プラスアクト

インタビュー

稲葉友   (いなばゆう)

「ほんとは人見知りで、心を開くのは苦手」と、稲葉友はインタビューでぽつりと答えた。快晴の空の下、運動神経抜群の彼は「ここでこんなポーズしましょうか?」と言って、おどけてアクロバティックな動きをみせてくれたので、サービス精神旺盛な男の子だなぁと思っていたのだが……。インタビューは、先程までの撮影の雰囲気とは少し違った。少しトーンを落とした声で、答えを考えながら喋る大人しい青年。俳優を初めて1年半で、主役をつかんだ稲葉は、この舞台にどういう思いを抱いていたのだろうか。

撮影/吉田将史  文/池上愛

プロフィール 稲葉友(いなばゆう)


1993年1月12日生まれ、神奈川県出身。2009年、第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞し、芸能界デビュー。主な出演作に、ドラマ『クローンベイビー』、映画『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(吹き替え)、『行け!男子高校演劇部』などがある。

――『真田十勇士~ボクらが守りたかったもの~』の出演が決まった時の話を聞かせて下さい。

「こういう舞台があるよ、という話を聞いてオーディションを受けました。主役の猿飛佐助を演じることが決まったのは、8月の頭くらいだったんですけど、そこからしばらくは眠れなくて…。ほんとに僕で大丈夫なのかっていう不安やプレッシャーがあって、どん底まで落ちた時期がありました。1カ月くらいはそんな状態だったんですが、周りの先輩や年上の方からたくさんアドバイスを頂くようになって、今はいいメンタルで臨めています」


――落ち込んでいた時期はどう過ごしていたんですか?

「その時は台本も上がってないし、キャストも全員決まっていませんでした。セリフを覚えたり殺陣の稽古をしたり、やらなきゃいけないことがたくさんあるのはわかってるんだけど、何も始められないもどかしさみたいなものがありましたね。なので、まずは自分の演じる猿飛佐助について調べることから始めました。調べていくうちに、佐助は架空の人物説と実在したという、ふたつ説があることがわかって。実在しないという説があるんだったら、自分なりに演じることが出来るかなと思いました。物語の世界観から感じた、僕が思う猿飛佐助像をお客さんに伝えるのが大事だなって」


――台本を読んで、稲葉さんが演じる猿飛佐助は、どういう男だと思いますか?

「こういう人がかっこいいって言われるんだろうなっていう印象です。猿飛佐助は、武将・真田幸村に仕える男で、一番信頼されている家臣。腕は立つし明るいし、そのうえ無邪気な所もあって、凄く魅力的な人だなと。戦国時代は、国のため、主君のためなら命を捧げるのが当たり前の時代だから、佐助もそんな感覚なのかなと思っていたんですが、それが少し違ったんですよね。台本の中の佐助は、仲間の死を目の当たりにして、戦うことへの戸惑いや、死に対する恐怖みたいなものを抱いていた。心の弱さを見せているんですよ。僕思ったんですけど、その弱さを見せられるってことは、ある意味強い人間なんじゃないかと」


――自分の弱さを知るということは、そのぶん強さにもつながると。

「そうです。凄く憧れますよ。自分のことを自己分析してみても、僕は人に弱いところを見せることがなかなか出来ない人間だから。僕には心の扉が何重にもあって、一番外側の扉はいつもオープンなんです。だけど二番目、三番目の扉はなかなか開けない。ずっと肩肘張ってしまうタイプなんですよね」


――自己分析とおっしゃいましたが、それは佐助を演じるためにやったことですか?

「元から自己分析みたいなことはよくやります。自分は周りからこういう風に思われているだろうなとか、客観的に見たりもしますね。それに、この仕事を始めてから色んな刺激を受ける機会が多いので、より深く自分を理解出来るようになった気がします。色んな面から物事を考えなきゃいけない機会がたくさんあるから、分析力が伸びた気がする。あとは今みたいなインタビューを受けることも、自己分析に繋がります。僕は凄く言葉を探しながら、ひねり出して喋るほうなんですけど、そうすることで自分の考えもまとまっていくし、客観的に“こんなことを考えていたんだな”って思い返すことが出来る。自分の理解度がどんどん高まっていくんですよね」


――色んな経験をすることで、考え方も成長していくんですね。

「役者としては演技の幅が増えるっていうことなんでしょうけど、人としては人間の厚みが出ている気がしていますね」


――この舞台は時代物なので、殺陣も見せ場のひとつだと思いますが、稽古の様子を聞かせて下さい。

「殺陣は、基礎的なことを中心にやっています。身体の使い方、受け身のやり方、立ちまわりに足さばき。今ふたつの稽古場に通っているんですが、そのうちのひとつは道場です。まずは神前に礼をして黙想から始めます。あとは簡単な立ち回りや、流派によっての動き方の練習をやったりしています」


――殺陣の稽古の経験は?

「初めてですね」


――初めてのほうが、癖がなくていいのかもしれませんね。

「そうですね。でも昔から舞台で殺陣を披露されてる人を見ると、自分が稽古して初めてわかる難しさっていうものがあります。映画や舞台の乱闘シーンを見ても、上手い下手ってわかるんですよ。そういう観方を今までやってこなかったので、凄く面白いです。あとは、今稽古している殺陣って、戦うためじゃなく人に見せるための動きだから、当てちゃいけないんですね。当たらないための動き方が確立されているんです。だからといって最初から当てないようにするのも違うというか。きっちりやっていかないと、凄くダサく見えちゃうんですよ。上手い人は本当に凄くて、使ってないほうの手の位置も違和感なく決まってるんですよね。本当に奥が深いです。今こうやって稽古をさせてもらえることが、凄く素敵だなと思います」


――殺陣の練習では、何に一番苦戦していますか?

「残心(ざんしん)っていうんですけど、斬ったあとの姿勢というか、気を抜かないでいる型が凄く難しいです。斬る動作をしたあと、刀を止めずに流してしまうと凄くダサくなってしまうので、ピタッと止めなければいけない。斬ったあとの動きも気を抜けません。あとは刀の振り方。なるべく大きく、でも人に当たらないように……振り抜く時は刀をこう上げて…(実際に動きを見せてくれる)、そういうのが難しいですね。凄く注意を払うことが多いんですけど、身体で覚える感覚は楽しいですよ」


――運動は好きですか?

「はい。野球、バスケ、ハンドボールをやっていて、もともと身体を動かすのは大好きです。そうだ。道場とは別の稽古場ではマット運動もやってます。道場は、大河ドラマでも使える所作を習うところで、綺麗に凛々しいかっこよさを身につける感じなんですが、マット運動をやってる稽古場は、学校の体育館を借りてやっていて、大きく動きを見せる舞台用の殺陣を習っています。マット運動では前転もやるんですが、スピードがハンパないんですよ(笑)! 一気にくるくるくるーって回るんです。初めて見た時は本当にびっくりしました。“俺の知ってる前転じゃねぇ!”って(笑)。でも身体の使い方を覚えると、確かに高スピードで回れるんですよね。すっごい目は回りますけど(笑)。ほかにも逆立ち1分間とか……いやぁ、しんどいです(笑)。道場は修業っぽいんですけど、こっちは部活。道場では素足に道着ですが、体育館ではシューズにジャージなんです」


――ふたつの稽古場で習ったものを取得できれば、完璧じゃないですか。

「そうなんですよ。“これ身につけちゃったら、俺、凄くない?”と思っていて、凄い楽しみなんです」


――大河ドラマ狙えちゃいますね!

「いや~見据えちゃおうかな(笑)。実際に、道場で殺陣指導をして下さる方は、ずっと大河ドラマの殺陣指導をされている方なんですが、本当に強いですよ。“ちょっと腕つかんでみて”と言われてつかんでみたら、その腕がめちゃめちゃ太くって。それに全力でつかんでもすぐにほどかれてしまう。この先生には敵わないなって思いました。ほんと……強すぎます!」


――殺陣の稽古では、共演者の方々とは一緒なんですか?

「由利鎌之助役の小池亮介君とは一緒に稽古したんですが、ほかの方は全くですね。忍成修吾さんとはポスター撮影の時にお会いしましたが、それ以外は全然……」


――これから顔合わせ、本読みが始まりますが(この取材は10月末に行なわれた)、期待と緊張のどちらが強いですか?

「どちらもです。やっぱりいいもの作るためには仲良くしたいじゃないですか。……っていうか僕は仲良くしてほしいです! 変な話ですけど、仲良くなれるかが心配ですね(苦笑)。心配するところがそれかよって思われるかもしれないんですけど、やっぱり仲良くしたいですよ。素晴らしい役者さんばかりなので、仲良くなって色んなことを吸収したいという気持ちが強いです」


――主演ということは意識されますか?

「その言葉に押しつぶされそうでした(笑)。もう気にしていないといえばうそになるけど、今は座長だからといって、みんなを引っ張らなきゃっていう感覚はないです。僕は舞台が初めてですし、実力がないことは自分でもわかってる。だからこの舞台に対する意気込みや姿勢で、みんなに認めてもらえたらいいなとは思っています。上に立つのではなく、前に立ちたい。そして横にはみなさんに立って頂いて。そういう気持ちでいれば、凄くいいものが出来上がるんじゃないかなと、今では思うようになりました」


――稲葉さんにとって、舞台はどういうイメージですか?

「ライブ感がハンパない。お客さんの反応がその場でわかるっていうのが、怖くもあるし面白い部分だと思います。800人の前で演技をやるなんて、これほど興奮することはないですよ。最高です」


――やる気に満ち溢れてますね。

「といいつつ、最初は主演の言葉に押しつぶされてたし、めちゃめちゃびびってましたけど(笑)。でも僕は、もともと人前に立つのが好きで、それが今の仕事に繋がっている訳で……。ビビるなんて俺らしくない! って気づいてからは、凄く楽しみです。800人ものお客さんの前に立つって、なかなか出来ないこと。舞台ならではのハプニングも楽しめるくらいの気持ちで臨みたいですね」


――布袋寅泰さんの音楽も楽しみです。『命は燃やしつくすためのもの』が劇中で使用されるんですよね?

「はい。この曲が、物語のメインテーマになっています。『真田十勇士~』は、この楽曲からインスパイヤーされた作品なんですよ」


――舞台初日に向けて、どんなことを期待していますか?

「終わった時に、死ぬほど達成感があればいいなと思います。そのために何が出来るか、それは必至で考えなければいけないですけど。なるべく僕は楽じゃない道を選んでいきたいなって。例えばこれをやるんだったら寝れないんだけど、明日のためになるんだっていうことがあるのなら、寝ずに何かをやるほうを選びます。こんなメンバーに囲まれて、ほんとすみません……って感じなんですが、舞台に臨む姿勢だけは負けないつもりで頑張っていきたいです」


――観るお客さんには、どんなことを感じてほしいですか?

「台本を読んで僕が感じたのは、そりゃあ誰だって死ぬのは怖いよなって思ったんですよねぇ。いくら戦国時代とはいえ、やっぱ昔の人でも死に対しての恐怖はあったと思うんです。じゃあ、死を覚悟しても戦う理由ってなんだろう? 誰かを守るために戦うのか? 大事な存在ってなんだろうとか……人が生きていくための大切な“何か”が、この舞台にはたくさんちりばめられています。その中のひとつでもいいから、感じてもらえるものがあれば嬉しいですね」


『舞台 真田十勇士 〜ボクらが守りたかったもの〜』

脚本/小野真一  演出/岡本貴也  殺陣指導/TeamAZURA
出演/稲葉友 秋山真太郎(劇団EXILE) 伊阪達也  小澤雄太(劇団EXILE)吉田友一 森大(少年社中)鬼束道歩 吉岡佑 小池亮介 斉藤祥太 斉藤慶太 忍成 修吾 新垣里沙(モーニング娘。) ほか
11/12/2(金)~11/12/11(日)  天王洲銀河劇場 (東京都)にて公演中
http://knocturn.com/sanadajuyushi/

上田合戦、関ヶ原の戦い、大阪夏の陣、冬の陣と、徳川家康に幾度となく立ち向かった真田幸村。彼は義理人情に厚い男。幸村の周りには、彼を愛する者達がたくさん集っていた。難攻不落と言われた大阪城が徳川の手によって落とされた1615年。この物語は、そこから3年前にさかのぼり、真田幸村が集めた十勇士が落城まで命をかけて戦う、戦国の友情物語である。

2024年04月
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