の新たなプリンスとして人気の山崎育三郎が、ミュージカル『嵐が丘』に出演。主人公・ヒースクリフの恋敵であるエドガーを演じる。キャスト陣が真剣に取り組む稽古場を訪ね、山崎に話を聞いた。

撮影/柳沼涼子 スタイリスト/尾後啓太 ヘアメイク/糸川智文 文/田中大介

プロフィール 山崎育三郎(やまざき・いくさぶろう)


1986年1月18日生まれ、東京出身。07年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役でデビュー。東宝ミュージカル『モーツァルト!』では主人公のヴォルフガンブ役を務め、その舞台成果として菊田一夫演劇賞を受賞。テレビでは『さんまのスーパーからくりTV』内のプロジェクト“サザエオールスターズ”のボーカルに選ばれる。10年には歌手デビューを果たし、アルバム『愛の五線譜』をリリース。ミュージカルの分野以外でも活躍の場を増やし、演劇界や音楽界で大きな期待を集めている。

――『レ・ミゼラブル』の本番と稽古が重なっていたようですね。稽古が始まったばかりの日々は大変だったのではないですか?

「そうですね。でも物凄いキツイ状態ではなかったです。昼公演の本番が終わったあとに稽古場に来ていました。つい先日『レ・ミゼラブル』が終わったので、ようやく今は『嵐が丘』に専念出来るようになりました」


――そういう状況も慣れていらっしゃるとは思うんですが、大変ですよね?

「やっぱり頭の切り替えは必要ですね。といっても、ガッツリとカブって困るということはこれまであまりなかったので」


――稽古場に入られて、その感触と雰囲気をお聞かせ願います。

「オリジナル作品でイチから全部作るという作品に関わるのは3回目になります。ミュージカルでも『レ・ミゼラブル』は25年続く作品ですし、これまでに何度も上演されてきた作品で役を頂くことのほうが多かったんです。そういう意味で『嵐が丘』はとても新鮮ですね。何もないゼロの状態から演出家の西川(信廣)さんを中心にパズルを合わせるように作っていくのが楽しいです。稽古場でセリフがカットされたり、逆に加わったり、音楽も変更されたり……。そうして少しずつよくなっていくのを感じます。もちろんゼロから作るだけにプレッシャーも大きいですが……。伝統的な作品では、与えられた台本や枠組みの中でどれだけ自分がパフォーマンスを発揮出来るかということが課題になります。それぞれ作品の生み出し方に違いがあって、ミュージカルには正解がないんですよね」


――今回はわりと役者さんの意見も入ってくるような稽古場なんですか?

「そうですね、バンバン入っていきます」


――山崎さんはどういう意見を出すんですか?

「意見を言うというよりも、動きなどのアイデアを自分から出していくという感じですね。西川さんも役者のアイデアを取り入れて、一緒に作っていこうという雰囲気で接して下さるので、とてもいい空気です。西川さんご自身が稽古場を盛り上げて下さいます」


――西川信廣さんといえば、文学座所属で商業演劇でも活躍されていますね。仕事をするのは初めてなんですよね?

「そうです。実際にお会いするまでは結構お堅い方なのかなという勝手なイメージがありました(笑)。新劇系で活躍されている方ですし。でも、実際に稽古場でご一緒すると、凄く気さくで、役者の気持ちを考えて演出して下さるので、キャストはみんなやりやすいと思います」


――ミュージカルはダブルキャストの例がたくさんありますね。稽古を合わせるのも大変なのでは?

「例えば『レ・ミゼラブル』の場合、ひとつのキャストに4人入ることがあります。そうなると組み合せの関係上本番では1回限りの共演なんてこともあるんですよ。今回の『嵐が丘』はヒロインの安倍なつみさんと平野綾さんがダブルキャストなので、それぞれ違いがあって本番が楽しみです」


――やっぱり、演じる人が違えば芝居の空気も変わりますよね?

「もちろん変わります。おふたりそれぞれのキャサリン像があるので、別の作品と言ってもいいくらいに違います。まだ稽古もこれからだから、その時感じたことを大切に稽古するようにしています。平野さんは声で的確に表現されるので、凄くミュージカル向きだなと思いました。とても活発なキャサリンというイメージです。安倍さんは大人な女性の雰囲気を持ちつつ、芯の強いキャサリンを演じてらっしゃいます。稽古の早い段階からおふたりとも異なるキャサリンを出して頂いているので、僕らの芝居も変わっていくと思います」


――『嵐が丘』は、小説や映画でご覧になりましたか?

「今回のお話を頂いたあと、映画で観ました。第一印象は“暗いなあ”でした(笑)。凄く重いし、胸にズシンとくるものがありました。これがどうミュージカルになるんだろうと思いましたけど、この独特の空気感や世界観の美しさを体感して頂ければと思います。主人公のヒースクリフは愛が深いからこそ復讐するという話なので、観ている人も一緒に苦しむような面がある作品なんですけど、若い人に観てほしいんですよ。恋愛でも気持ちを抑えたり、キチンと伝えられなかったりする人が多いというじゃないですか。凄くストレートな純愛が描かれているので、現代の人も響くものがあるんじゃないかと」


――山崎さん演じるエドガーという青年に対してはどんなイメージを持ってらっしゃいますか?

「純粋で一筋で、誠実に生きている人だと思いますね。彼が出てくる場面の中で、笑えたり微笑んだり出来るシーンがあるので、お客さんにとっては少しホッと出来るような役割になれたら嬉しいです。だけど、ただそれだけの人物じゃなくて。ヒースクリフに対して少し階級意識を抱いている面があると思うので、そういう“いい人”だけじゃない面も見せたいと思います。もちろんエドガーだけじゃなくて、それぞれのキャラクターを見せていける作品にしたいですね」


――主人公のヒースクリフは、河村隆一さんが演じます。小さいころから好きだったそうですね。

「そうなんですよ。ソロの曲をよくカラオケで歌っています(笑)。まさか仕事でご一緒出来るとは思いませんでした。河村さんはずっと音楽の世界の第一線で活躍してこられて大成功をおさめたアーティストですよね。そういう方が自分の畑ではない新たな場所で挑戦しようというのがとても凄いことだなと思って。音楽で成功している訳ですから、やらないという選択だってあるはずなのに。河村さんご自身も“自分が試されている状況にワクワクする”ということをおっしゃっていて、感動しました。稽古場での取り組み方も常に真剣で、アツい方なんです」


――せっかくご登場頂いたので、役者業全般についてもお話をお聞かせ願います。遅ればせながら、菊田一夫演劇賞受賞、おめでとうございます!

「あ、ありがとうございます」


――『モーツァルト!』の主人公・ヴォルフガングの演技が評価されての受賞でした。やはりこの作品に出演したことは、山崎さんの俳優人生においてターニング・ポイントとなりそうですね。

「高校1年生の時、『モーツァルト!』の初演を観て、いつか絶対この役をやりたいと思っていたんです。当時、音大の付属高校の生徒で、声楽を学んでいました。『モーツァルト!』を観てすぐあとにCDと楽譜を買って、ピアノ科の友達に曲を弾いてもらって歌ってばかりいました。いつでもオーディションを受けられるように(笑)、準備していました。元々僕は子役でミュージカルをやっていて、12歳の時に主演に選ばれて、カーテンコールで拍手された時、僕はこの仕事をやっていきたいと思ったことがそもそものきっかけなんです。だけど、変声期を迎えてからは悩むことが多くて。自分の頭ではボーイソプラノをイメージしているけど思春期の自分は大人の声を出している。そういったギャップに悩んでいる時、『モーツァルト!』に出会いました。ヴォルフガングは天才少年と呼ばれていた自分と、ひとりの青年として恋愛をしたいという思いとの葛藤を描いている作品で……。モーツァルトのような天才と比べちゃいけないんですけど、過去との葛藤という意味でとても自分の悩みとリンクして、いつかやりたいと思っていたんです」


――19歳の時に『レ・ミゼラブル』のマリウス役を射止め、以来ミュージカルの世界で活躍中です。ヴォルフガングの役は24歳の時、オーディションで見事突破されました。高校時代から数えると長きにわたる夢を叶えたんですね。

「8年越しですね(笑)。絶対に受かってやるという強い気持ちでオーディションを受けたのを覚えています。実際に決まったあとも緊張でした。帝国劇場で主演して、カーテンコールの場面を想像するだけでも鳥肌が立つくらいに(笑)。そんな中始まった稽古では、ずっと恐怖心が拭えませんでした。それなのに事務所や東宝の人達がプレッシャーをかけてくるんですよ!」


――どんな風に?

「“帝劇だよ、失敗出来ないからね”って(笑)」


――それでも舞台成果は素晴らしかったです。

「ある意味開き直れたんです。“ダメだったらしょうがない”って思えるようになったんですね。ヴォルフガングのセリフにもあるんですが、“ありのままの僕”を見せるしかないという気持ちになれました。モーツァルトの生き方が自分自身の心境と重なったというか……。評価されなくてもいいというくらいの気持ちになって初日を迎えました。本番も終えて、『モーツァルト!』に関してはやり尽くしたと思えた時に、賞を頂いたんです。自分にはもったいない賞ですけど、本当に嬉しかったですね。だから多分、『モーツァルト!』は一生心に残る作品になると思います」


――長丁場の夢を叶えて、素晴らしいですね。お疲れ様でした!

「僕は俳優として全然未熟ですし、自分の芝居に納得いくことなんてないですよ。ただ『モーツァルト!』で主演という役割のプレッシャーやしんどさをたくさん経験させて頂けたので、今にして思うと物凄い財産です」


――山崎さんの今後について教えて下さい。将来的な展望というか……。

「やっぱりミュージカルをやっていきたいという思いがありますね。ただ、よく“ミュージカル俳優”という言い方をされますが、僕は“ミュージカル俳優”という肩書きはないと思っているんです。ミュージカルは野球でいうオールスターみたいなものです。河村さんはミュージシャンで、安倍さんはモーニング娘。として活躍されてきた方だし、平野さんは声優さん。出会うはずのない人達が一同に会してエンターテインメントを作る面白さがある。色んな職業の人が集まっているんですよ。だから僕もミュージカルだけの俳優でありたくないと思っています。お芝居だけの舞台もやりたいし、歌手の活動も続けたい。チャンスがあればなんでもチャレンジしたいです。その先で自分がどうなるかはわからないけれど、決めつけたくないんですよ」


――12歳の男の子がカーテンコールでの快感を得て、以来ミュージカルを志し、今に至るという……。そういう意味では初志貫徹ですね。

「カーテンコールは経験した人にしかわからない快感があるんですよ。稽古でプレッシャーを感じて、どんなにつらい状況になっても舞台が終わったあとのカーテンコールを経験すれば、“やってよかった!”って思えます。だから、やめられないんですよ」


ミュージカル『嵐が丘』

原作/エミリー・ブロンテ
演出/西川信廣
脚本/飯島早苗
作曲/倉本裕基
補作詞/高橋知伽江

出演/河村隆一 平野綾(ダブルキャスト) 安倍なつみ(ダブルキャスト) 山崎育三郎 荘田由紀 岩﨑大 杜けあき 上條恒彦 ほか

<東京公演>
7月11日(月)~24日(日)@赤坂ACTシアター
<大阪公演>
7月27日(水)~31日(日)@梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

舞台は英国北部のヨークシャー。「嵐が丘」と呼ばれる邸に、主人のアーンショウ(上條恒彦)はひとりの孤児を連れて帰る。息子のヒンドリー(岩﨑大)と娘のキャサリン(平野綾・安倍なつみ)に孤児を家族の一員に加えることを伝える。その孤児はヒースクリフ(河村隆一)と名づけられた。アーンショウの死後、ヒンドリーが家督を継ぐも、放蕩三昧で家運が傾きを見せる。そんな時、裕福な隣家のエドガー(山崎育三郎)がキャサリンに結婚を申し込む。ヒースクリフは愛するキャサリンがエドガーを想っていると誤解し、嵐が丘の邸を出ていってしまうのだった。

2024年04月
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