2008年のデビュー以来、ドラマ、映画、舞台と、とにかく出ずっぱり。その間も背はぐんぐんと伸び続け、現在182センチ。表情もキリっと引き締まってきた入江甚儀。写真撮影の時、様々な指示を出すカメラマンの要求に対し、迷うことなく瞬時に応じ、表情のバリエーションの多さに驚かされた。よく考えながらインタビューに答える彼が、役者という仕事にどう向き合ってきたのか。どう変化していったのか。デビューから最新のスペシャルドラマ『おじいちゃんは25歳』までの話を聞いた。
── デビューから2年半。とっても濃い毎日だったと思います。自分で事務所に応募して、所属が決まった3日後に初仕事のドラマ『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット』が決まりましたね。応募する前、今の状況を想像していましたか?
「軽い気持ちで応募したし、わりと簡単に活躍出来るんだろうと思ってました。だから、お仕事が決まった時も、"こんなものなのかな"という感覚でした」
── 普通はこんなもんじゃないんですよ。
「そうですよね。でもその時は、"あ、芸能界入ったら、すぐにドラマに出られちゃうんだ"って思いました。もちろん、今はそのありがたみがよくわかっています」
── 小さい頃からテレビに出たいと思っていたのでしょうか。
「思ってました。芸能界も含めて色々と夢がでかかったんです。カーレーサーにもなりたかったし、マンガ家にもなりたかった。で、一番最初にたどり着いた仕事が芸能界の仕事です」
── カーレーサーもマンガ家も、役者の仕事とはかなり違いますが…。
「カーレーサーは、『劇走戦隊カーレンジャー』という戦隊もののテレビが好きだったので、それに影響されてなりたいと思って。マンガ家は絵を描くのが好きだし、マンガが好きなので」
── では、役者はなんでなりたいと思ったのでしょうか。
「元々目立つことが好きで、学芸会があればすぐに主役に立候補しているような子でした。ちょうどその頃にドラマを見ていていたら、同年代の方が活躍されていて。それを見て"悔しいな"と思ったんです。"同い年の人達が出来るなら、僕にも出来る!"という変な意地っ張りなところが出てきて、急にやるぞという気持ちになりました。それで今の事務所に応募することにしたんです」
── 同年代とは、 志田未来ちゃん、神木隆之介君ですよね。今、同じ土俵に立ってみていかがですか?
「初めて会った時は、"あっ、あの志田未来さん、神木隆之介君だ!"と思って、そういう感覚で接したこともありますが、今となっては、同級生だし、友達だったりもするんで、そういう目で見ることはありません。今は友達という感じです」
── 憧れの俳優さんや、好きな作品はありましたか?
「ドラマの『ライアーゲーム』が学校で流行っていて、それを見て松田翔太さんをかっこいいなと思ってました。こういう人になれたらいいな…と」
── 実際、松田翔太さんがいる事務所に入り、翔太さんの後輩になるなんて、凄い夢の叶い方ですね。
「そうなんです。"ついてるな"と思います。1年ちょいで会えてしまいましたから」
── 実際の翔太さんはいかがでしたか?
「役者さんとして、人として確立してるなと感じました。なんか地に足がついているというか。例えば、僕は現場にいてもどこにいたらいいかわからなかったり、どういうふうにスタッフさんやキャストのみなさんと会話をしたらいいかわからないことが多かったんですが、そういう部分が全然なくて。松田さんには引力があって、人がどんどん集まってくる感じで」
── 直接アドバイスをもらったり交流はありますか?
「交流と言えるほどではないんですが、僕が凄く憧れ過ぎて、緊張してる姿を見たマネージャーさんが、ちょっと強引に『翔太君とにらめっこしてもらいなよ』と言ってきて。でもそのお陰でにらめっこをしてもらいました」
── どっちが勝った?
「僕が負けました。目をそらしちゃいました。恥ずかしくて」
── ゲームに負けたというより、気持ちで負けた感じですね。
「そうです。気持ちで負けちゃいました」
── 先輩の速水もこみちさんや、翔太さんと同じドラマの現場を経験しましたが、すんなり溶け込めましたか?
「とっても失礼な話なんですが、僕はあっという間にドラマの出演が決まってしまったので、役をもらえたありがたみが最初はわからなかったんです。それで、わりと軽い気持ちで現場に行ったら、"ああ、これがドラマの現場か…"と。なんの心構えもなく大人の世界を初めて見て、かなりでかい衝撃を受けました。そこから一気に実感が湧いて、呆然としてしまいました(笑)」
── 呆然としながら、まず何を頑張ろうと思いましたか。
「まず、とにかくセリフを覚えることでした。セリフを覚えて言うこと自体、私生活ではないですし、初めてのことだったので。その時はそれが僕の精一杯の努力でした」
── 学芸会では主役でしたが、それとは当然違って…。
「全然違いました。スタッフさんもいっぱいいるし、決まった時間の中でやらなきゃならないし、責任感が全然違いました」
── その後、ドラマは3クール連続出演しました。現場を重ねていくうちに何か変化は感じましたか?
「最初の1年間は役者としての実感があまりなくて。1話の中で、ひと言だけセリフを言って帰るという感じでした。みなさんが1日中仕事をして凄く疲れている中で、僕はひと言のセリフだけが仕事で。軽い気持ちで『みんななんで疲れるんだろう。僕も雑誌の取材をやってきてからここに来てるし、疲れてるんだよ』と軽く言ってた時があったんです。そんな気持ちが一遍したのが、1年後にやったドラマ『恋して悪魔~Vampire☆Boy~』の時。同年代の子もたくさんいて、団結力が凄く大切な現場だったんだけど、そこで同年代の俳優さんと色々と話をしたら、"僕とこんなにも差がついているんだ"ということがわかったんです。それからですね、僕がちゃんと進む方向が見えてきたんです」
── 進む方向とは?
「ここは本当に洗練されてきた人が集まる現場で、僕はその中ひとりとして呼ばれているんです。そのドラマを作る人間として、自分のお芝居を上手くしていきたいと思ったし、ベテランの先輩達と一緒の立場でお芝居をしていきたい。そしてお芝居でぶつかり合いたい。そのためにはもっと成長したいと思ったんです。ここで本当にお芝居が好きになりました」
── では、ドラマのほかに、映画や舞台にも挑戦しましたが、それは入江君の意思だったんですか?
「それは僕が決めたことではないんですが、初舞台が初主演だったんです。まわりはベテランの役者さんばかりでしたし、人前に立ってお客さんの前でお芝居をすることが初めてだったので、がむしゃらでした。でもそこで責任感が学べたし、度胸もついたと思います。」
── 主役の重み、プレッシャーもそこで全て体験したんですね。
「そうなんですが、どちらかというと、僕は主役という意識はあまり持たずにやりました。僕ひとりをまわりが囲むというよりは、みなさんと一緒に舞台に立ってお芝居をさせて頂くという意識で取り組んでいたので。もちろん責任感はありましたけど、舞台は支え合うものだと思っていたので、プレッシャーはそこまでなかったんですが…。この前のドラマ『ハンマーセッション』で、初めて自分の役が中心になる話(9話)があったんです。泣くシーン、怒るシーン、闘うシーンもありました。それぞれの感情から、その役がいい方向に転がっていくということも表現しなくちゃいけなかったんです。大勢のスタッフさん、キャストがいる中、限られた時間の中でやらなきゃならないことが凄くプレッシャーで、喉にこぶが出来ちゃったんです。考え過ぎたらリンパも腫れちゃって、首をまわすと痛くて。そこまでの重みを初めて感じました。だから、この緊張感を1クール、3カ月続ける主役の方は大変なプレッシャーがあり、物凄い責任感が必要なんだろうなと痛感しました」
── その『ハンマーセッション』もデビューの時も、速水もこみちさんが主役でした。お手本的存在でしょうか。
「お芝居は自分だけのものだと思っているので、誰の芝居に似せようとか、全くないんです。自分の中でどんどん積み重ねて、自分にしか出来ないことを見つけていくものだと思っています。もちろん、速水さんは凄い方ですが、憧れや目標とは違います。でも、速水さんは物凄く人を惹きつける力がありますし、僕にたくさん話もして下さります。ドラマの合間に現場で特製料理を作って下さって、クラスのみんなやスタッフさんにも振る舞ったりしていて、人として凄いなとも思いました。そういう部分もなきゃ、3カ月間主役は出来ないんだろうなと」
── 入江君の発言から、ただ"目立ちたい"のではなく、オンリーワンでいたいという気持ちが伝わってきます。
「どれだけ自分を磨いてその場に立てるかだと思うので、お芝居でぶつかりあいたいと思ってます。自分の器が小さければ、プレッシャーで耐えられませんし、本当に器が大きくなきゃ出来ないと思っています」
── 器を大きくするために何か心がけていることはありますか?
「あります。人の嫌味を言わないこと。例えば、"あいつは勉強が出来るけど、それを自慢してるよな…"というところを、"自信があるんだよ!"と思うとか。言うほうも気分悪くなりますし、聞くほうも気分悪くなりますから、そういう部分は大切だなと思いました」
── 昔は結構言ってた?
「つい最近まで言ってました(笑)。今は気をつけるようにしてます」
── 今、11月15日~18日、22日~25日のほぼ8夜連続のドラマ『おじいちゃんは25歳』の撮影中だそうですね。46年前に死んだはずのおじいちゃん(藤原竜也)が、山中で冷凍されたまま発見されて、奇跡的に助かったけど、身も心も25歳のままだという…。入江君はどんな役なのでしょうか。
「藤原竜也さん演じるおじいちゃんは大工職人なんですが、その弟子である轟源太(石橋蓮司)の孫の轟忍役です」
── 凄い格好をしているとの話ですが。
「下町が背景になっていて、かっこうだけはヤンキーで、ジャージ着て刺青を入れたりしているけど、その場に流されてそういう格好をしているだけで、本当は気のやさしいおじいちゃん子です」
── 見た目は普段の入江君と随分遠い役ですが、すんなり演じられるものですか。
「本当に根っからヤンキーではなくかっこうだけなので、着ているもの、髪型などはあまり意識しないで、中身はやさしく演じてます。そういう意味では、僕に若干近いかなと思ってます」
── もうほぼ撮り終わっているそうですね。
「凄くいい現場で。雰囲気もキャストのみなさんも脚本も。何から何までいいんで、終わっちゃうのがもったいない。もうちょっとこの現場にいたかったな」
── その現場にまだいたい理由、もう少し教えて下さい。
「どなたといても凄く楽しいです。みなさん考えがしっかりしていて、お芝居出来ることが楽しくて仕方ないんです」
── 休憩時間はどんなふうに過ごしているんですか?
「みなさん、控え室に行かないんです。空いているスペースに椅子を円形状に置いて、みんなで喋っていて。僕は聞いているほうですね。みなさん、ためになる話をたくさんして下さいます。舞台の話も映画の話も、凄く楽しいです。僕は大人の方と話すのが好きなのもしれませんね。それと、昨日は、車で移動するコーヒーショップを現場に呼んで下さっていて、無料で何倍でも飲めたんです(笑)。僕は藤原さん演ずるおじいちゃんの孫役である大東(俊介)さんと梨ジュースを作るところを見ながら、『半分使うんやなー』なんて話ながら頂きました。
── スタッフの方から、休み時間の入江君はとってもかわいいけど、お芝居になると、大人の顔になってまわりの役者さんに対等にやってる…なんて話を聞きました。
嬉しい限りです。やっぱり、休憩中は気が抜けているし、年下の気持ちで接するので、そういう感じに見えるのかもしれません。デビューして最初の1年は年上の方に対してお芝居に遠慮があったんです。でも、何かに書いてあったんですが、気を遣うことは一番よくないとあって。だから今回も藤原さんがたばこをくわえていて、僕が『ここはタバコ禁止だ!』という場面がありますが、藤原さんが吸っているタバコを思い切って叩くように取りました。遠慮しちゃうと、映像で見てもぎこちなくなるし、逆に相手の方に失礼にもなるので」
── 学業と両立してますが、学校の顔と仕事の顔も違うってことですね。
「どうなんだろう。僕、学校ではあまり話さないんです。聞き役ですかね??」
── では、学校ではどんなことが話題になっているのでしょうか。
「僕も今思い返してみて……何話してるんだろう……。あ、友達にBIGBANGが好きな子がいるんですが、僕は東方神起が好きなので『東方神起がいいよー』とか(笑)」
── 東方神起はどこが魅力?
「音楽のジャンルは色々あるとけど、その中でしたいことが確立しているなと思うんです。本気で筋トレもしてるし、グループのイメージも確立されているんですよね。次のPVも気になるし歌も上手い。とにかく見応えがあるんです。『どうして君を好きになってしまったんだろう』というアカペラの曲があるんですが、それが凄く上手すぎて。中途半端なかっこよさじゃありません。僕は真似はしないけど、エッセンスはほしい。本当にかっこいいと思ってます」
── 自分だけのものにこだわっていますが、随分先まで目標を決めていたりしますか?
「先のことはわからないです。今、目の前にあることを必死にやるしかない。それをやることで、先がどんどん見えてくるのかなと。目標を作ることも大切だと思うんですが、例えば画家さんだったら、1年後にこの絵を完成させようという目標の立て方があるけれど、このお仕事って、1年後にどこまでお芝居が上手くなれるかわからないんです。映画に何本出るという目標の立て方もありますけど、それも違うと思うので。今、頂いた仕事に対してどれだけ真剣に向き合って、そこでまた自分の経験を積んでいけるかが大切だと思ってます」