お笑い芸人が演技に挑む事は、いまや珍しい事ではない。舞台『スピリチュアルな1日』で主役を演じるお笑いコンビ「NON STYLE」の石田明は、09年の「恋愛戯曲」、10年に「Barアンラッキーを不幸が笑う」に続いて、今回が3度目の出演となる。「ホラー風味のヒューマンコメディー」と銘打った本作。石田が演じるのは、フリーのテレビディレクター。この舞台で石田が、お笑い芸人ではない“役者”としての顔を魅せる――。
撮影/柳沼涼子 文/池上愛
── 舞台のお話が来た時のお話を聞かせて下さい。
「昨年の12月23日にさいたまスーパーアリーナで無料のお笑いライブ(『NON STYLE NON COIN LIVE inさいたまスーパーアリーナ』)をやらせて頂いたんですけど、何を間違えたのか、その前日に話を聞きまして・・・。こっちはライブでいっぱいいっぱいなのに、マネージャーが“石田さん、こんな話、来てますけど”って来るんですよ。最初はライブ前日ということもあって、マネージャー何を言ってるんやろと思ったんですけど(笑)。ライブ終わって改めて話を聞いたら、これはありがたいことだなと。お芝居には凄い興味があったし、少人数で行う舞台やから、共演者とも仲良くなれるかなあとか…、とにかくほんま嬉しかったです」
── プロットを読ませていただいたのですが、話の展開が凄く面白いです。
「そうでしょう? しかもね、僕、2~3週間前に脚本の小峯(裕之)さんに会って、プレッシャー与えといたんです。面白いのお願いしますよって。多分、自分の中で出来上がってたプランがあったと思うんですけど、“石田にプレッシャー与えられたわ”って、きっと頭こんがらがってるでしょうね(笑)。それも含めて、凄い楽しみですけど。小峯さんの書いた舞台をふたつ観させてもらったんです。ひとつは伏線を張った繊細かつ大爆笑の『BLACK PEARL』。もうひとつは、展開なんて関係あるか! っていうくらいのパワーで勝負する『ペンシルビルWARS ~眠らぬ街のアツい日~』。このふたつは作風が全然違うので、今回の作品がどう転ぶのかっていうのが、凄く楽しみです。先が読まれへんな~ってわくわくしてます」
── 今回は主役。座長として、みなさんを引っ張っていく立場ですね。
「ほんまはセンターに立つタイプではないんでねぇ・・・。でも若手の三人(青柳塁斗、今井隆文、風間由次郎)は、僕のことだいぶ慕ってくれてますよ」
── もう仲を深めてらっしゃるんですね。
「えぇえぇ。何回もご飯に連れてってですね、お金でつってますんで(笑)。だから三人が僕を慕っている姿を見て、そのほかのキャストさんが便乗してくれればいいかなって思っています。もちろん楽屋に入ってからは、明るい自分を演じていきます。で、舞台で芝居を演じて。帰りは、疲れてるけど疲れてない演技をして、ご飯に誘って。小食やのに大食いの人を演じて……」
── 演じまくりじゃないですか(笑)。
「3人はまんまと騙されてます。凄い明るいお兄さんだと思ってますね、絶対。だから吉本の楽屋に呼んだ時なんか、がっかりしますよ(笑)。“石田さん、めっちゃ無口やん”って」
── ご飯食べながら、どんな話をされているんですか?
「“僕が怒られたら8回は褒めてな”って言うてます」
── (笑)。
「だって失敗怖いじゃないんですか(笑)。でも8回褒めてくれれば、プラス7で帰れますから安心です。」
── セリフ量も多いと聞いています。テレビ局のディレクターですから、もちろん標準語ですよね? 大丈夫ですか?
「いやいや、何言ってるんですか! 僕、役者で呼ばれてるんですよ? ただね、小峯さんに“よろしくお願いしますわ~”って挨拶したら、“関西弁じゃなくて標準語でお願いします!”ってピシャリ言われましたけど(笑)。ディレクターでしょう? 役作りも色々していかないといけませんね」
── 具体的には、どういうプランを考えていますか?
「三井は、フリーのテレビディレクターですけど、そんなに出来るヤツじゃないんです。しかも訳あり物件に住んでる。やっぱコイツにとっては、周囲から忙しくみられたい訳じゃないですか。だから本番当日まで、お風呂入らんどこうかなって。あいつ忙しそうやな~って思うのは、メイクよりもリアルに追求したほうがええと思うんです」
── 共演者やスタッフの方々は、においがきつそうですね(笑)。
「夏目雅子さんが、寝不足の演技をする時は、ほんまに寝ずに芝居に臨むっていう話を聞いたことがありますけど、まさしくそれですよ(笑)。あとは、ディレクターって言えば“ヤニ”のイメージがあるんで、タバコも取り入れようかと」
── おタバコは吸われるんですか?
「いいえ。31歳にしてタバコを初めて吸おうかなと思ってます。でも僕、タバコ吸うと微熱出るんです。だから公演中はずっと微熱持ちです。あとはコーヒーもブラックにします。座長というポジションを保つために、ちょっと甘めからブラックに変えました。それと、不健康さを出すために胃潰瘍になりやすい食べ物ばっかり食べてるんで、胃潰瘍ならではの口臭も出していかんと……」
── ストイック……と捉えればよろしいでしょうか(笑)。
「ミスターストイックと呼んでください(笑)。何事にも作りこまなきゃ気がすまない男なんです」
── この舞台に限らず、もともとそういうタイプで臨まれることが多いほうですか?
「そうですね。自分でやる舞台でいうと、最近は舞台セットの図面も引きますし、進行台本も自分で書いてますね。音も作ったりしてますし、基本やりたがりなんです」
── では、参考になるような舞台を観に行かれたりも?
「舞台は日ごろから観ますね。ヨーロッパ企画さんやら、吉本所属のPiperさんだったり。ピュアボーイズやD-BOYSも観に行ったし、劇団EXILE、まなかなさんの舞台も観に行ったなぁ」
── それは、このような仕事をし出して観る様になったのですか?
「いや、もともと好きでした。18歳の時に板前修業をしていた傍ら、劇団みたいなところにも入ってて。芝居には凄く興味がありました。吉本にもプラン9さんがやってるお芝居を見て、うわ~めっちゃええなあって思っていたし」
── 演じることに興味があるのですか?
「脚本です。演じることは二番目……かな。最初は自分で芝居を書きたいなと思って、芝居を書き出したんですね。ほんで芸人さんに自分の本をやってもらう時に、芸人さんにおいしくない役を回すのが嫌やったんですよ。それでおいしくない役は自分でやることにして。そしたら段々演じることも面白くなっていった。で、次はほかのことにも目がいくようになって。色々やってみるか~っていう。今回の『スピリチュアルな1日』は、自分で何かを作る事もないし、演技だけに集中出来るので、それはそれでいいですね。竜宮城に招き入れてもらったので、あとはそこでどれだけワイワイ騒げるかというか」
── NON STYLEの舞台や吉本新喜劇とは、全く違う感覚ですか?
「いや~全然畑が違います。新喜劇は稽古が多くても4回しかないですから。だから稽古が楽しくてしょうがないんですよ」
── 稽古のどんなところが楽しいですか?
「世界が段々現実味を帯びていく感じ、ですね。稽古を重ねれば重ねるほど、どんどん世界が出来上がる。最初はセリフだけ言ってたものが、次第に動きがついていって、ようやく自分のやりたいものが形になっていきますよね。新喜劇だとここで終わっちゃうんですけど、舞台って、そのあとの世界があるじゃないですか。例えば、こうすると共演者がこう動けるよねとか。みんなが世界を作っていく、固めていく感じが凄く好きです」
── 稽古に臨まれる前に、何か考えていることはありますか?
「セリフをミスった時のごまかし方は、120パターンくらい考えておこうと思います」
── 120パターン考えるほうが難しい気がしますが(笑)。
「いやね、後輩3人がセリフを覚えて稽古初日に臨むって言うんです。でもね、吉本(菜穂子)さんや、菅原(永二 <猫のホテル>)さんらが、初日は台本覚えませんよっていうスタンスの人だったらどうします? それで僕も覚えてたら、アカンと思うんです。せやから僕はうろ覚えでいこうかなと。徐々に掴んでいこうかなと思ってます」
── でも、漫才やコントだって、セリフ覚えるでしょう?
「そうですけど、結構雰囲気で覚えるほうが多いんですよ。セリフが間違ってたって、雰囲気さえあってれば、漫才もコントも成立するんで。あ~そういや、一個思い出しました。前に『恋愛戯曲』っていう舞台に出させてもらったことがあるんですけど、あの舞台、暗転明転が凄く多い芝居だったんです。舞台初日だったんですが、明転した時に、本来おるべきところに僕がおらんで、ひとりだけ全然違うところにおったんです。“あ~いや~いやいやすいませんねぇ”って、ようわからんセリフ言いながらごまかして。あれはやってしまいましたねぇ(笑)。緊張してたんかなぁ。まぁ、そういう経験も踏まえて、今回の作品でひと回りふた回り大きくなれたらいいですね。間違いなく共演者のみなさんは、僕にないものを持ってらっしゃる方ですから。演者さんだけでなく、演出家さんも脚本家さんも・・・みんなのいいところを盗んでいきたいです。逆に、みんなには僕のいいところを持って帰ってもらって。それでお笑いとお芝居のお客さんが入れ替わって、互いの劇場を行ったり来たりするようになれば、それは本当に嬉しいですね」
── 凄く素敵なことですね。
「ほんまにそうですね。あとは、おべっかでもなんでもなく、公演が終わった時に、“もう一回、石田君と仕事がしたい”って言われるような芝居をしたいです。だから、いっぱい保険もかけてますけど(笑)、ミスを恐れずやっていけたらいいなと思ってます。お芝居で、こんな早い段階から色々、取材されたことって今までないんで、凄い壮大なプロジェクトなんだなって感じてますし、素敵な作品に参加させてもらっているんだというのは、日々痛感しています。ちゃんと、やらなあきませんね。まあ、ちょっと気になるのは、この公演前日に、もうひとつ自分の舞台もあるってことですけど」
── ハードスケジュールですね……。
「僕のせいじゃないですよ! マネージメントの問題です(笑)。もう既に変わってしまったので、前マネージャーになるんですけど。最後の最後に、ヤツは爆弾を投下していきましたね」
── ファンにとっては、両方観れるという楽しみもあります。
「ポジティブに捉えればね。ただどんどん疲れていく様も見れるっていう(笑)。とにかく声の調子は絶対に守って。死ぬ気でがんばります。そして、最後に須藤さんにこういわせたいです。“もう少し会うのが早くて、結婚していなかったら、好きになっていました”って!!」
脚本/小峯裕之(2008年テレビ朝日新人シナリオ大賞優秀賞受賞)
演出/板垣恭一
出演/石田明(NON STYLE) 須藤理彩 吉本菜穂子 菅原永二 (猫のホテル) 諏訪雅(ヨーロッパ企画)
公演期間/2011年4月1日(金)~4月3日(日)
劇場名/紀伊國屋サザンシアター
チケット料金/6500円(税込)
チケット取扱い
■ローソンチケット 0570-084-003(Lコード35990)
■電子チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード410-093) http://pia.jp/t/(PC・携帯共通)
■イープラス http://eplus.jp/(PC・携帯共通)
■チケットよしもと 0570-041-489(Pコード:410-095) http://ticket.yoshimoto.co.jp/(PC・携帯共通)
■Confetti 0120-240-540 http://confetti-web.com/
詳しい公演情報・お問い合わせは(http://www.amuse.co.jp/stages/sp/)まで。
※<一部公演中止のお知らせ>
このたび発生しました東日本大震災の影響により、公演の上演に向けて協議、努力を続けてまいりましたが、3月30日(水)19時公演、3月31日(木)15時公演、18時公演の計3公演をやむなく中止とさせていただくことになりました。
公演を楽しみにされておりましたお客様には深くお詫び致します。
舞台機構を含めました全ての劇場設備の点検を行い、その十分な安全性を確認させて戴きまして、4月1日(金)19時公演より上演させていただく予定です。
上記の3公演をお買い求めのお客様には、振替、または払い戻しをさせていただきます。
振替や払い戻し期間等の詳細に関しては公式HPをご確認していただきますよう、お願いいたします。
心霊特集でオンエア予定のドキュメンタリー映像に、急きょ問題が発生。フリーのTVディレクター三井(NON STYLE・石田明)は、マンションに話題の霊能カウンセラーを招き、撮り直しを試みるが、その部屋は格安で賃貸した「ワケあり物件」。撮影した映像を見ると、そこには怪しい人影が・・・・・・。ヤラセ番組のはずが、思わぬ真実味を帯びていく事に。そんな中、来るはずのない訪問者の存在が、自体を思わぬ方向へと導いていき・・・・・・。幽霊を信じる者と信じない者、それぞれの思惑が激しく入り乱れていく。霊をも交えた男女が織り成す、ホラー風味のヒューマン爆笑コメディー。