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インタビュー

韓英恵   (かんはなえ)

「ここまで自分自身を投身したことはないと思います」。そう語るのは、『アジアの純真』で姉を殺された在日朝鮮人の少女を演じる韓英恵だ。わずか10歳でベネチア国際映画祭正式出品『ピストルオペラ』で映画デビューを果たした彼女は、数々の作品で観る者の心を鷲づかみにしてきた。そんな彼女ももう20歳。衝撃的な内容から賛否両論を生んだこの作品で、韓は女優として、ひとりの人間として成長を遂げたようだ。

撮影/柳沼涼子  文/池上愛

プロフィール 韓英恵(かんはなえ)


1990年11月7日生まれ。ベネチア国際映画祭正式出品の『ピストルオペラ』(01年)で女優デビュー。『誰も知らない』(04年)、『疾走』(05年)と話題作に出演。その他の代表作に『悪人』(10年)、『マイ・バック・ぺージ』(11年)など。現在放送中のドラマ『僕とスターの99日』(フジテレビ系)に出演中。
公式HP http://www.dogsugar.co.jp/hanae-kan.html

――映画出演が決まった時の印象から聞かせて下さい。

「片嶋一貴監督が、私の事務所の社長でもありまして。“こういう映画を作るから出てくれない?”という話を受けたのが始まりです。内容が内容なだけに、これは公開出来るんだろうか? って…それは心配でしたね」


――この映画は韓さん演じる在日朝鮮人と気弱な日本男子高校生が、無差別テロを繰り返すというセンセーショナルな内容で話題を呼んでいます。

「撮影も大変だったんですが、精神的な部分でも大変でした。私自身も韓国人と日本人のハーフで、人間関係に悩んでいた時期があって。自分も避けて来た部分があるんです。例えば…、母親が日本人なので、保護者の名前を書く時は母の名前を書くとか。仕事は韓英恵という名前ですが、実生活では日本の名前で暮らしています。なんていうんだろう……こう言ってはアレなんですが……。全然バレないんですよ、韓国人と日本人のハーフだということが。台本を読んだ時に、日本人高校生(笠井しげ)って私のことだなって思ったんです。“見て見ぬふり”しているのは私も同じ。少年のセリフに“そういう問題に関わらないように、生きていけないかなって考える”というものがあるんですが、まさしく自分と同じだなって。この映画は、今までの自分と向き合ういいきっかけになりました」


――この映画に出演することが、まさに運命というような感じでしょうか?

「運命というよりも……もうやるしかないなという感覚に近かったです。この役を演じることに精一杯だったし、自分も変わらなきゃ! 向き合わなきゃ! っていう気持ちだけで精一杯でした」


――撮影は今から2年半以上前のことだそうですね。

「まだ18歳のころですね。今観ると凄く初々しいんですよ。なんだか顔つきも違うし」


――だいぶ印象が違いますね。

「そうなんですよ。演技っていうよりも身なりだったりオーラだったり。先日試写で観た時も感じました」


――自分と向き合ういい機会だったとのことですが、ご自身で感じる変化はありましたか?

「人として成長出来たと思います。人間関係の付き合い方も変わった気がするし、何より丸くなった(笑)。ほんと昔はトゲトゲしてたんですよ! でも今はそんなこともなくなったし、生き方が変わった気がしています」


――撮影で大変だったシーンはありますか?

「イペリット弾(マスタードガス)を盗むシーンですね。地面に埋まってたイペリットが掘り起こされているという設定の穴が、撮影時にはなくなっていたというハプニングがありました」


――そうなんですか!?

「はい(笑)。もともと実際にある穴を使って撮影する予定だったんですが、いざ撮影のためにその場所に訪れたら、穴が埋まってたという(笑)。別日に撮影し直したんですが、撮影に使った穴は、スタッフがまた掘ったんでしょうかねぇ(笑)。その日の撮影も凄く寒い日でした。イペリットの瓶を持つだけでも、手がカッチカチに固まるから“早く早く!!”って(笑)」


――体力的にも大変だったんですね。

「1月~2月に撮影したんですが、スケジュールがとてもタイトで、スタッフ・キャスト全員が合宿所みたいなところに泊まっていました。なので自分だけの時間も作れなくて、台本を覚えるのも一苦労。こう見えて、結構気を使うタイプなんです(笑)。あとはお湯があまり出なかったのもつらかった!」


――冬なのに!?

「冬なのに! これはほんとに大変でした。ほぼ自主制作に近い形だったので予算も限られていましたし、1日1日が勝負という感じでた。だから、しげには本当に助けられて。今でも感謝しています」


――笠井さんはどんな方なんですか?

「やんちゃで面白くて、凄く明るい子。しげがいたから、この役もなんとか演じることが出来ました」


――年齢は韓さんのひとつ下なんですよね?

「そうです」


――若いうちから、こういう刺激的な映画に出会えるってどういう感覚ですか?

「面白いですよ。先程も言いましたが、自分自身も変わることが出来たのが凄く大きいです」


――海外でも舞台挨拶をされていますが、反応はいかがでしたか?

「ヨーロッパの方々にとって、アジアは遠い国の話でわからないっていう人が多いと思うんですが、“知れてよかった”とか“考えるいい機会になった”とおっしゃって下さいました。人種差別はアジアだけじゃなく世界各国にあることだし、逆にヨーロッパの方々のほうが、こういう問題になれているのかもしれないなと」


――確かに日本人は、タブーとされているものから避けようとしてしまいます。まさにこの映画の少年も、同じですね。

「そうなんですよ。向こうの人は平気でズバズバ言っちゃうんですよね。賛否両論ではあったんですが…、色んな意見が聞けてよかったなと思います」


――在日朝鮮人の少女と、気弱な日本男子高校生が、マスタードガスを盗んで無差別テロを起こす。確かにこれだけ聞くと非常に過激な内容なんですが、実際に本編を観ると、男女のロードムービーのような気持ちにもなりました。

「そうなんです。ふたりで自転車に乗るシーンとか、海を歩くシーンとか。青春を感じる場面もたくさんあったりして」


――カラオケでPUFFYの『アジアの純真』を大熱唱するシーンもありましたね。

「あのシーンは監督から“上手く歌おうとしないで”という指示がありました。“歌詞はもちろん歌ってほしいけど、とにかく音痴に”って(笑)。まさしくシャウトでした」


――映画タイトルも『アジアの純真』なんですが、何かリンクしているのでしょうか?

「どうなんでしょう…? もしかしたらあるのかもしれないけど、楽曲の『アジアの純真』は英語だと“True Asia”なんですが、映画は“Pure Asia”なんです。もしかしたらその違いに意味が隠されているのかもしれないですね。ピュアっていうのは、そのまま登場人物に当てはまるのかもしれない。子供のピュアさが、あのふたりにはあるような気がします」


――話は変わりますが、韓さんは静岡から東京に通われているんですよね?

「そうです」


――東京に出て来る気はないですか?

「う~ん……。今は静岡の大学に通っているんですが、卒業したらその時に考えようかと(笑)。実家が凄く楽なんですよね。新幹線に乗って東京まで通ってるんですが、駅に着いたらオンで、実家に帰ったらオフ。オフの時は家でゴロゴロするし、寝ながらポテチ食べたりするし。そういうのが私には凄く必要なんですよ」


――過去の韓さんのインタビューを拝見させて頂きましたが、「ハリウッド映画に出たいです!」とおっしゃっていました。憶えてらっしゃいますか?

「はい(笑)。15歳くらいの時ですよね? そうなんです、出たかったんです。海外の映画祭に行かせて頂いて、周りに英語が飛び交っていて。15歳の女の子には凄く刺激的だったんですよ(笑)。でもまだ道のりは遠いですね」


――将来のビジョンなどはありますか?

「自分の出演作を観た人達に“あの作品に出てたの?”ってよく言われるんですが、それが凄く嬉しくて。それって作品によって“韓英恵”が全然違うから、わからないってことでしょう? それが凄く嬉しい。作品によって色んな役を演じ分けたいですね。あとは、どんな役でもいいので、この人がいなかったら物語が成り立たないようなキーマンを演じてみたい。そのためにはもっともっと努力が必要ですね。私、役を演じる時って、だいたい素なんですよ。自分が今までに経験して来た気持ちや考えを、役柄にぶつけることが多いんです。台本を読んだ時に“この子の気持ちわかるな”って共感しながら演じます。今までの経験で役を演じている部分が多いですね」


――そうなると、ますますオフの時間が貴重なのでは?

「そうですね……そうだと思います。オフで感じたことがそのまま役に反映されることもあると思うし、オフこそ勉強の時間なのかもしれません。自分の気持ちを大切に、これからも色んな役を演じたいなと思っています」


『アジアの純真』

監督/片嶋一貴 脚本/井上淳一
出演/韓英恵 笠井しげ 黒田耕平 丸尾丸一郎 川田希 澤純子 白井良明 若松孝二

2002年秋。北朝鮮による拉致事件で反朝鮮感情が日本中に蔓延していたころ。ある日、在日朝鮮人の少女が、日本人のチンピラに暴行を受け殺されてしまう。偶然にもその現場を、気弱な日本人男子高校生が目撃していた。殺された少女の妹と少年は、旧日本軍の製造したマスタードガスを盗み出し、無差別テロを繰り返す……。

10月15日より 新宿K’s cinemaで上映中
11月5日より 名古屋シネマスコーレにてレイトショー
12月3日より 大坂第七藝術劇場、神戸元町映画館、京都みなみ会館にて公開
http://www.dogsugar.co.jp/pureasia
(C)2009 PURE ASIAN PROJECT

2024年04月
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