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インタビュー

市井紗耶香   (いちいさやか)

今年は日本と中国の国交が回復して40年。これから各所で様々なイベントが予定されているが、その先陣を切って日中の友好を描いた映画『明日に架ける愛』が公開される。主演は市井紗耶香とアレックス・ルーのW主演。幼いころに出会ったふたりが時を超えて再会。このことをきっかけに、世代を越えた奇跡の事実を知ることとなる。市井は自身のプライベートとも重なる、働くシングルマザーを好演。新たしい自分と出会うことが出来、表現の可能性に手ごたえを感じたようだ。

撮影/柳沼涼子  文/今津三奈

プロフィール 市井紗耶香(いちいさやか)


1983年生まれ千葉県出身。現在二児のママとして育児をする傍ら、女優業としても活躍中。2012年3月31日公開 日中友好40周年作品 第24回東京国際映画祭特別上映作品『明日に架ける愛』では主演を務める。また、鹿児島べにふうき大使としても任命され、べにふうき緑茶使用無添加洗顔石鹸「茶や香 ~Sayaka~」もプロデュースをしている。http://sayaka-sekken.com/
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――今日は『明日に架ける愛』の初取材だそうですね。昨年4月~5月にかけて撮影されたそうですが、鮮明に覚えているものですか?

「もう約1年経つんだなという感じです。震災後間もない頃で、キャストの方やスタッフの方との縁がなければ出来なかったと感じてました。結構鮮明に覚えています」


――この作品はいつ頃から企画がスタートしていたのでしょうか。

「2年くらい前です。日本と中国の友好40周年という大切な節目の年に、日本と中国が繋がれる映画が作れたらいいねというのがスタートで。でも、まさか自分が主演という形で携われるとは思ってませんでしたけど」


――今までも映画、舞台と演技の経験ありますが、今回の作品は大きな作品でしたね。

「そうですね。とても大きかったです。これまでの舞台や、ショートムービーとは別の感覚でした。舞台は生なので気迫がありますし、舞台独自のよさがあって面白いんですが、今回の映画では、自分の知らないところで自分自身を動かしてくれてる人がたくさんいるんだというのを感じることが出来ました。スタッフの方達も数々の有名な作品に携わった方達がたくさんいらっしゃって、そういった部分ではプレッシャーも大きかった。主演をやらせて頂けるのはとてもありがたいことですし、物凄いステップを踏めるチャンスでしたが、自分自身がどこまで演技出来るのかは未知の世界で。八千草(薫)さん、(山本)未來さん、髙嶋(政宏)さんなどに支えて頂かなかったら、ここまで新しい自分を引き出せなかったと思います」


――頂いたアドバイスで印象に残っていることはありますか?

「撮影前、約1カ月間、香月(秀之)監督のワークショップの中でユウアン役のアレックス(・ルー)と一緒に、色々とシミュレーションをして本番に挑めたので、それは物凄く大きなことでした。あとは、キャストのみなさんが“リラックスしてやりなさいね”という雰囲気を作って下さって。私が固くなってしまったら出来なくなるんじゃないか気遣って下さったような気がします。八千草さんは青森で一緒にクランクイン記者会見をしたのですが、その時に『そこまで緊張しなくていいのよ』と手を触って仰って下さったんです。それで物凄く肩の荷が下りました。もちろんいい意味での緊張は増えましたけど、八千草さんとのお芝居はもしかしたらもっと甘えてもいいのかなと思ったんです。色々なお話もして下さいましたし、そこで学べた部分もありました。女優としての生き方や自分の見せ方は、こういう風にして行くべきなんだなと教えて頂いて。少しずつ吸収して自分のものにしていけば、自分が磨かれるんじゃないかなと」


――監督からは何かありましたか?

「本当に毎日一緒にいて、それこそ三食ともにしていましたが、監督自身はあんまり言わないんです。『演じるのは演じる側。俺は撮る側、作る側だから』って。でもそれは愛情に溢れていて、今回の映画にかける想いや愛情、監督のプライベートな話も色々と聞いて熱いものを感じていました。その熱いものを受け取ったぶん、私が表現しなければいけない。どう演じたらいいのかという部分では、あなた自身が一番わかっているだろうから、あとは任せたよと言われているような気がしました」


――お互い呼吸が合ったんですね

「張り合うことはなかったですし、本当にやりやすい環境を作って下さいました」


――台本を読んで、悠子はどんな人だと思いましたか?

「やっぱりリアルに自分自身と重なる部分が大きかったです。監督が脚本も書かれているんですけど、監督にもお子さんがいらっしゃって、子供が物凄く大切だと仰っていてそれが物凄く伝わりました。監督がご自身と照らし合わせていたのかもしれませんが、それがいい意味で私に重なりました。撮影は約1カ月半くらいかかったんですが、北京に行って、青森に行って、東京でも撮影があって…その間、私は子供にほとんど会えなかったんです。悠子も育児と仕事に追われ、確立した自分のポジションを維持しながら、新しいチャンスを掴もうとしている。子供は大事だけど、自分や大切なものをちょっと見失いかけている役どころが自分に重なりました。撮影の合間に少し帰ることが出来て子どもと触れ合うこともあったんですが、自分の中から役が抜け切れていない時はつらかったです。自分の子供話しながら、“もしかしたら今は悠子なのかもしれない…”なんて」


――仕事と子育てを両立していても、子育ては自分自身の問題だから、どうしても少しおろそかになるのが現実なのかもしれませんね。

「世の中のワーキングマザーの方達は器用にこなされていらっしゃいますが、色んなところでさじ加減をしていると思うんです。上手くいく流れの時もあれば、上手くいかない流れの時もあるしまちまちです。私も仕事が重なって連日遅くなったり、地方で泊まりの仕事があると子供に申し訳ないなと正直思いましたが、子供は子供で見返りを求めず我慢して待っていてくれてます。無償の愛なんです。もちろん私自身も子供に見返りを求めないし、究極の愛だなと思いました。私が仕事の間は親が子供を見てくれてますが、いつも頑張れと背中を押してくれていて。八千草さん演じる祖母の茂子とかぶる部分もありました」


――今日はどんな感じで家を出てきたんですか?

「ご飯を作って、普通に『行ってくるね!』とハイタッチしました。そして、私の場合決まった時間に帰れるような仕事ではないので、『離れていても、気持ちはここにあるからね』ということを言い聞かせてきました。これは仕事を再開した時からしてきたことです。常に“ああしておけばよかった” と後悔しない生き方をしたいと思っているので、時間がある時は子供と交換日記を書いたりもしてます。こういうことって、時間の長さではなく愛情を注ぐ方法はあるなと。そして子供にはちゃんと伝わる思っているので、『好きだよ』と抱きしめたり、触れ合うようにしています」


――作品全体をご覧になってどんな感想を持ちましたか?

「日本と中国にはこういう歴史があったんだという部分はすんなり観られる映画になったと思います。そして血が繋がっていなくても血を超える何かがあることも思い知らされました。繋がりは国境も年齢も関係ないと思いましたし、自分の大切な人を思い出しましたね。だから、これから見て下さる方には、『観終わったあと、誰を思い出しましたか?』と聞いてみたいです」


――作品のように、遠い昔に出会っていた人とこれから何かあるかもしれませんし、これから出会う人と運命の出会いがあるかもしれないですね。

「そうなんです。そういうことって、全部自分が引き寄せるものだと思うんです。去年は自分のプライベートで色々な引き寄せが奇跡的にありました。この人に会ってみたいとか、この人の作品に出たいと漠然と思っていた方と、一週間後に会えちゃったりとか、そういうことがたくさんあった年で。これってこのタイミングなんだ、この波、リズムで来るんだって。だから、絶対、願い続ければ自分から引き寄せるんだと思います。去年それを実感したので、今年は大切に育てて繋いで行きたいと思います」


――これまでの活動はシンガーソングライターなど音楽の印象が強いのですが、女優を本格的にやりたいといつ頃から思っていたんですか?

「以前、『ピンチランナー』という映画に出させて頂いた時、出演されていた松坂慶子さんや斉藤洋介さんに、『女優もやってみたほうがいいんじゃない?』と言われていたんです。亡くなってしまった那須(博之)監督も『一番女優っぽいね』と漠然と仰っていて、それがどう言った意味だったか、当時16歳の私には全くわからなかったんですけど、映画を作る現場でのやり取りや現場の雰囲気が凄く楽しかったんです。そんなことで、10代の頃から演技をやりたいと思っていたのですが、色んな方達に背中を押して頂いて実現しました」


――プロの方達にそんなことを言われたら、自信持てますね。

「結婚して出産してブランクはありましたけど、自分が何を出来るのかと考えた時に演技はまだ極めていないなと。30歳になる前までに何かひとつの作品に携われたら素敵なことだし、また一日一日が丁寧に生きられるんじゃないかって」


――この作品はいいタイミングでしたね。

「自分の代表する作品になっていると思います。きっとこれからもそうあると思うんです。ここまで大きな作品に巡り合えることってそうそうないと思いますし。周りで支えて下さる人、市井という人間を考えてくれている人がどれだけいるんだろうと思うだけで、物凄く興奮します。だからその人達に何を恩返しがしたい。そのためにはいい演技をして、お客さんが映画を観て、“いい作品だった”と思ってもらえたらといいなと」


――作品ではお芝居だけではなく、挿入歌も歌ってましたね。

「えっ、凄い! 気付きました!? あのシーンって、流れていってしまうシーンだから、大概『えっ、歌ってた? どこで?』って言われることが多かったんです。気付いて頂いてありがとうございます! あの時点ではワンコーラスだけだったので、これからフルでレコーディングするんですよ」


――やっぱり歌のほうはすんなりいけましたか?

「そう、3回くらい歌って終わっちゃったんです」


――凄い!

「気合いを入れて、5~6時間くらいかかるつもりで行ったのに…。もうちょっとじっくりやりたかった~って感じでした(笑)」


――ではこれからは女優も歌も。

「どちらも大切ですし、やりたいことなんです。そしてやらせて頂ける環境があるということは、とてもありがたいことだと思いますし、それを一つひとつ丁寧にやっていくことが大事だと思っています」


――詩は今でも書いているんですか?

「書いてます。表現する立場からなのか、14歳の時にこの世界へ踏み込み、その性質なのかわからないんですが、ポジティブな時でも、ふとネガティブなことも考えるんです。本当の気持ちと正反対だったりするんですが、それが詩に出てきたり、自分の心境はこういう状況ではないのに、なぜこんなことを書きたいんだろうというのが結構あるので、それをいつか曲に出せたらいいなと」


――ではこれから色んな表現が見られそうですね。

「はい、見せて行きたいです。背中を押して下さる方がたくさんいらっしゃるし。今までは子育も仕事も、全て背負い過ぎていて余裕がなかったんですが、そこまで気負わなくていい、気を使わなくていいと言ってくれる人が周りにいて気が楽になりました。自分自身がどこまで出来るのか、自分の想いだけじゃ出来ない部分もありますが、ビジョンは見えてきたなと。その自分自身のビジョンがブレなければ、多分可能性はもっと大きくなると思っています。


――いい表現者になれそうですね。

「これからのことをよく聞かれますが、もっと演技で色んな作品に携わりたいですし、歌もやりたい。何かひとつのジャンルに決めてしまうと、結局自分を苦しめることになりそうなんです。ひとつのことを思いっきりやるより、自分のやりたいことを丁寧に出来ればいい。その環境を与えて下さる時間と人達がいることを考えると、やっぱりもっと貪欲でもいいのかな」


――この表現の時は歌、こっちの表現の時は芝居みたいな感じでしょうか。

「難しいとは思いますが、先程も言ったように一日をどれだけ充実して丁寧に生きられるか、表現出来るかということを楽しんでやっていければ、ついて来てくれる人は、ついて来てくれるはず。それを信じて頑張って行きます」


日中友好40周年記念作品『明日に架ける愛』

監督・脚本/香月秀之
出演/市井紗耶香 アレックス・ルー 大森絢音 林遼威 高田宏太郎 加藤夏希(友情出演) 大杉漣 馬蘇 山本未來 髙嶋政宏 八千草薫
配給/ティ・ジョイ

青森県で生まれた悠子(市井紗耶香)は9歳の時に両親を交通事故で亡くし、中国残留日本人孤児だった祖母・茂子(八千草薫)に育てられた。それから17年。シングルマザーとなった悠子はひとり娘を育てながらウェディングドレスのデザイナーとして働いていた。ある時、北京で行なわれるファッションイベントTGCで有名モデルに着させるためのドレスデザインを頼まれ、子育てを祖母に任せたまま仕事に熱中する。その仕事を通して知り合った中国人男性・ユウアン(アレックス・ルー)と意気投合。思いもよらぬ奇跡の繋がりが明らかになる…。

3月31日(土)新宿バルト9 ほか全国ロードショー
http://www.asukake.com/ (C)「明日に架ける愛」製作委員会

2024年04月
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