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インタビュー

窪田正孝   (くぼたまさたか)

2006年にドラマ『チェケラッチョ!! In TOKYO』に初出演・初主演して以来、数々の作品に出演して来た窪田正孝。作品を重ねたことにより以前より気持ちにも余裕が出来、作品ごとに手ごたえを感じているのだろうと想像していたが、意外にも「探究心が以前より強くなり、より危機感を感じているんです」と言う。そんな彼が理容・美容専門学校を舞台にした『は☆さ☆み hasami』に出演。心に闇を抱える学生・葉山洋平役を演じた。

撮影/吉田将史 スタイリスト/大石裕介(DerGLANZ) 文/今津三奈

プロフィール 窪田正孝(くぼたまさたか)


1988年8月6日生まれ。神奈川県出身。オーディションをきっかけに現在の事務所に所属。『チェケラッチョ!! In TOKYO』『ケータイ捜査官7』『浪花の華 ~緒方洪庵事件帳~』と3本のTVドラマで主演を務める。映画は『僕の初恋をキミに捧ぐ』『十三人の刺客』『ガチバン』シリーズなどを好演。11年、ドラマは『下流の宴』『QP』、映画は『僕たちは世界を変えることができない。But,we wanna build a school in Cambodia.』に出演。公開待機作に『ふがいない僕は空を見た』『飛べ!ダコタ』がある。
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――随分と慣れた手つきではさみを持って演じられていましたが、どのくらい練習をしたのですか?

「撮影の1カ月前くらい前から8回程、はさみの持ち方からコームの使い方まで習いました。共演した徳永えりさん(木村弥生役)は、どちらかというと髪を切るほうを習い、僕は髪をブラッシングしたり、カットしたあとのブローや、髪をゆわいてアイロンでウエーブしたりと仕上を中心にやりました」


――たった8回の練習であそこまで出来ちゃうんですね。

「自分に課題を与えて、ひとりになる時間も作ってもらって。家にウィッグなど道具を持ち帰らせてもらい、ウエーブなど繰り返し練習しました。今回、実際に専門学校の生徒さんが出演されてるんですが、よく見ると指さばきが全然違うんですよ」


――練習は楽しかったですか?

「楽しいんですけど、その半面難しかったですね。髪の毛を正確な位置から取り、同時に肘や腰の高さもあちこち意識しなければならなくて。細かいところまで教えて頂いたんですけど、結構大変でした」


――そういった新しい技術を取得するのは得意ですか?

「それも役者の仕事の楽しみですし、新しいことが出来る、新しいものに触れられるのは役者の醍醐味ですよね。キャストの方との出会いはもちろん、新しいスタッフさんとの出会いも面白いと常々感じています。なんでもやってみたほうがいいなと思っているので、今、絶対に“ノー”とは言いません。」


――この企画を聞いた時の印象を教えて下さい。

「僕は高校までで大学に行っていないので、その頃、クラスという単位での行動や、同い年の人と一緒にいるところから結構離れていたんです。なので、男女がわけ隔てなくいる環境が久々でした。実際に学校を見学させて頂いた時、みんなで和気あいあいとしている人もいれば、ひとりで黙々とやっている人もいたので、この中に入っていくことから課題だなと思って。先生や生徒の方と気軽にお話する機会もあったので、まずはそういうところに入って行って、コミュニケーションを取りたいと思ったんです。『この学校の面白いところはなんですか?』と質問したら、『友達といるのが面白い』なんて返事が返ってきたりして。専門学校ですから、みんな国家試験に受かることを目指しそれぞれの道に進んでいく訳ですが、映画でもそういった部分が描かれているので、自然に入っていけたらなという気持ちでした」


――ではどんな風に作品を作っていったのでしょうか?

「今回の作品は群像劇なんですが、リハーサルを細かくやって頂きました。監督とふたりきりでやらせてもらったこともあって」


――ふたりきりでやろうというのは、監督から声がかかったんですか?

「そうですね。まずは本読みからやりました。僕の演じた葉山洋平は、情緒不安定のところがあるんです。苦しみをずっと抱えていて、その原因がどこにあるのか自分でわかっているんだけど、そこに立ち向かえないんです。最初は作品に入るという意味で、クラスの中でもひとりでいることの多い洋平になるというスタンスで現場にいました。そうするうちに、洋平の抱えているものが自然に手先や行動とかに出るようになって…」


――その行動や手の動きは窪田君自身から出てきたお芝居ですか?

「基本的に監督からの指示です。監督の指示に乗っていこう、乗っていかなきゃなと思ってたし、それに危機感も凄く感じてました」


――危機感とは?

「技術の面はもろちんですが、ひとりの生徒として、そして生い立ちも含めてどうしたら上手く表現出来るのか監督とずっと話していて。そういう部分に凄く危機感がありました」


――洋平は生い立ちや親子関係で悩んでましたね。すんなり理解出来ましたか?

「実は洋平を自分の中に取り込むことが、芝居をしていて凄く苦しかったんです。洋平は10歳の時にお母さんが理由もなくいなくなったんですが、家族って無償なものですし、そこが上手くいかないと、中学・高校でひきこもっちゃうのかなと。自分にそういう経験がなかったので、その気持ちを共感出来るようにしていきました。だから、人がとても好きなのに上手く接することが出来ないし、みんなと楽しく過ごすことが出来ないんです。そういうところを最初のシーンから結構印象強く演じて、“洋平ってなんなんだろう”という内面の闘いを見せられるよう、表だって何かをやるというよりは、苦しさの中から、ぽっと出てくるという印象で。だから結構苦しかったんです」


――撮影は物語の通りに進む訳ではなく、冒頭のシーンの次に中盤のシーンを撮ったりしたと思います。心の開き具合や感情の度合いをどこまでみせたらいいのか、難しいお芝居ですね。

「そうですね。でもその撮影に入る前の本読み、リハもしていたから、そこの部分はそれほど苦ではなかったんです。人と接することによって少しずつ気持ちが変わっていって、最後にちょっと悲劇もありますけど、そうなったとしても、その先に小さな光みたいなものがそれぞれの登場人物にあるんですよね。今回、一番の題材でもあるんですが、先生の言葉で『とにかくはさみ(手)を動かし続けろ』というのがありました。これがこの作品の全てなのかなと。目標を持ってやり続けるという言葉が一番僕は強く残っていています」


――感情の起伏が凄くあるシーンでも、あまり表現しない抑えたお芝居だと感じました。本当の感情の温度と表現の温度に差がありましたが、お芝居は窪田君に任されていたんですか?

「現場の時、基本的に監督は何も仰らなかったです。演じる声が小さかったので、マイクを上げて拾って頂いていたんですけど、感情を出し過ぎちゃいけないのと、ギャップを凄く出して行かなきゃなと思ってました。悩みに抱えているものと実際にやっていることの矛盾があると、心の中で襲いかかってくる怪物みたいなものがいるんです。洋平のとっての怪物は、新しい母親が産んだ赤ちゃん。その赤ちゃんである弟を抱いたことによって、“そこまで人は変われるのかな?”というのもあるし、“変わっていいのかな?”というのもあったので、1回演じてみて、監督に見てもらってから指示をもらうという形でした」


――美容院の先輩に手のクリームを渡されたシーンも凄く印象的でしたが、あのやりとりの加減も窪田君がまずやってみたことなんですね。

「そうですね(照笑)」


――先輩から怒られたあとに手荒れ防止のクリームをもらって。いきなり『ありがとうございました!』と言うのではなく、その優しさにちょっと戸惑って…。あの加減が凄くよかったんです。あの一連のやり取りで洋平という人間がわかりました。

「そのシーンだと、そのあとひとりで去っていくんですけど、美容院の横のパン屋さんで働いているふたりの女性がベランダでお話をしていて、洋平のほうから『お疲れ様です』と挨拶をするんです。最初の芝居の時は素通りしていたんですけど、監督から『そこは「お疲れ様です」って言って』って言われたんです。それでなるほどと思って。あの場面で洋平は心を開いていたんだなと。そういう加減は監督からアドバイスを頂きました。そういうことを組み立てて芝居を作っていったという感覚でした。洋平だけの話をすると、ひとつの映画の中では変わっていったかもしれないですが、その変わったものって実際に生きている人はわからないと思うんです。その人を見た時、1年前に見た時と喋り方も声のトーンも全然変わってないと思うかもしれないけど、でも会わない間にバイトをしたり、新しい人と出会ったりして変わっている事実があるかもしれない。だから、表現が下手なところは最初から最後まで貫き通しながら、その中のギリギリのところで、両親と話せるようになったり、一言『ありがとう』と言える心の余裕、心のスペースが生まれたこととか、そういうことを大事にしながらやらせてもらいました。そういう加減が一番難しかったですね」


――そういうことは、台本を読んでいる時から考えているんですか? 現場で積み重なっていくんですか?

「台本の時から考えます。基本的に、誰といても変わらないのが洋平なんです。サロンの先輩といても、お客さんと接しても、つい仕事という感覚を忘れて自分が出てしまうし、そんな風にしかいられないというところが凄くあったので、心の小さなスペースを広げていけるようにしてました。でも今回の作品は群像劇だから、観る人それぞれの観方がありますし、先生(池脇千鶴)、弥生など視点がたくさんあるんです。撮影は2年前だったんですが、僕も2年前と今では観方が変わって、色んな立場で客観的に観れました。だからどの人を主人公にして、どこにスポットライトを当てて観るのか。そういう楽しみ方もあるんだなと思いました。それによって希望の光の色とか、色々と変わって見えてくるんじゃないかな」


――2006年からお芝居の仕事を初め、最近益々注目が集まっていますね。今年は話題作が続きましたが、自分で手ごたえを感じていますか?

「新しい作品をやらせて頂く度に新しい監督と出会い、作品を超える度に経験したこと、気づいたことを応用していきたいと思っているんですが、自分の経験が浅くて全然通用しない時もあったりして、探究心、そして危機感などが生まれてきました。前はひとつ作品が終わると、“ヨッシャ!”と思っていたんですけど、最近は“大丈夫かな……”と思うことが多くて。でもそれが逆に楽しかったりするんです。毎回、とにかく全力で作品と向き合うことです。何を求められているのか、何に答えなきゃいけないのか、そういうところをもっと追究していきたいなと思います」


――お芝居の表現以外にブログも書かれていますね。タイトルは『改造劇feat U』。なぜ“改造劇”なのでしょうか?

「ブログは和真(佐野和真)と一緒に始めて、最初は『改造計画』というタイトルでスタートしました。その名の通り、改造していく様を見せて行こうと。今は佑季(松岡佑季)が増えて3人なんですけど、その時に改造していく様を“劇”のように見せるブログにしたいと思って『改造劇 feat U』と名づけました。なんて言っておきながら、深い意味はないんですけどね(笑)。Uというのは、観てくれるあなたという意味や、一緒にやっていこうよという意味もあります。敢えて説明するならそんな感じです」


――文字での表現は楽しいですか?

「そうですね。僕は文字にする機会がないので、そういう意味で貴重なのかなと思います。今は気軽なマイホームみたいな感じで、ひとりでも多くの人に僕を知ってもらって、作品を観て頂きたいです」


――人は好きですか?

「苦手なところはありました」


――昔の記事を見たら凄く人見知りだと書いてありました。

「役者の仕事は対人ですし、どんな仕事でも同じだと思いますけど、頑張って克服しなきゃいけないなと思ったんです。以前オフの時はひとりになってたので、今はそれを壊すようにしていて。人と会ったり、車に乗ってどこかに行ったりするように心がけています」


――お芝居の影響でそうなれたんですか?

「見られる仕事ですし、気づけば23歳になって……。もっと年相応の威厳がほしいし、色んなものを見て学んで吸収して行かなきゃいけないと思ったんです。何事にも“ノー”と言わずに、もっともっと学びたい気持ちが強くなり、映画もよく観るようになりました」


――“やっぱりこの役者さん凄いな”という観方になったりしますか?

「凄く思います。そして小さな世界にいたんだなと。視野を広げて意識して観ると気づくことがたくさんあって。映像の中だけでなく、普段の生活や、今、この場でも。同い年の友達でも、“こいつすげーな”と思うこともあるし。見習いたいし、負けられないですね」


衣裳協力:コート¥51,450(undecorated MAN/undecorated MAN) ニット、シャツ、パンツ、スカーフ(黒・生成り)全て参考商品(以上suzuki takayuki/suzuki takayuki) シューズ¥65,100(Paraboot/Paraboot青山店)

作品紹介

『は☆さ☆み hasami』
監督・脚本/光石富士朗
出演/池脇千鶴 徳永えり 窪田正孝 なんしぃ(大好物) 綾野剛 拳也 石丸謙二郎 烏丸せつこ 竹下景子
配給・宣伝/アークポート
上映時間/112分

東京・中野にある理容美容専門学校。この学校の教師である永井久沙江(池脇千鶴)は、どんな生徒にも誠心誠意向き合い、熱心に指導をしている。ハサミが上手く使えずカットが苦手な木村弥生(徳永えり)は、この仕事に向いていないから辞めようかと考えるが、才能があっても報われていない彼(綾野剛)を見てより深く悩むようになる。また、高校時代にひきこもりをしていた葉山洋平(窪田正孝)は、落ち着きがなく情緒不安定。心に複雑な思いをいくつも抱え、ついには授業に姿を見せなくなってしまう。様々な悩みを抱える学生達に明るい未来は待っているのだろうか…。
1月14日(土)新宿K ` s cinemaにて公開
公式HP: http://www.artport.co.jp/movie/hasami/

(C)2010「は☆さ☆み hasami」製作委員会

2021年01月
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