人気ファッション誌『non-no』の専属モデルを務め、女優としても着実にキャリアを積み重ねている竹富聖花。土橋真二郎のヒット小説を『DEATH NOTE デスノート』シリーズの金子修介が監督を務め実写化した『生贄のジレンマ』では、究極のサバイバル・ゲームに巻き込まれ翻弄されながらも、篠原純一(須賀健太)に一途な恋心を寄せるヒロイン鈴木理香を演じている。あらゆる感情が入り混じる恐怖の塊のような作品に彼女はどう向き合ったのだろうか?
撮影/吉田将史 文/武田理沙
――『生贄のジレンマ』の台本を読んでどう思いましたか?
「台本は、オーディションの時に全部読みました。その時思ったのは…最後に、このジレンマゲームが始められた理由が明かされるのですが、その事実を知って、“もしかしたら、現実世界でも、いつかこういう残酷なゲームが起こってしまうのかな?”という風に感じました。本当に先のことだと思うんですけど」
――台本を読んで、そこまで想像してしまったんですね。
「台本を読んで、実際に今問題になっていることが書いてあったので、他人事ではないなと思いました」
――では、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
「撮影をしている時は、ずっと叫んだり、恐怖で怯えているシーンが多くて、ホラーチックになっているのかなと思ったんですけど、自分が参加していなかったシーンも全部合わせて観たら、予想以上に学園ドラマっぽく仕上がっていました。ジレンマゲームのストーリーだけではなく、ほかに清野菜名さん演じる涼子と木ノ本嶺浩さん演じる氷山のストーリーだったり、若菜(島村舞花)と太郎(小野賢章)のストーリーだったり…。一人ひとりのストーリーがたくさん描かれていて、三部作なので長く感じるかなと思ったのですが、あっという間でした」
――竹富さん演じる鈴木理香については、どのように思いましたか?
「鈴木理香は、ジレンマゲームが始まってから、みんなの前で『こうしたほうがいいんじゃない?』って意見を言う子なので、クラスの中心人物なんだなと感じました。あとは、篠原(須賀健太)への恋心が彼女のストーリーの中心かなと思いました」
――そうですね、彼のために動いているという部分を強く感じました。
「篠原のために、クラスを動かして、制限時間内にクラスの中から生贄を決める投票も動かして、理香は篠原のことが大好きなんだなって思いました(笑)」
――その理香を演じるに当たって何か役作りはされましたか?
「事前に何かをしたというより、現場で金子監督や周りのキャストの方達と一緒にこのシーンはこうしたほうがいいんじゃないかって話し合って役を作っていった感じです」
――竹富さん自身と鈴木理香の共通点とか、何か似ているなと思う部分はありましたか?
「作品では、あまり理香の普通の学校生活が描かれていないので、普段どうしているのかは、想像でしかないのですが…。ジレンマゲームの中での様子を見ても、学級委員っぽい、リーダーシップのある子なので、そういう部分は自分とはちょっと違うのかなって思いました。私は、リーダーシップをとるというよりも、仲良しの子達とみんなで楽しいことをしている感じのタイプだったので」
――もし、竹富さん自身がこのジレンマゲームに巻き込まれたら、どんな行動をすると思いますか?
「多分、理香みたいに前に出てクラスを引っ張るというよりも、あんまり目立たないようにしていると思います(笑)。もし、自分が通っていた高校のクラスで、ジレンマゲームが起こったら…多分全滅してしまうかも。それに、実際に起こっても信じられないです」
――なるほど。理香は凄く正義感のあるようにも見えました。
「理香はもう正義感の塊ですね(笑)。それも、篠原のための正義感って感じですよね。でも、こういう子ってクラスに必ずひとりはいるなって思いました。学園ドラマって色んなタイプの子がいるじゃないですか。そうすると、中学の時のあの子に似ているなと、例えたりしちゃいます。なので、理香も、中学、高校時代にいたあの子かな? という感じで似ている子を参考にしていました」
――そういったことも参考にしつつ、役を作っていったんですね。先程、個々のストーリーがあると仰っていましたが、理香は篠原との関係がひとつの見所かと思います。その中でも篠原と涼子の過去を知って涙を流すシーンが印象的だったのですが、このシーンはどのような気持ちで臨まれていたのでしょうか?
「…好きな男の子にフラれたことを想像しながらかな? 自分の好きな男の子のことなのでショックじゃないですか。…でも、あの時は、その場で自然と涙が出てきました」
――須賀君と共演してみていかがでしたか?
「須賀君は、凄く足が速いっていう印象が強いです」
――足が速い!?
「凄い、ワ―って走っていくんですよ。校庭とか廊下、階段とか、とにかく一緒に走るシーンが多かったのですが、早いから追いつけなくて(笑)。なので、足が速いんだなって印象があります」
――お芝居の面ではどうでしたか?
「作品はこのような雰囲気ですけど、現場はみんな優しい方達ばかりだったので、カットがかかってからの待ち時間とかは、みんなで一緒にお菓子食べたりしてました」
――同年代の共演者が多い現場だったと思いますが、あの殺伐とした雰囲気のシーンを撮っている合間は、和気藹々とした雰囲気だったんですね。
「でも、教室のシーンでは、死ぬ練習をしている子が多かったです」
――死に方が凄くリアルでしたよね。
「そうなんです、凄くリアルで…。最初の方に本田と相沢のふたりが同時に死ぬシーンのがあるのですが、その時に相沢役の南羽(翔平)君が『どうしたら気持ち悪く死んでるように見えますか』って…」
――聞かれたんですか?
「聞かれたんですよ。なので、やっぱり普通に目をつぶっているより、目を開けて上を向いて白目を出していたほうが気持ち悪いじゃないですか。なのでそのことを伝えました。そうしたら、『こうですか? こうですか?』ってやって見せてきてくれたんです(笑)。そのシーンで南羽君がクランクアップだったんですけど、終わったあとに『気持ち悪かったですか?』って聞かれて、『気持ち悪かったです』って答えました」
――凄いですね(笑)。そういえば、この作品には生贄が飛び込む穴がありますが、あのシーンは、どのように撮影をされてたんですか?
「飛びこむ穴は、実際に広い土地の一角に深さ5メートル近い、凄く大きな穴を掘ってくれたんです。その穴の底にマットを敷いて、本当にみんな飛び込みました。あの穴の中から撮影しているシーンもあって凄く深い所から撮っているように感じますよね。あれはカメラの映りでそう見えるんですよ。でも、校庭の穴はCGなんです」
――そうだったんですね。
「校庭での撮影は大変でした。リハーサルまでは目印があるんですけど、本番になったらはずしてしまうので、穴の位置がわからないんです。『これ以上前に行くと落ちちゃうよ!』とか『落ちてるよ!』ってみんなで意識しながら撮影しました」
――穴に飛び込むシーンはみんな実際に穴に落ちているんですね。竹富さんは高い所は苦手ですか?
「私は、高いところが好きです。でも、高い所が苦手な人もいて『もういやー』って、女の子は怖がっていました」
――ほかに撮影中に印象的だったことはありますか?
「印象に残っているのは、監督が現場で『今度はこのセリフを入れて』というつけ足しが多かったことです。映画を観てみると本来なかったセリフが随所で出てきます。例えば、竹内寿君演じる東出とケンカをするシーンでは、いきなりバレンタインの思い出を話すんですよ。あのセリフはもともと台本にはなかったのに、急に現場で『はいどうぞ』って紙が渡されて…。『お前昔チョコくれたよな』なんて、こんなケンカしてる時に言うことなのかな、こんなこと言っちゃって大丈夫なのかなって現場の時は思っていたんです。でも、出来上がった作品を観てみたら、意外と馴染んでいて、“こういうやり方もあるんだ”と思って新鮮な気持ちになりました」
――最初からなかったセリフが作品の中にいくつかあるんですね。
「そうなんです。<上>で生贄となる男の子が飛び込むシーンがあるんです。飛び込んだあとに、女の子が『好きだったのに!』って叫ぶんですが、あのセリフも台本にはなかったので、完成した作品を観て、初めて知りました」
――あのシーンには理香はいませんでしたよね。
「そうなんです。完成した作品を観ると、台本と違うセリフがいっぱいあって楽しいなと思いました」
――そういう咄嗟にセリフの変更があったりするのは結構楽しめるほうなんですね。慌てたりしないんですか?
「楽しめるほうなんですけど…でも覚えるのが大変でした(笑)」
――金子監督から何かアドバイスなどはありましたか?
「普段撮影をしている中で、『こうしたほうがいいよ』といった具体的なことはあまり仰らないんです。でもたまに、ボソボソッと(笑)。それが結構自分の中で、なるほどって思えるようなことだったりしたので、監督が言うひと言を聞き逃さないように必死でした」
――例えばどのようなことを監督は仰っていましたか?
「クラスメイトが『私達、穴に飛び込むから』と理香に伝えて去っていくシーンで、理香が『行かないで』って言うんですけど、そのシーンで監督が『足を開いたほうがかっこよく見えるな』ってボソッと呟いたんです。それで“確かに”と思って。そういったボソッと仰るひと言を逃さないようにしていました」
――そういった一つひとつの動きから理香が現場で作られていったんですね。
「でも、本当に大切なシーンとかは一緒にリハーサルの時からいっぱい話し合いました。例えば、篠原と理香がふたりきりになるシーン。ここでは恋愛的要素がメインだから、これまでのくだりとは違って、今までの篠原への思いとか、あまり見せなかった不安な部分とかも全部現わすようにとか…」
――そうですよね、ずっと気丈に振舞っていたけど、ようやくふたりになって気をゆるませるシーンですよね。
「そういうシーンの時は監督と話し合ったりしました。今思うと、結構話し合っていたかもしれません。あと、カメラマンさんからもアドバイスを頂きました」
――例えばどんなことですか?
「映り方とか、『下を向くよりも少し上を向いた方が、いい光が入るからいいよ』といったお芝居だけではなく、立ち振る舞いとかも勉強出来る現場でした」
――この『生贄のジレンマ』は、<上><中><下>からなる三部作からなる作品ですが、撮影期間はどれくらいかかったんですか?
「<上><中><下>全て一緒に撮影しました。3週間で撮ったんです」
――結構タイトなスケジュールだったんじゃないですか?
「あまりそうは感じませんでした。そんなに大変だったとか、眠かったとかは感じなかったです」
――こういう怖いシーンが続くような作品の世界観にずっといても役に持っていかれるということはないんですか?
「全然平気でした。切り替えが得意なほうなので」
――そうなんですね。
「普段は、作品について考えていないのかもしれません。現場に入っても、メイク中とかにはあまり考えないし、本当にその現場に行って、周りにカメラがある環境で、リハーサルとかが始まってから、作品のことを考えることが多いです。役も作り込んで行ってしまうと、現場で対応出来なくなると思っていて。その場で何があるかわからないし、自分が作っていってしまうと、言われたことに対して対応が出来なくなってしまいますので…」
――今回は卒業を控えた高校生の役でしたが、竹富さんは今年高校を卒業されましたね。卒業されてお芝居やお仕事に対するスタンスは変わりましたか?
「考え方が変わったというか…。高校の同級生達が将来の夢のために専門の勉強をしている子が周りに多いんです。そういう子を見ていると、自分ももう社会人だし、頑張らなきゃいけないな。自分に責任を持って一つひとつのことに取り組まなきゃいけないんだなって、周りの子から実感させられました」
――竹富さんはモデルのお仕事もされていますね。そのモデルとお芝居のお仕事で何か違いはありますか?
「女優の仕事は、その作品ごとに撮影期間が限られているし、色んな人に会えるじゃないですか。ひとつの作品が終わったら、また違う作品の環境があって…。多分普通に生活していたら、こんなにたくさんの人に出会えないと思います。しかも役者さんや、監督さんを始め、自分とは違う考えを持った人がたくさんいて、話してみて、こういう考えや見方があるんだっていうことがわかったりする。いい考えや、いい所を真似しようと思ったりするので、人間としても勉強になって、一つひとつの現場が凄く楽しいです。モデルは、自分がもともとメイクとか洋服とかが好きなので、やらせて頂けてとても楽しいです」
――写真を撮られることと、映像を撮られることでの意識の違いはありますか?
「モデルの仕事でも、その洋服に合わせた表情とかを演じているというか…。例えば今日の衣裳だったら、キャピキャピと元気にしているよりも、“澄まして大人っぽく”と、自分でテーマを考えて撮影をしているので、そういう意味では根本は同じなのかなと思います。なので、これからもお芝居と、モデルの両方とも続けていきたいです」
――今後のご活躍が楽しみです。では、最後に『生贄のジレンマ』の見どころをお願いします。
「この『生贄のジレンマ』は三部作なので、<上><中><下>の全てを見て頂きたいです。ホラー的な要素もあるけど、学園ドラマや、恋愛ものも入っていて、ジャンルにとらわれていないんです。ホラーが好きな人でも恋愛ものが好きな人でも、年齢層に関係なく、楽しんで頂ける作品だと思うので、たくさんの方に観て頂きたいです」