プラスアクト

インタビュー

中島歩   (なかじま・あゆむ)

1988年生まれ、24歳の中島歩。以前はモデルをしていたが、役者一本に絞り模索する中、5年ぶりに再演される舞台『黒蜥蜴』の雨宮潤一役を射止めた。オーディションで約200人の中から同役をつかみ、主演・演出・美術・衣裳の美輪明宏からは「私の若いころに似ている」と評された。あまりにも未知数の中島だが、今、どのような心境で稽古をし、本番を迎えようとしているのか。役者になるまでのことから今後のことまで訊いた。

撮影/吉田将史 文/今津三奈

プロフィール 中島歩(なかじま・あゆむ)


1988年10月7日生まれ、宮城県出身。舞台『黒蜥蜴』で役者デビューする。趣味は落語、釣り、写真、ギター。

――インタビューを受けるのは何回目ですか?

「俳優になる前はモデルをしていたのですが、その時にインタビューを受けたことはありませんでした。だから上手くお話出来るか不安ではありますが、お手柔らかにお願いします。(プラスアクト本誌をめくりながら)あ、池松(壮亮)君だ! 学生時代の後輩の友達なんです」


――もしかして、学校は日芸ですか? 中島さんは何を勉強していたんですか?

「僕は文芸学科でした」


――モデルをしていた時にモノ作りに興味を持ち、俳優になろうと思ったという記事を見ました。

「モデルは俳優になるための足掛かりになればと思って始めました」


――初めから俳優になるつもりだったんですね。俳優になろうと思ったきっかけは?

「人前で表現すること、自分の身体を使って表現をすることに居心地のよさを感じていました。出しゃばりだったこともあると思います。だから、学生のころから高校でバンドや漫才をやりました」


――漫才?

「はい。その流れで大学では落語研究会に入って落語をやっていました。身ひとつで喋り、そこにリアクションがあって…ということに快感があって。元々映画は好きで観ていましたが、大学に入ったら演劇好きの人が周りにたくさんいて、刺激を受けて色々な芝居を見るようになりました。そこから芝居も体を使った表現のひとつだと思って勉強し始めたんです。人と一緒にやることで、ひとりでは生まれないことが起きたりしますし、自分の考え通りにいかなかったり、相手がいることによって思いつかないことが生まれたりすることに刺激を感じました。更に映画も演劇も本数を観るよにうなって、どんどん好きになりました」


――表現することが好きで、ジャンルにこだわらず、バンド、演劇、落語をやっていた訳ですね。

「小説を書く学科なので、小説を書いたりしました。物を書いたり、楽器で自己表現をするって、凄くかっこいいと思うんですけど、僕はそんなに器用ではないので、テキストがあって、その役になって自分の身体と言葉を使うことのほうに、フィットした感じがしました」


――表現することにこだわっていたのは、子供のころからですか?

「多分、色々な作品から影響を受けたからだと思いますが、根本では自分の中か表現したいという気持ちがったのだと思います。何かを表現している時が一番生き生きしていると自分でも思いますし、子供のころからそうだったと思います」


――その流れで、大学で文学を勉強した理由は?

「高校の時に評論を勉強するようになり、受験で必要な論文を書くうちに、書くということは考えることで、そこに面白さを強く感じたんです。何かの小説にほれ込んだというよりも、理論的に考えて書くことが面白かったです」


――学校はたくさんありますが、中でもでも日芸を選んだのは?

「元々僕は教師になろうと思っていて、教育学部に行くつもりだったのですが、それだと先生にしかなれないよと親に言われたんです。確かにそうだな、じゃあ、ほかに好きなのは何かなと考えた時に“書くこと”だと思って。ちょうどそのころラジオを聴いていて…」


――ラジオですか?

「中学のころから深夜ラジオの『オールナイトニッポン』や、爆笑問題さんの『JUNK』を聴いていて日芸という学校があることを知り、調べたら文芸学科もあったので受験しました」


――爆笑問題さんがきっかけで進路を決めたんですか!

「本当は別の学校に行きい気持ちもあったんですが、実は日芸だけ合格したというのもあるんですけど」


――結果的には、ほかの大学の文学部に行くより違った経験が出来そうですよね。

「違ったと思います。相当色々な刺激を受けました。変わった人がたくさんいましたし」


――ジャンルは様々だけど、表現意欲のある方が溢れてますものね。

「色々な学科の人と関わりがあるので、様々な刺激と吸収がありました」


――お話を聞いていて、中島さんの興味を持つものが多岐に亘っていますが、俳優はその中のひとつですか?

「いえ。一番の目標は、お芝居、役者をやるということです」


――今24歳ですが、すぐに落語の芝居が出来る人は少ないでしょうし、楽器を経験がないと構えるポーズもサマにならないけど、すでに色んな引き出しあるように感じます。

「そんなことはありません。今、『黒蜥蜴』の稽古中ですが、美輪(明宏)さんから『あなたには、何もないのね』とずっと言われています。私はチャンバラもパントマイムも日舞も全部やってる。あなたには何かないの? と。『落語はやってましたが…』と言ったら、『落語をやっているなら、もっと色々な声を出せるでしょ』と。だから、もっと色々なことが出来るようにならないといけないと思っています」


――舞台『黒蜥蜴』のお話が出ましたので、そちらについても聞かせて下さい。この作品はパルコ劇場40周年記念公演ですし、江戸川乱歩原作、三島由紀夫脚本、美輪明宏さん主演且つ演出・美術・衣裳という大きな舞台です。この作品に新人ながらオーディションで雨宮潤一役に選ばれました。どんなオーディションだったのでしょうか?

「まず『おはようございます!』と姿勢よくいい声で挨拶をしました。すぐに、この役はこういう状況です。ではやってみましょう! となって、本読みをして終了でした」


――セリフの分量としては、どのくらいのボリュームだったのでしょうか。

「第二幕の黒蜥蜴との出会いを追憶する場面です。それほどのボリュームではありませんでした」


――そのほかに面接などなかったんですか?

「ありませんでした。10分弱くらいの時間だったと思います」


――手ごたえはありましたか?

「手ごたえというより、やれることはやったという感じでした。もっと色々聞かれるつもりだったので、ちょっと肩すかしだったところもありましたが、ベストは尽くしました」


――その時の審査員に美輪さんは入っていたんですか?

「はい。美輪さんとあとは劇場の方がいたのは憶えています。テアトル銀座が会場だったのですが、当時公演中だった美輪さんへのお花がうしろにバーーッとたくさんあって。野田秀樹さん、及川光博さんなどから届いていて、“うわー、凄いなぁ”と思った記憶があります」


――結構余裕だったんですね。

「いえいえ、でもちょっと見ちゃいました」


――そういう時にあがらないんですね。

「あがっていたと思いますが、でもガチガチになるという感じではなく、ある程度は落ち着いていたと思います」


――では、決まりましたと通知がきた時は?

「嬉しかったですね。“キターっ!”という感じでした。でも実はオーディションの前にこの役がやれるのではないかと勝手に思っていたところがあったんです。役を自分でイメージ出来ていたし、モデルを辞めて俳優一筋で行こうと決意し、これをきっかけに人生を変えられれば思ってました。だから凄く嬉しかったです」


――この役は去年の暮れに決まって、お稽古が始まるまであまり時間がありませんでしたが、どんな準備をしたのでしょうか。

「美輪さんから、『この身体だと舞台に立った時に消えてしまうから身体を大きくして』と仰っていたので、まず体力をつけて肉体改造を始めました。本当は芝居に必要なお稽古ごともしたかったのですが、まずは身体作りの部分を優先しました。それからセリフを全部入れて、美輪さんの世界観を知るための映画を観ました」


――それは、美輪さんから勧められた映画ですか?

「美輪さんの著書に書かれていいるお勧め作品です。稽古が始まってからは、もうちょっとやっておけばよかった…ということが結構あります。それは映画の本数の面もですし、日舞だったり…」


――日舞の作法を求められるシーンはありますか?

「立ち方や仕草でそう思います。今は本当に手取り足取り美輪さんに教えて頂いています」


――『黒蜥蜴』の台本を読ませて頂いて、言葉が凄く難しい上に膨大で、これをセリフとして喋るのは大変だと思いましたが、文学の勉強の延長だとすんなり馴染めるものでしょうか。

「僕のセリフは直接的な言葉が多いのですが、黒蜥蜴(美輪明宏)や明智小五郎(木村彰吾)のセリフはレトリックが効いているので、最初はセリフを聞いても“何を言っているんだろう”と思うことがありました。でも、美輪さんが本読みの時に例えば、ピストルは男性器の意味だとか、クロロホルムという言葉は、女性の笑い声のコロコロコロという音に近づけた言葉だとか、どういう意味なのか細かく教えて下さいました。そして、稽古しながら理解をより深めていくという感じです」


――その説明を受けていなかったら、セリフの言い方が違ってきますね。

「本当にそうだと思います」


――美輪さんの演出は、どんな感じなのでしょうか?

「それまでの人生をどう生きて生活し、その上で今ここにいるということ。その人の心が動いて喋っているということがどういうことなのか。それが出来ていないとビシッと言われます」


――かなり厳しい?

「段々と厳しくなってきました。先程言った感情の部分ほ土台として作り上げ、その上で言葉や動きなどを綺麗に見せていく作業をしています。長いセリフだと、同じメロディーにならないようにとか、声の大小、高い、低いを使い分けないといけないのですが、普段の僕は単調に喋ってしまいがちなので…。僕が出来ないことで、演出が変わったりするとショックです。もっと声をコントロール出来るような練習もしておくべきでした」


――自分ではもっと出来るつもりで挑んだけど、やってみたら足りない部分が見えてきた感じですか。

「ふたを開けないとわからないことだとは思うんですが、足りないものだらけで、もっと準備をしておきたかったです」


――アドバイスは台本に書き込んでいくんですか?

「かなり書き込んでいます。役のバックグラウンドなどは別のノートに書いています。それから、情景をセリフで伝えなければならないので、どういう部屋に住んでいるのかなども美輪さんに教えて頂き、生い立ちなども更にイメージを膨らませて書き込んでいます」


――疑問に思ったことは自分から美輪さんに聞きに行くんですか?

「レッスンを受けたこともあったので、ある程度の用意は自分でしますが、でもまだ足りない部分があって、言葉だけになっている部分などは美輪さんから『情景が見えてるの? 見えてないでしょ』と指摘を受けます。台本を見てセリフを覚えないで、言葉を聞いて覚えることが大事だとも最初に仰っていました」


――日々美輪さんから色んなアドバイスがあると思いますが、今の時点で一番心に残っていることはなんですか?

「波瀾万丈な人生を生きてきている雨宮に対して僕は平凡な人生なので、それを指摘されたことです。『本当にあなたは健やかに育ったのね』と。だから、もっと映画を観たり、この場所がどういうところなのかイメージを広げています。だから、今日はこれから初めて雨宮が生まれ育った山谷に行こうと思っているんです」


――美輪さんは名言の宝庫のような方だと思うのですが、だからこそ、その中で最も心に残る言葉は相当言葉だと思います。これまでに何かあれば教えて下さい。

「この一言! みたいなお話出来るといいのですが…。なんでしょうか…。美輪さんの言葉は僕の中で血肉化はしていると思うのですが、これだ、という言葉となるとまだ自分の生化で整理出来ていません」


――言われた状況にもよりますし、終わったあとに気付くことかもしれませんね。

「そうですね。色々な言葉を頂いています。稽古での美輪さんと僕の関係こそが、『黒蜥蜴』だと思うんです。稽古で苦しかったりすることは、雨宮に反映されていくし、美輪さんから指摘を受けたことや、よかったと言われて一喜一憂するのが、そのままこの役に生かせたらと思うんです。美輪さんもそうして下さっているんだと思います」


――まもなく舞台が始まります。もうあまり日にちがありませんが、どんな心境でしょか。

「楽しみです。楽しい人物の役ではないので、つらいけれど、ワクワクしています。自分が想像出来ないような人数のお客様の前で芝居するのも初体験ですし、それを最大限に楽しむためには、今はつらいことにも向き合い、苦しいことを掘り下げていくべきですし、その作業を怠らないように、役に向き合っていきたいと思います。一方で、こんなことを言ってますが、“その程度か!”と思われる可能性もあるので怖さもあります。今は稽古場では敢えて誰とも喋らないようにしています。『おはようございます』『お疲れ様です』とセリフくらいでしょうか。芝居が慣れ合いにならないよう、美輪さんが最初に飲みに行くのは禁止、打ち上げもやりませんと仰っていたのですが、役としても黒蜥蜴から溺愛されて周囲から嫌われる面があるので、敢えて今回は稽古場ではひとりでいるようにします」


――俳優としての初仕事が舞台となりましたが、今後はどういう表現をしていくのでしょうか。

「色々な表現がしたいです。特に舞台は演技の種類が多い気がします。小劇場なども観に行きますが、演出家ごとに世界観が違うので勉強になります。そういうものにチャレンジしたい。野田秀樹さん、長塚圭史さんなどとご一緒出来たら嬉しいです。まだ経験はありませんが、映画にももちろん挑んで行けたらと思っています」


舞台『黒蜥蜴』

原作/江戸川乱歩
脚本/三島由紀夫
演出・美術・衣裳/美輪明宏
出演/美輪明宏 木村彰吾 中島歩 義達祐未 白川和子 若林哲行 ほか
会場/ル テアトル銀座
日程/4月5日(金)~5月6日(月・休)、5月~6月に地方順次公演
公式HP/http://www.parco-play.com/web/page/information/kurotokage2013/

(C)御堂義乗

2024年03月
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