公開を間近に控える映画『グッモーエビアン!』は、未婚の母・アキ(麻生久美子)と中学生の娘・ハツキ(三吉彩花)、アキの所属していたパンクバンドのメンバー・ヤグ(大泉洋)が織りなす、不思議な家族の在り方を描く物語。しっかり者のハツキは、性格が真逆のアキと自由奔放なヤグに振り回され、時に反発しながらも成長していく。ハツキを演じるのは、現在ドラマ『結婚しない』に出演中の若手女優・三吉彩花だ。「ハツキと同じように、このころの自分も親に反抗していた」と語る彼女。等身大の女の子をいかに演じ抜いたのか?
撮影/中根佑子 文/池上愛
――東京国際映画祭では、『グッモーエビアン!』の出演者として、グリーンカーペットを歩かれましたね。
「はい。初めての体験だったので、何をやってきたのか正直覚えていません(笑)。何より、たくさんの方がいらっしゃっていてびっくりしました。私はまだみなさんに顔を覚えられていないので、誰からも声はかけられないだろうと思っていたんですけど、色んな人から“握手してください!”と話しかけられて、凄く嬉しかったです」
――ファンの方と何かお話はされたんですか?
「映画のエキストラに出演して下さった方がいて、“あのシーンのエキストラにいました!”“あぁ、あの時の!”みたいなお話をしました」
――それは嬉しいですね。
「凄く嬉しかったです。有名な俳優さんがたくさんいらっしゃる中、私なんかが歩いていいのかなと、少し不安に思っていました。だけどエキストラの方だったり、私が以前所属していたユニット『さくら学院』時代からのファンの方が、随分前に出演した作品のパンフレットを持参して“サイン下さい”と言ってくださったりして…。本当に嬉しかったですね」
――サインはしました?
「しました! 自分の顔が凄く若かったです(笑)」
――(笑)。『グッモーエビアン!』で演じられているハツキは、中学3年生の女の子。現在高校1年生の三吉さんですが、撮影時はハツキと同じ年齢だったんですよね?
「そうです。私もハツキと同様、中3で反抗期真っ只中だったので、役作りをするというよりも、素で演じよう! と思いました。ハツキとリンクする部分も結構あったりして」
――どういった部分がリンクしていましたか?
「ハツキがヤグ(大泉洋)とアキ(麻生久美子)に言うセリフや行動は、“あ~このセリフ、私も親に言ってたな”とか“こういう態度取ってるな”って共感する部分が多かったです」
――役作りというよりも、自分の感情がそのままハツキに繋がったんですね。それでは、ハツキを演じることはスムーズに出来た?
「そうですね。難しいと思うところは少なかったです。それに本当に現場のみなさんが優しくて。大泉さん、麻生さんはじめ、スタッフの皆さんがお芝居しやすい環境を作って下さったことで、気負いせず臨むことが出来ました」
――大泉さん、麻生さんはどんな方ですか?
「麻生さんは、ご一緒させてい頂く前から凄く雰囲気が素敵な方だなと思っていました。自然で着飾っていなくて優しそうで…実際にお会いしても、印象はそのまま。大泉さんは、とにかく面白い方でした(笑)。ハツキはあまり笑わない、ひとりだけ真面目な役だったので、笑いを抑えるのが大変でした」
――大泉さんが笑わせようとするんですか?
「そうなんですよ! アドリブも凄く多かったんです。現場の雰囲気を盛り上げて下さるので楽しかったんですが、笑っちゃいけないのに笑いそうになってしまい、とても大変でした」
――大泉さんのアドリブを受けるのって、大変そうですね(笑)。
「台本に書かれていないことをお互いたくさん話したので、これで私もアドリブが上手くなるかなと思いました(笑)」
――現場で磨かれていったんですね(笑)。セリフはいつもどうやって覚えているんですか?
「自分のセリフがあるシーンを何回も練習して覚えるというよりは、最初から最後までストーリーを読んで、流れを掴むようにしています。セリフ覚えが大変! と思ったことはあまりないです。お父さんが記憶力がいいので、それを受け継いだのかもしれません」
――麻生さん演じる母親・アキも強烈なお母さんでした。
「そうですね。お母さんというよりも、年上の友達という感覚が近いかもしれません」
――そういう関係ってどう思いますか?
「私の母親も、お母さんというより友達みたいな感覚でいるので、こういう関係は素敵だなと思います」
――ちなみに三吉さんの反抗期はもう終わりました?
「今は全くないです。でも撮影当時は反抗期でしたね。今は親元を離れて生活しているので、そういう環境になると自然と反抗期はなくなるのかもしれません」
――家族の話だけでなく、友情もこの映画では描かれています。ハツキとトモちゃん(能年玲奈)のふたりの関係性もよかったです。
「ありがとうございます。この映画は色んな人に共感してもらえる映画だと思うし、改めて自分の大切な人の存在に気づける作品だと思うんです。それが家族であったり、友達であったり、恋人であったり…。だから劇場で観る時は、自分の大切な人と一緒に観に来て欲しいですね。親の立場から、反抗期の中学生の目線から、友達の目線から…色んな視点で楽しめると思います。笑えるところもあるし、泣けるところもあるし、音楽のシーンも見応えがあるし」
――ヤグとアキのライブシーンは盛り上がりますね。このシーンの撮影現場に、お邪魔させて頂いたんですよ。
「ほんとですか? どうでしたか?」
――小さなライブハウスだったので、熱気が凄かったです。三吉さんもステージに立って歌ってらっしゃいましたけど、気分はいかがでしたか?
「パンクを聞くことがないので、めちゃくちゃ楽しかったです。洋楽はよく聞くので、こういうノリのいい感じの音楽って素敵ですね。ここまでパンクロックな衣裳も普段着ないので、とても新鮮でした」
――普段はどんな音楽を聴くんですか?
「リンキンパークやLMFAOが好きです。あとはK-POPも聞きます。日本の曲だとバラードをよく聞きますね」
――リンキンパークはヘヴィな音で、パンクロックと通じる部分もありますね。
「ロックだと、あとはメタリカにも興味があります」
――メタルも興味があるんですね。結構古いバンドですけど。
「同世代の子が聞かない様な曲を聴くことが多いんですよ」
――放送中のドラマ『結婚しない』では大学生の役をやってらっしゃいますし、16歳よりずっと大人っぽく見えますよ。
「サバサバした性格なので、友達と話す時もあまりキャピキャピはしゃぐことが少なくて(笑)。だから実年齢より大人っぽく見えるのかもしれません。こういう性格だから、明るくてテンションの高い役は結構苦戦してしまいます。自分では凄く笑ってるつもりでも、周りから見たらそんなに笑ってなくない? みたいな…。テンション上げて演じていても、“もうちょっと上げてみよう”って言われることが多いので、明るい性格や元気な役は、今後の課題です。ミステリアスな役やクールな役のほうが得意だったりします」
――自分と違うキャラクターを演じてみたいという気持ちはありますか?
「やりたい……です」
――ためらいがありましたよ(笑)!
「やりたいんですけど、今はまだその殻を破れていないというか。まだ弾けたりする演技が恥ずかしい部分があるんです。弾けた役とクールな役の選択肢があったら、クールを選んでしまうかもしれない。でもほんとは、今のうちに苦手なことにチャレンジするべきですよね。私は将来、海外で活躍することが夢なんです。だから苦手なものを克服して得意にしておきたいです。海外に行ったら色んな壁に立ち向かわなければいけないので、今、苦しいことをやっておかないと」
――海外ではどんなことに挑戦したいですか?
「演技だけでなく、歌もモデルの仕事も好きなので、色んなことに挑戦したいです。でもそのためには、日本できちんと評価されないといけません。評価されることって、凄くありがたいことだなと思います。自分の立ち位置がわかるって凄いことだし、ライバルがいるっていうのも楽しい。海外に出た時に、自分はどういう評価をされるんだろう? と興味があるので、いつかは海外でお仕事をやってみたいです」
――凄くタフな方って言われませんか?
「よく言われます」
――評価されるのが楽しいと言い切れるところが勇ましいと思います。周りからどう思われているのか“ちょっと怖いな”と思うことはないんですか?
「最初はそう思っていた時期がありました。周りの声が気になって、自分の出ている番組も見たくなかった。イベントやファッションショーでも、歓声が凄く気になりました。人気の子は凄く大きな歓声が聞こえるけど、自分は歓声なんて聞こえないんじゃないかとか…。でも、そういう周りの反応が、イコール“自分の実力”なんだと考えるようになったら、評価されるためにやるしかないです。そう思えるようになったら、周りの評価が凄く楽しみになりました」
――凄い!
「それが楽しいから、今のお仕事をやっているんだと思います!」
――そういう心持ちは、現場を重ねていくことで培ったんでしょうか?
「そうですね。先輩達の姿を間近で見たりすることで、こう思えたんだと思います。今のドラマでは、天海祐希さんや菅野美穂さん、玉木宏さんと共演させて頂いていますが、第一線で活躍されてる方々の考えは、やっぱり凄いです。たくさん盗んでいかなきゃ! と思います」
――今、若い世代の俳優さんの活躍も凄いですよね。『グッモーエビアン!』では、同級生役に能年玲奈さんがいらっしゃいます。能年さんは朝ドラのヒロインにも抜擢されて、たくさんの作品で活躍されています。先程、ライバルがいると楽しいと話されましたが、同年代の女優さん、俳優さんの演技を見て刺激になることはありますか?
「能年さんと一緒になったのは、今作で3回目。プライベートでも遊んだりする仲なので、ライバル意識は全くありません。でも、周りの同年代の役者さんの演技を見るのは刺激になります。ただ、そこから盗もうと思ったり、こういう演技を参考にしようと思うことはないです。それは悪い意味じゃなくて、みんなと違う演技のままでいいなと思うから。個性みたいなものは残していきたいなと思っています」
――人は人、自分は自分?
「はい。今は寮生活していて、自分の部屋にテレビがないんです。なので“最近このドラマ見てる?”と言われても、わからないことが多いです(笑)」
――ははは(笑)。そういえば、三吉さんのブログを拝見したのですが、公式プロフィールの写真がとても若くてびっくりしました(笑)。
「あの写真は凄く前に撮ったものなので(笑)。私、昨日ブログの最初の記事を読んだんですが、その時の写真が凄く幼くてびっくりしました。“若っ!!”って(笑)」
――『グッモーエビアン!』の三吉さんと、今の三吉さんでも顔つきが違うような気がします。
「自分で観ても、幼いって思いました。そういう意味ではこの1年で自分も成長したのかな…? 成長していると嬉しいですね」
原作/吉川トリコ『グッモーエビアン!』(新潮文庫刊)
監督/山本透
脚本/鈴木謙一 山本透
音楽/葉山たけし
出演/麻生久美子 大泉洋 三吉彩花 能年玲奈 竹村哲(SNAIL RAMP) MAH(SHAKALABBITS) 塚地武雅(ドランクドラゴン) 小池栄子 土屋アンナ ほか
配給/ショウゲート
元パンクバンドのギタリストだったアキ(麻生久美子)と娘である中学生ハツキ(三吉彩花)は、親友のように名古屋で暮らしていた。そんなある日、アキのバンドでボーカリストをつとめ、かつての恋人(?)だったヤグ(大泉洋)が、海外放浪の旅から帰ってくる。アキとヤグとハツキは、昔のように何事もなく仲良しな生活を始めるも、ちゃんと働かずに能天気に暮らすヤグに対して何も言わないアキに、ハツキはイライラし始める……。
2012年12月15日全国公開
http://gme-movie.com/
(C)2012『グッモーエビアン!』製作委員会